16.焚き火
夕暮れになり、俺達は食べた物を片付けると小屋の中へ戻った。取り敢えず今日一日だけこの小屋に泊まることにした。
決してトウカによく似たフウカと一緒にいたいとかそう思ってる訳ではない。
「貴方の転移魔術があれば一瞬でしょ?」
「簡単に言うなよ。ザムスガル王国はゲートによる転移魔術が主流だから、個人での転移魔術技術があまり進んでないんだ。そんな中で俺が使えるってバレたら面倒事になるのは必至だろ?」
「ふーん。まぁ確かに便利だけどかなり複雑な術式だしね。確かに誰もが使える訳じゃないから面倒事に巻き込まれるかも」
「だろ」
それから俺は寝袋なんかを出すとフウカに手渡した。
「何よこれ?」
「一緒の小屋で寝るのは嫌だろ? 俺は寝れそうにないし小屋の外で見張りでもしてるよ」
何を見張るのかは知らないけど…
そう言って俺は外に出て、薪を取り出すと適当に地面に置いて火魔法で火をつけた。
♢
外は完全に暗くなった。
村の灯りもポツポツと次第に消えていった。
火を見つめながら大きくため息を吐いた。
「まさかあんなに似てるとは…」
本人かと思うくらい似てた。
だが絶対にトウカである筈はない。
「だってトウカは…」
すると小屋の扉が開き、フウカが出てきた。
フウカは俺と一人分の距離を取って隣に座った。
「ねえ?」
「何?」
「そんなに似てる?」
「……どうかな。彼女との最後はもう何年も前だし、お互いまだ10歳くらいだったと思う。でも髪や瞳の色、雰囲気がその、凄く似てると思う」
「ふーん、そう」
「……フウカは年いくつ?」
「私? 私は16よ。イフトは?」
「俺は15」
もしトウカが生きてたらそれくらいかも。
彼女の方がお姉さんだった気がする。
「年下だったんだ。イフトしっかりしてるから年上かと思ったわ」
「はは。冒険者だから、学院の子たちよりかは大人っぽいかもな」
王都には学院と呼ばれる、子供達を集めて勉強や魔術を学ぶ施設があるそうだ。
俺は孤児だったし、学院の生徒を見かけた事がある程度しか知らないけど。
「ねえ?」
「ん?」
「その子の話してよ。トウカだっけ? 名前少し似てるし、私に似てるって事は美人だったんでしょ?」
「自分で美人とか言うなよ」
「仕方ないわ、事実だし。周りもそう言うしね。言っとくけど私、帝国だとかなりモテるから」
「そうだな、フウカは美人だからモテるだろうな」
フウカは一瞬物凄く照れた様に慌てふためいていた。
「……冗談よ、真に受けないでよ」
「冗談なんだ」
お互い小さく笑った。
「そうだな…トウカと初めて会ったのはある施設だったよ。お互い孤児で、出会う前はトウカは物乞いしてたって言ってた。俺は、食べ物やお金を盗んでその日をなんとか生きてたよ」
「……」
研究施設の事や、魔法の事は伏せた。
時折頷きながら、フウカはそれをただ黙って聞いてくれた。
自分でも不思議だった。
何故今日会ったばかりの彼女にこんな話をしたのか。
「施設で出会ってからトウカは沢山色々な話をしてくれたよ。いつか王都に豪邸を建てて楽しく暮らしたいとか。料理を覚えるとか。他にも色々と…」
「……」
「何年経ったかな? ある日さ、トウカは風魔術が使える様になったんだ。俺は火の魔術。詳細は省くけど、兎に角俺達には他の子達より少しだけ魔術の才能があったんだ」
「……」
「でも、それを知った悪い大人達がいてさ。トウカは連れて行かれて、俺は必死で追いかけてさ、それで…」
「……」
「トウカと最後に会った時はもう手遅れでさ、俺は…その辺りあんまり覚えてないんだけど、その大人達を殺してさ、建物も全部燃やして、燃やし尽くして、それから…」
「……」
「ただただ彷徨って、気づいたら王都に来てた。最初はなんもやる気なかったけど、腹は減るし、なんとか生きないといけないから、それで冒険者になったんだ」
「……」
「あ、ごめん。俺の話になってた…」
「ううん」
「でも最近思い出したんだ」
「何を?」
「トウカの夢さ。トウカって沢山夢があってさ、いつだったかな…それが俺の夢になったんだ」
「王都に豪邸建てるのが?」
「うん。まぁそれも夢の1つ。だからさ、トウカが叶えられなかった夢を俺が全部叶えようって」
「ふーん、いい話ね」
フウカはニコリと笑った。
「あ、でもトウカって少し変だった。一人称は『私』なのに、なんだか男の子っぽい喋り方だった。『私には夢がある。君には夢ってあるのかい?』みたいな」
「ふふ、それは確かに少し変ね」
「だろ」
「ふふ」
俺とフウカは夜通しずっと話し込んだ。
フウカも沢山自分の事を話してくれた。
でも俺と一緒で大事な事は言ってない気がした。
でもそれでも良かった。
少しだけなんだかスッキリした気がした。
♢
俺とフウカはいつの間にか眠っており、朝、村の住民のクスクスと笑う声で目覚めた。
俺とフウカはお互いにもたれ掛かり座ったまま寝ていた様だ。
恥ずかしくて死にたくなった。
「一生の不覚ね」
「…だな」
お互いの顔が見られなかった。




