僕はしおんと冒険する★
大戦斧が、僕に2回命中する。
僕は激しく切り飛ばされて、近くの岩に叩きつけられた。ダメージは18点。一気に、体力の半分を持っていかれた。更に、
「麻痺毒耐性の判定をするわ。サイコロを降って」
しおんが冷酷に告げる。
「麻痺毒? まさか、ピンサローの大戦斧には麻痺毒が塗ってあったのか?」
「ええ」
そこで僕は仕方なく、サイコロを降る。だが、数値は目標値に達しなかった。途端に、僕は全身が麻痺して動けなくなる。この状態で敵の攻撃を受けたら、全てクリティカルヒットになるらしい。とても不味い状況だ。
「『つまらん。小僧。貴様など、俺様の敵にもならん。期待して損したぞ?』」
ピンサローは紅い眼をギラつかせて、余裕を滲ませる。仲間の戦士達が怒りを発し、うおおっ! と、雄叫びを上げてピンサローに立ち向かう。が、次々と、ピンサローに薙ぎ払われてしまう。
戦況は、一気に魔王軍へと傾いた。
まさか。これ程の策を練り、全力を尽くしても倒せないなんて……。
「その時です。ピンサローはプラチナの腕を掴み、肩に担ぎあげました。再び、プラチナが攫われようとしています。ライト君はどうしますか?」
淡々と、しおんはDMの仕事をこなす。だが、その声は何処が苦し気で、何か強い気持ちを押し殺しているようだった。
「『ライト。もう無理だよ。こうなったら奥の手を使おう』と、ヌルヌルが言います」
「でも、それだとプラチナが!」
「『でも、私には……ライトの方が大事なんだから!』」
ヌルヌルは叫び、「念動力」の魔法を発動する。
次の瞬間、ピンサローの巨体がふわりと浮かび、橋の真ん中まで弾き飛ばされる。
「や、やめるんだヌルヌル!」
「『ライト君、ゴメンね……』そう呟いて、ヌルヌルは導火線に火を点けました」
そう。僕は最後の切り札として、橋に爆薬を仕掛けておいたのだ。そして爆薬は、今まさに点火された。
爆炎が、橋を包み込む!
次の瞬間、橋が崩落する。ピンサローはプラチナを抱えたまま、深い谷底へと落下していった……。
大鬼が、あの程度の爆発や落下のダメージで死ぬとは思えない。プラチナも、また奪われてしまった。
僕は、勝てなかった。
「くそおっ!」
僕は思わず、テーブルを叩いた。その激しさに、しおんが驚いて固まってしまう。
「……ごめんなさい」
長い沈黙を破り、しおんがポツリと言う。
「ううん。驚かせてごめん。しおんのせいじゃないよ。僕が甘かったんだ」
「違う。私のせいなの」
「……どういう事? ヌルヌルも頑張ったじゃないか」
「そうじゃない。そうじゃないの! 私は、DMとして、やってはいけない事をしてしまった。本当は、ピンサローはあんなに強くない。本来のステータスなら、あの戦闘で倒せていたの。でも、私が能力値を改変して、勝てないように細工してしまった。私はDM失格なの」
しおんの目に、薄く涙が滲む。
「どうして? どうしてそんな事を?」
僕は疑問を口にする。
「だって、彦星君は『ピンサローと決着が付いたら、僕もやっと、一区切りがつけられる』って言ってたから。それって、ピンサローを倒したらゲームを卒業しちゃう。って事でしょ? そんなの嫌だ。私、ずっとずっと、彦星君と一緒にいたい。だから、だから……」
ぶちまけて、しおんは泣き出してしまった。
僕はしおんの言葉を聞いて、やっと、彼女の不可解な行動の理由に気が付いた。
これまで、しおんが僕から逃げ回ったのも、ゲームを避けようとしたのも、僕とのゲームを終わらせたくなかったからなのか……。
そう考えたら、僕も、胸に強い気持ちが込み上げて来る。
僕は、そっとしおんに手を伸ばし、頭を撫でる。
