47.優しい貴方、心配しないで
町の通りに入ってマーフィーのパン屋へ向かいかけ、途中でピタリと歩みを止めた。
暫く考え込んだ末に踵を返して食料品店へと向かう。
アラベラは何て事も無いように料理していたわ。
もしかしたら私も練習すれば、ランチくらい作れるかもしれない。
そう考えたカサンドラは店主に必要不可欠な食材を聞き、丁寧に説明してくれる話を元に材料を選んで購入した。
包んだ食材を手にし、以前薪を屋敷まで運んで貰えた店で追加の薪を購入していると、通りから名前を呼ばれた。
振り返るとロバートが店の窓越しに手をひらひらと振っているのが見える。
手には以前ケアリーが持っていた配達用のパン籠を持っているようだ。
店主に薪を運んで貰える時刻を確認した後に店を出ると、ロバートの方へと歩み寄った。
「やぁ、カサンドラ」
「こんにちは、ロビー。 配達中?」
彼の手にある籠を手で指し示しながら聞くと、ロバートは頷いた後にわざとらしく溜め息をついた。
「そうなんだよ。ケアリーが休みの日は僕が代わりに配達してるんだ」
「なら仕事に戻らないと」
「もう配達は終わったんだよ。 後は店に戻るだけ」
おちゃらけるように笑って話していたロバートだったが、不意にカサンドラの表情を伺うように見つめた。
突然焦げ付きそう視線を向けられて戸惑ったものの、一歩後退りしただけで彼に背を向けて逃げ出したりはしなかった。
何か言いたい事でもあるのかと身振りで問い掛けるべく、ロバートを見つめ返しながら問い掛ける。
「先日、君の屋敷に行ったんだよ。
年末年始を僕の家族と一緒に過ごさないかと誘おうとして」
「そうだったの?」
「でも君は留守だったから。みんな残念に思ってたんだ。 もちろん僕も」
「誘いに来てくれたのに‥‥本当にごめんなさい。
色々と込み入ってて‥‥」
曖昧に微笑んで見せると、ロバートのエメラルドのような瞳に痛みの色が過った。
それを見て取ったカサンドラは思わず視線を反らす。
「その後も訪ねてみたけど姿が見えないから、君は居なくなってしまったのかと思ったんだ。
‥‥‥あるいは、僕が避けられてるのかと」
最後の言葉を聞き弾かれたように顔を上げてロバートと視線を合わせると、慌てて首を横へ振った。
「いいえ、本当に込み入った事情があっただけなの。
ロビーを避けていた訳ではないわ」
「本当かい?」
「えぇ、本当よ」
ロバートは頷いたカサンドラをじっと見つめた後、何時もの蕩けるような穏やかな笑みを浮かべた。
「良かった。君に会えて安心したよ」
「ご両親とエミリーはお元気?」
「元気すぎるくらい」
そう言って視線を落としたロバートがカサンドラの持っている包みを目にし、驚いたように瞳を丸めた。
「食材を買ってるって事は料理でもするのかい?」
「そうなの。料理なんて初めてだから、店主にレシピのメモを貰ったわ。早速帰って挑戦してみないと」
「何を作るの?」
「スコーンとジンジャービスケットよ」
「本当に? どちらも僕の好物だ」
そう言われて食材へ向けていた視線をロバートへと戻すと、色濃く煌めくロバートの瞳と目があった。
食べたいって事?
真っ直ぐ彼と視線を見交わした後、カサンドラは根負けしたように肩を竦める。
「もし上手に焼けたら、貴方の家まで届けましょうか?」
「いや、僕が食べに行っても?」
「良いけれど‥‥。上手く出来る保証は___」
「それじゃあ今日、仕事が終わったら君の屋敷に行くよ。 凄く楽しみだ。この後の仕事も頑張れそうだよ」
浮かれたロバートはカサンドラの言葉を最後まで聞かず、茶目っ気たっぷりに挨拶すると素早く立ち去ってしまった。
ロバートの上機嫌な足取りを見遣り、カサンドラは急に不安に駆られる。
どうか上手に出来ますように………




