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優しい村 2


 「…あら?あなたは…?」

「えと…た、旅の者、です…」

落ち着いた雰囲気を醸し出す婦人が、扉の前にいる水を被ったようにびしょ濡れの少女に問いかける。そして少女はなるべく怪しまれないようにと顔が婦人に見えるように髪をかき分けながらそう自称する。後は婦人が受け入れてくれるか、だが…。

一瞬の緊張が少女に走る。しかし婦人はそんな彼女の不安を感じ取ったのか優しく微笑んで、

「…こんな天気の中で大変だったでしょう?さ、早くお入りなさい」

そう言っ少女を迎え入れるように身を引いて扉を更に開く。良かった…。追い返されずに済んだ…。少女の強張っていた表情(かお)から力が抜けて安堵の色が戻る。そして、小さく感謝の意を述べながら軒先で出来るだけ外套から水滴を払い落とす。…だがあれだけの天候の中を歩いてきたのだ。当然外套で全てを防げているわけがない。内に着ていた衣服も所々水分を含んでいて、下半身に関してはまるで川にでも浸かったみたいだ。こんな状態で家に入ってしまえば中にまで水溜まりが出来てしまう。どうしたものか…。

「ふふ、余程酷い雨の中歩いてきたのね。これ使って」

くすくすと微笑をと共に、婦人は乾いた布と衣服を彼女に差し出す。そして唐突なことに面食らっているらしい少女に繰り返し微笑みかけて更に持ち物を突き出して彼女に受け取るように促す。

「あ、ありがとう、ござい、ます…」

少女はあまりな好待遇に少々恐縮しながらも、相変わらず穏やかな笑みを浮かべている婦人の手元に遠慮がちに手を伸ばす。

「その服も乾かしちゃうから、脱いじゃいなさいな」

少女が服を掴む前に、婦人はそう提案する。…確かにこのまま受け取ったとしてもどうしようもない。…しかし、ここまで世話になってもいいのだろうか…?

「ふふ、困ったときはお互い様、よ。こういうときは頼っていいのよ?」

再び彼女の困惑を読み取ったのか、婦人はまた少女にそう優しく語り掛けた。そんな彼女の様子に戸惑いながらも促された通りにぐっしょりとしてまだ水滴を滴らせる自分の衣服を脱いで婦人に恐る恐る差し出す。そしてそれと入れ替わるように手渡された乾いた布で身体に纏わり付いた水分を拭き取ってから、更に手渡された乾いた衣服に袖を通す。その様子を見て初めて婦人は彼女から視線を逸らし、火の灯る暖炉の前へと向かっていったかと思えば、少女から受け取った濡れた服をその正面で干し始める。そして少女に度々こちらに顔を向け、そのうちにこっちで身体を温めた方がいいと着替えが終わってどぎまぎしている少女の方へと再度寄ってきて、暖炉の前へと誘うように肩を押す。

次から次へと押し寄せる婦人からの矢継ぎ早の善意に対処が追いつかずされるがままに受け入れるしかない少女。…しかし婦人が抱えている剣をも受け取ろうと手を伸ばしたことに気付いた少女は思わず距離を取って剣を守るように更に強く抱き抱える。いきなり警戒をしだした少女に面食らう婦人。その彼女の様子からふいに自身がしてしまった行動に気付いた少女は視線を下げて俯きがちに、

「あ、えと…、ごめん、なさい…」

折角こんな見知らぬ旅人に対して良くしてもらったというのに、不愉快な思いをさせてしまっただろうか…?そう少女は不安そうに婦人の顔色を伺う。しかし、婦人は不快さに顔を歪めるどころかむしろ申し訳なさそうな表情で、

「…ごめんなさいね。旅人さんにとっての大事なものに勝手に触れようとしてしまって」

自分でその身を守らなければならない旅人にとって、自らを預けることになる武器はとても繊細に扱う必要があるだろう。それを忘れて触れようとしたのだから警戒されて当然だ、と婦人は頭を下げる。

そんな彼女の態度に余計に申し訳なくなる少女。恩を仇で返してしまった、そういった感覚に苛まれていた。その様子を察した婦人は相も変わらず気にしないで、と慰めを続ける。そして、温かいものを作ってくるから、暖炉の前で待っていて欲しい、と伝えて奥へと姿を消した。

「……なんか、凄い優しい人だね」

「う、うん…。ありがたい、けど……」

ここまで待遇がいいと逆に驚きを隠せない、と一人と一振りは顔を見合わせる。…まぁ、実際に見合わせることが出来るわけはないのだが。

その後も一人と一振りは現状を信じれらないという様子でこそこそと会話を続ける。しかし大した結論は出ないまま時間は過ぎ、その内に鼻腔の奥を優しく刺激する何かに気付く。それに応えて彼女の腹は小さく呻き声をあげた。

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