「違うよしおん。それは逆だよ」
「……え?」
「僕が一区切りつくと言ったのは、ゲームを卒業するって事じゃない。そうじゃなくて、ピンサローに勝ったら、しおんに告白するつもりだったんだよね」
「え? それじゃ……」
「僕はしおんが好きだ」
「あ、え、あ…………本当に?」
「本当に。でも、告白はお預けだね。ピンサローに勝てなかったから。また、次の機会に改めて言う事にするよ」
僕は言い終える。しおんは顔を真っ赤にして固まっていた。眼が、挙動不審に動き回っている。恥ずかしくて僕を見られないのか。
面白いので、僕は上体を動かして、しおんの顔を覗き込んでみる。すると、しおんは余計に焦って顔を背けてしまう。
「もう。そんなに見ないで。恥ずかしい、でしょ……」
「ごめん、ごめん」
ポコりと、しおんが僕の胸を叩く。その手は、続けてポカポカと、僕の胸に当たる。
「馬鹿。馬鹿、馬鹿……」
「ごめん」
「私、本当は淋しかったんだから……」
「うんうん。悪かったよ」
「凄く凄く、淋しかったんだから。もう、彦星君と遊べないって、悲しかったんだよ……!」
「うん。もう大丈夫だよ。僕は何処にも行かないから」
僕は、指先でしおんの涙を拭う。
「こ、告白……してくれる筈だったなんて」
「うん。いずれまた、ピンサローに挑戦しよう。勝ったら、今度こそ……!」
ピコリと、しおんの顔に閃きが浮かぶ。
「そ、その時です。突然、何者かが崖を這いあがって来ました。ピンサローです。ピンサローの鎧は砕け、体中、怪我と骨折だらけで瀕死です。ヒットポイントは1点です。倒すなら今です!」
ふいに、しおんが言う。僕は思わず吹き出しそうになる。
「駄目だよ、しおん。DMの権限を私利私欲で使うのはナシだ。大丈夫。僕は何処にも行かないから。また、一緒にピンサローを倒そう」
「……うん。ごめんね。じゃあ、ピンサローをやっつけたら……」
「もう一度君に言うよ。好きだって」
「うん。約束……だよ?」
こうして僕等は指切りを交わした。
⚅⚅⚅
それからも、二人の冒険は続いた。
僕としおんは異世界の大海を渡り、山河を行き、釣りや魔法の祝祭を楽しんだ。たまに魔物と戦って、魔法の装備を手に入れたりもする。しおんは、ゲームでは相変わらず男の娘になりきって僕をドギマギさせる。けど、それにもだいぶ慣れてきた。
時には休み時間の教室、時には僕の自宅の部屋、そしてしおんの部屋。それは、僕等にとって異世界への入り口だ。
この公園のテーブルも、相変わらず、僕としおんのお気に入りの場所だ。少しぐらい殺風景でも構わない。
だって、僕等には魔法があるのだから。
すうっと、しおんが息を吸う。
「想像して。ここは10月の公園ではない。辺りは静かな森で、心地がよい木漏れ日が降り注いでいる。何処からかパンを焼く匂いがして、彦星君はお腹が空いている。鳥の羽音に、木の葉が揺れる音。落ち葉が、貴方の頬に触れる。どう? 感じてみて……」
しおんは今日も、僕にやわらかな魔法をかけた。
おしまい。
作者です。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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真田を凹ませるには効果的面ですw
まあ、書いた身としては響くものがあったと信じたいものではあります★
しおんちゃんと彦星くんの冒険はここからですが、この物語はここでおしまいです。少しでもTRPGの楽しさが伝わったのであれば、嬉しく思います。
では、愛すべき読者に感謝を込めて★
2023年 3月29日 真田宗治




