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44.私を裁くのは




「雪が溶けたらぜひ私の家に遊びに来て。 今度は私が貴女をもてなすわ」


「はい、楽しみにしています」


「またね、アラベラ」


「カサンドラもお元気で」


アラベラと視線を見交わしてクスクスと笑った後、ミスター・クインに向き直ってお礼を言う。


「泊めてくださった事、心から感謝しております」


「君が娘と友達になってくれて嬉しいよ。 また何時でも遊びにおいで」


ミスター・クインが差し出した手を握って握手をした後、一歩後ろへと下がって二人へとお辞儀をした。

今着ているドレスはあの日、海水でずぶ濡れになったドレスだ。私が意識を失っている間にアラベラが整えてくれていた。


アラベラとミスター・クインに幸多からん事を


そう心から願いながら、教えて貰ったグレスティンへ続く道へ向かった。



雪道は歩き辛いけれど、太陽が出ているので暖かいし明るい。先日闇の中をひたすら歩いた時とは違ってとても気分が良い。何しろ見える景色がとても美しいのだ。


けれどぼんやりと歩いている訳にはいかない。改めて一人で考えるべき事が山ほどある。


あのアーサーと呼ばれていた男の真の狙いは私ではなく、フレデリックだと言っていた。

あの男はフレデリックの従兄で、次期侯爵の地位が欲しいとも。

これであの男が私を襲ったナイフに、エヴァンズ侯爵家の紋章が彫られていた理由に合点がいった。


‥‥…というか、私があの男に付け狙われている理由はフレデリック卿なの?

彼がお姉様の為に、私に復讐しようと雇った殺し屋ではなくて?

それなら私は、ただのとばっちりじゃないの。


カサンドラは頭を抱えたくなった。

こういう場合はどうしたら良いのか皆目見当もつかない。

そもそも私はフレデリックの婚約者でもないのに、どうしてこんな酷い扱いを受けなくてはならないのか。


そして問題はもう一つある。


あの男を治安判事に突き出してやりたいけれど、彼がエヴァンズ侯爵家の親戚となると、裁く事は難しいかもしれないわね……。

腹立たしいけれど、あのアーサーという男が悪事を企てている決定的な証拠が無いもの。

………あのナイフはどうかしら? エヴァンズ侯爵家の紋章の彫られたナイフ。



一瞬だけ希望が湧いたものの、その希望もすぐに消えてしまう。

何しろあの紋章はエヴァンズ侯爵家のものなのだ。

アーサーの悪事の決定的証拠にはならないし、エヴァンズ侯爵家に喧嘩を売る事になる。


それにミスター・エヴァンズを裁くとなれば、私がウィリアムズ伯爵令嬢である事を治安判事に明かす必要がある。

ただのカサンドラが治安判事に訴え出た所で、貴族の血筋のアーサーには言い逃れ出来てしまうのだから。


けれど躊躇していて良いか分からない。

何故ならアーサーはヒース・コートの近くの丘に現れたのだ。きっと既に私の居所を突き止めているに違いない。

カサンドラは途端に恐ろしくなり、思わず歩みを止めて立ち止まる。


本当にヒース・コートに戻っても良いのかしら?

もしもアーサーが屋敷の前で私を待ち伏せしているとしたら?

今まで運が良かっただけで、今度こそ本当に殺されるかも………。



グレスティンへ続く道をしばらく見つめた後、カサンドラは再びヒース・コートへ一歩一歩進み始めた。


どうして私があんな男に怯えて逃げ出さなければならないの?

意気地なしのアーサーは、フレデリック卿とまともに対決するのが恐ろしいのね!

だからって私を巻き込むなんてひどいじゃない!

私なら簡単に仕留められると思っているでしょうけど、そうはいかないわ。

思い通りになって堪るものですか!


あぁもう!! あの男のプライドをズタズタに引き裂いてやれたら良いのに!!


カサンドラの内心では悪態が止まらない。

足取りも苛立たしげで、雪を蹴りつける勢いだった。

そして雪道を歩きながら決意を固める。


私があの男から逃げ出す為にヒース・コートを出るなんて馬鹿げてる。

それに、彼に私を殺させはしないわ。


私を殺しても良い人が居るとすれば、それは可哀相なシャーロットお姉様ただ一人。


他の人が私の罪を裁く事は絶対に許さない。




アーサーを治安判事に突き出す為の証拠でもあれば良いのにと思いながら視線を上げると、丘の上には中世の物語から飛び出てきたような石造りの建造物が見えた。


ヒース・コート、私の屋敷。



カサンドラは脇目も振らず、アラベラに借りた外套を翻しながら走り出した




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