スター・ライトは激戦する!
「『お兄ちゃん、お兄ちゃん。うぐ。会いたかったよう』プラチナが、ライトに縋りつきます。どうしますか?」
しおんは妹になりきって、僕の腕にしがみ付く。役に入り込み過ぎるのはしおんの悪い癖だ。でも、今、この時だけは良い癖だといえる。胸が、腕に当たる。柔らかい……。
なんだか得した気分なので、ツッコまずに、ゲームを続行する。
僕はプラチナの縄を切る。一方、ヌルヌルもテントに駆け込んで来て、回復魔法をかけてくれた。
仄かな魔法の光が、テントに満ちる。僕の傷が癒やされて、ヒットポイントがほぼ満タンになる。
「ありがとうヌルヌル」
「『どういたしまして。ライトのパートナーとして当然の事をしたまでよ。だから、ライトもパートナーとして、当然、くちづけで応えてくれる、よね?』と、ヌルヌルは瞳を潤ませて、可愛らしくライトにくちづけを──」
「──しない! 油断も隙もないな!」
「『チッ』」
「舌打ちするんじゃないよ!?」
「『お兄ちゃん、その人は誰? 私というものがありながら、どうしてそんな雌犬と仲良さそうにしてるの? あっ! もしかして、何かエッチな事をしたのね!? 信じられない。浮気だわ!』と、プラチナが叫びます」
雌犬じゃない。雄犬だ!
「え? なにこの設定。プラチナってそういうキャラなのか?」
「『バカ、バカ。お兄ちゃんのバカ! もう、お兄ちゃんの赤ちゃん産んであげないんだから』」
「いや、僕はそういう趣味もないからね?」
「『う、うぐぅ! お兄ちゃんの意地悪っ! もう、一緒にお風呂に入ってあげないもん』」
しおんはノリノリで、僕の胸をぽかぽか叩く。
「いや、しおん、話を聞こう? 説明ギブ。質問に答えようか?」
「『で、これからどうするの?』と、ヌルヌルが愚痴ります。ライトはどうしますか?」
と、しおん僕を無視してRPGを進行する。
「とりあえず、プラチナを連れて逃げ──」
「──その時です。ドオオオン! と、破壊音がして、テントが木っ端微塵に! 一匹の大鬼が姿を現しました。鍛え抜かれた屈強な体躯に真っ赤な髪と目。ピンサローです。どうしますか?」
しおんの言葉が、風雲急を告げる。
予想通り、ピンサローが直々にやって来た。余程、プラチナを奪われるのが不味いらしい。
「それは……逃げる!」
僕はプラチナの手を引いて、一目散に駆けだした。
九月の公園で、僕としおんはゲームに熱中している。そこは、ただの、何の変哲もない公園である。でも、僕としおんにとっては、不思議と冒険に満ち溢れる、二人だけの異世界だった。
「『うおお。貴様はいつぞやのクソガキか! まさか、生きていたとはな。だが、その稀血の娘は渡さぬ。ここで仕留めてくれるわ!』と、ピンサローが叫びます」
猛々しく吠える大鬼を残し、僕たちは敵陣を逃げ回る。やがて、味方の戦士らと合流して、作戦が始動する。
「みんな。ピンサローが来たぞ! 作戦通り、あの場所まで逃げるんだ!」
僕は号令を発する。そして馬を駆り、目的の場所まで駆け続ける。その後を、ピンサローの軍団が追って来た。それは数百体の鬼の軍団である。捕まればひとたまりも無さそうだ。
ピンサローは強い。普通に戦っても勝ち目はないだろう。でも……!
「ここだ! 皆馬を降りて、陣形を組むんだ」
僕は目的地の橋へと差し掛かり、橋を渡り切った地点で仲間達に号令を発した。仲間達は指示に従い、橋を前に横一列に広がって、盾を地面に設置して、弓を構えた。
⚅⚅⚄
僕の作戦はこうだ。
辿り着いた橋は細くて長い。対して、敵は大柄なので、橋では一体か、二体ずつしか広がって戦えない。敵が橋を渡ろうとしたら、待ち構えたライト隊が、先頭の敵に、一方的にこれでもかと矢を浴びせる事が出来る。つまり、敵が橋にいる限り、1対10の形が延々と続くのである。だが……。
ピンサローの軍団は、橋を目前に足を止めた。無防備に渡って来る程、バカではないらしい。
「『馬鹿め。こちらにも弓隊がいる事を忘れたか!』ピンサローが号令を発して、弓隊が川向うで陣形を広げました。どうしますか?」
「決まってる。陣形が固まる前に先制攻撃だ。総員、矢をお見舞いしてやれ!」
僕は号令する。すると、敵とライト隊は、河を挟んで矢の射ち合いとなる。
しかし、これも計算の内だ。
僕等の背後には、太陽があった。夕日が、逆光となって敵の視界を奪っている。更に……
「本当に、この魔法が役に立つ日が来るとはね。「灯!」」
僕は、ライト隊の背後で「灯」の魔法を発動した。
太陽光と魔法の光球、二つの輝きが敵の視界を奪う。これによって、戦況は大きくこちらへと傾いた。敵は、命中判定に大幅な下方修正を受け、こちらは毒矢で狙い放題だ。たまに味方が矢を受ける事もあるが、すぐにヌルヌルが魔法や薬草で回復してくれる。
次々と、鬼の弓兵が射ち倒されてゆく。矢が尽きるか陣形が崩れない限り、こちらは優位は揺るがないだろう。
「『くそ。このままでは!』ピンサローが痺れを切らして、部下に号令を発します。すると、数匹の鬼が一列になって橋を渡り始めました。どうしますか?」
「決まってる。皆、橋の鬼を集中攻撃だ!」
僕は号令をかける、すると、鬼がたちまち蜂の巣になり、先頭から、次々と撃破されてゆく。
「『ぐ。こうなったら。貸せ!』ピンサローは遂に痺れを切らし、部下から大盾を取り上げて、橋を渡り始めました。どうしますか?」
「皆、ピンサローを集中攻撃だ! 他の鬼共には構わなくて良い!」
号令するなり、矢が、一斉に放たれる。それは少なからずピンサローに命中したが、大半は、大盾で防がれてしまった。
「もう、目前までピンサローが迫っています。魔法の射程圏内に入りました。ライト君はどうしますか?」
「渡り切ったら大鬼の勝ちだ。ここで仕留めるよ」
僕は陣列から飛び出して「ライトニング・ボルト」の魔法を発動する!
「ダメージ判定ね。サイコロを振って」
しおんに言われ、6面体を9つ振る。ダメージは、29点。芳しくない数字だ。
ピンサローは倒れなかった。
奴は着実に前進を続けて、もう目の前にいる。流石は大鬼。かなりしぶとい。次の攻撃で仕留められなかったら、本当に、負けかねない。
「うおおお! もう一度! ライトニング・ボルトオオオ!」
僕は再び、切り札の雷撃魔法を発動する。たちまち、雷光が迸り、大鬼を直撃する!
サイコロを振り、再びダメージ判定。今度は、43点のダメージをお見舞いした。かなり良い数字だ。だが……。
それでも、ピンサローは倒れなかった。
「『それで、終わりか? エルフ。貴様の力はそんな物かあああっ!』」
大鬼のターンになり、大鬼はバトルフィールドを3マス前進。そして、僕目掛けて大戦斧を振り上げた!




