城塞にて
城塞の守りはついに破られた。
守備の兵達は、侵入してきた魔物達と各所で斬り合っている。
だが、一つ、また、一つと、剣の音は止んでいく。
魔物達はやがて城塞の最上階へ到達した。
城塞の守備隊長は一段の兵と共に、王都から派遣されてきた老臣とともに主塔に篭っていた。抵抗を続けることで、ほんのわずかでも魔軍が王都に迫るまでの時を稼ぐため。
主塔は魔力を込めた素材を惜しむことなく使ったこの城塞の最後の守り。
独立して作られており、また、攻め込まれた時に備えて、城塞の内部に入った敵を攻撃する機能も備えている。
守備兵達は、機械式の連弩を用いて主塔に迫る魔物に矢を浴びせている。
主塔の上に備えた魔法砲。
魔法砲を狙う、空からの魔物達を寄せ付けないように対空の連弩で守っている。
ぎらん。
ここの魔法砲は、この国の特製のもの。
魔法師達の細心の操作を要するが、他国のものと異なり連射が可能であり、命中すると込められた魔力を解放し周囲にダメージを魔法弾を発射する。
魔法砲の狙いは、この城砦を抜けて王都へ向かおうとする魔軍を後方から撃つこと。
すでに何発もの球を浴びて、統制役の魔族を何体も失ったのか魔軍は隊形を大きく乱し、一部は散り散りに逃げ出したようだ。
◇
斜陽の国。
老臣はかつて大国といわれたこの国が衰退していく姿を見てきた。
前王の王妃、そして、その子らはいずれも王妃の母国たる東の大国の威を借り、この国のもの達を蔑んでいた。自然、この国の家臣達や領主達と、王家の距離は開いてしまった。
前王には、この王妃と別の子供が二人いた。仲の良い兄妹。
前王が病に倒れると、もともと王妃から疎まれていた兄妹は冷遇された。
兄は離れた国にある学院へ送られ、妹はこの城塞のそばにある離宮へ送られた。
老臣は、この時、病床の前王の命により妹の付き人とされた。
老臣は、武官の家の出身ではあったものの特に見どころはなく、また文官としての才も特にない。
老臣、その頃はまだ若かったが、前王からある日来客の対応や案内役を命じられ、その役を淡々とこなしていた。
◇
城塞の主塔の中、ひしひしと迫る魔軍の圧力を肌で感じながら、老臣は思い出していた。
前王から、姫の付き人を命じられて王宮を去り、離宮において姫の付き人として過ごした日々。
離宮は、手入れも行き届いておらず、生活には不便も多かった。
姫はある日、ではあの街で過ごしましょう、とおっしゃり、この城塞の後方の街の放棄された商館を住居とした。
それからの日々は、多くのことがありすぎて思い出せないくらい。
姫はこの街の人々にとても愛されている。
周辺の国に魔軍が現れて、王妃もその子供達もあっさりとこの国を見捨てて、王妃の母国へ避難してしまった。冷遇していた姫に全てを押し付けて。
王都へ戻る日、城塞の兵達も、街の人々も姫を見送ってくれた。そこには単なる親しみだけではなく、この国を統べるものに求められる期待も感じ取れた。姫にこの国難を乗り切って欲しいという期待が。
◇
この城塞の守備兵たちは、この街の出身者。
王都から派遣されてきた老臣のことを知っているものも多い。
老臣は、魔軍が王都に迫る時を遅らせたい、と正直に伝えた。時間稼ぎの戦いを望まぬ守備兵には速やかにこの城塞を出るように、とも。
守備隊長は、笑みを浮かべて答えた。
王都を守るのがこの城塞の役目、いまさら指示をいただくまでもないこと、と。
◇
王都の手前で魔軍は精強無比と謳われる北方の国の騎士団に出迎えられた。
騎士団を率いているものは、この国の王子。妹のために救援を願い出て、この地へ来た。
北方の王は、この王子の才能と人柄を高く評価しており、やがて願い出るだろうと考えて、救援のための出兵を用意していた。
王子の率いる騎士団だけでなく、北方の騎士団の中で最強と言われる騎士達も加わっている。
◇
騎士団に手痛い出迎えを受けるより前に、すでに統制を失っていた魔軍は単なる群れ。
まとまった反撃もせずに、騎士達の攻撃を避けようと押し合うばかり。
ついには甚大な被害を出して壊走していく。
だが、逃げる魔軍の後方からピッタリと騎士団がついていく。
はるか後方の、魔軍占領地まで戻れる魔物はどれほど残るだろうか。




