16.クリスマスカード
町を出る直前、町の端の店先にクリスマスカードが並んでいる事に気が付いた。
同じカードはどれ一つとなく、全て絵柄や仕掛けが少しずつ違っている。
目を引かれたカサンドラは足を止めて並べられた美しいカードを見つめ、一番気に入った絵柄のクリスマスカードを購入する。
なだらかな丘の上に深い色合いの夜空が広がり、沢山の美しい銀色の星が描かれている。
中でも私が気に入ったのは仕掛けだった。
カードを光に透かすと、その光の加減や角度によって天使の羽のような雪の結晶が浮かび上がってくる。
どうしたらこんなにも素敵なカードが作れるのかしら?
絵の美しさや仕掛けに惚れ惚れと酔いしれていると、ふと視線を感じて顔を上げる。するとロバートと視線が絡み合った。
不思議に思って僅かに首を傾げて見せると、彼の緑色の瞳は優しく煌めく。
「君が楽しそうで良かった。
この町を好きになって欲しかったんだよ」
「そうね、とても素敵な町だと思うわ」
「カードは誰に送るんだい?」
「分からない。手放せなくなってしまうかも」
「‥‥‥君の両親には?」
「どうかしら。喜ぶと思うけれど……」
カードの表面を撫でると、手触りもとても良い事が分かった。
こんなにも素晴らしいクリスマスカードは初めてだ。
本当はもっと何か聞きたいと思っていたロバートだったが、カサンドラの表情に一瞬だけ過った深い悲しみの影に気付き、それ以上無理に問い質す事は止めた。
代わりにロバートは他愛ない普段の町の様子や、自分の焼いたパンの方が美味しいという自惚れをカサンドラに面白おかしく話してくれた。
最初は上の空で相槌を打つだけだったカサンドラも、何時しか彼の話に聞き入ってクスクスと笑っていた。
この辺りは今の時期夜が長い。
ロバートの家でお茶をご馳走になり、エイミーと存分にお喋りを楽しんで帰る頃には、既に薄暗い空に星が瞬いていた。
ヒース・コートまではそう遠く無いので一人で帰れると言ったのだが、何かあったら危険だからと言い張るロバートに屋敷の玄関ポーチまで送ってもらった。
「今日はどうもありがとう、ロビー」
「僕も楽しんだから気にしないで」
「じゃあ、おやすみなさい」
そう微笑んで屋敷に入ろうとすると突然片手を掴まれて驚いた。
もう一度ロバートの方を向くと、何やら言いたそうな表情をしている。
先を促すようにじっと相手を見つて待っていると、彼は掴んでいた私の手をそっと離してくれた。
「クリスマス当日の夜は、宿の一階を貸し切って町の皆でパーティーをするんだ」
「そうなの」
「君も来るだろう?」
カサンドラはその問いに長い睫毛を伏せ、僅かに首を横に振った。
「いいえ、行かないわ」
「どうして? きっと楽しいよ」
正直、パーティーのような明るく楽しい行事にはまだ行けそうもない。そんな気になれない。
シャーロットはもう、クリスマスキャロルを歌う事すら永遠に叶わないのに………
ロバートは、黙り込んだまま問いに答えないカサンドラを励ますようにポンと優しく私の肩を叩いた。
「当日、またここに来るよ。
もし君の気が変わったなら一緒に行こう」
「‥‥どうもありがとう。 おやすみなさい……」
彼の言葉に曖昧に微笑むと、背を向けて逃げ込むように屋敷へと入った




