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第8話 代官屋敷と依頼の準備

 当日の朝、落ち着かず早めに着替えたりしたが、体を動かして汗をかくのも失礼だろうと、所在無げに時間を無為に過ごしていた。

 やはり、お偉いさんに会うのは落ち着かないな。

 平民が普通に暮らしていたら、まず一生話すことない人物と会うというのは、魔物討伐以上に緊張する。

 そんなことを思っていると、迎えの馬車が家の前で止まる音がした。俺は、その音で外に出ると馬車から、中からグレゴリオが1人降りてくるところだった。


 「お早いですね。では、行きましょうか。お乗りください。」


 馬車は、小さいながら箱馬車で、側面に紋章が描かれていた。街中でよく見る侯爵家の紋章だ。

 俺は、グレゴリオとともに乗り込むと、進行方向に腰掛けるよう、指示され座った。シートは革張りだが、クッション性はそこまでよくはなかった。


 「街中は人が居てスピードが出せないのと、路面が安定しているのでまだましですが、街道は結構揺れるので、あまり柔らかくすると揺れで腰を痛めてしまうそうで、そこまで座り心地はよくないそうです。」


 俺が、座り心地を気にしているのに気づいたグレゴリオは、そう説明してきた。

 まぁ、体が沈むほどだと、ずっと揺さぶられているような感覚になるのか?まぁ、このシートでも、乗合馬車の板張りに比べれば遥かにマシではあるので文句はないが。


 「今日も、グレゴリオだけか?」


 馬車が動き出すと、今日の迎えがグレゴリオだけなのが気になり、そう尋ねた。


 「ええ、ルーチェ様とトーマスは、昨日侯爵様に報告した討伐についてのやり取りの記録を残すため文書官と一緒にいるよ。」


 「報告だけでなく、そんなことをするのか?」


 「普段は報告書を上げて終わりだけど、今回は領主様への報告なもので。その後の指示内容等も記録に残すための作業らしいです。」


 「それは、大変だな。グレゴリオはそれに付き合わず、良かったのか?」


 「私は、レオ殿を見知ったものが、伝達や迎えは顔見知りの方が安心するだろうという侯爵様の配慮でこちらに回されたのですよ。」


 その後も、今日の流れなどを確認しながら、10分程馬車に揺られていると、リーンの町の代官屋敷到着した。

 グレゴリオの案内で、馬車を降りると、恐らく侯爵家の執事か家令が、数名の兵士を後ろに控えさせて、待ち構えていた。その者と挨拶を済ませて、兵士に腰に下げていた剣と投擲用の短剣4本を預けた。

 自己紹介によると、彼は、ラングラー侯爵の家令を務めるジョハンスさんと言うらしい。

 ここからは、彼の案内で、2階にある打ち合わせを行うような部屋に通され、ソファーに座るよう促され、座ると、俺にここで少し待つようにと言って、そこにいた給仕にお茶を出すよう指示をして、部屋を出て行った。

 俺は、緊張で味も大してわからない茶菓子とお茶を摘まみながら、暫くここで待つこととなった。

 やがて、ノックがなされ、先程のジョハンスさんの声がした。


 「レオ様、お待たせしました。閣下が参りますのでご起立を願います。」


 俺は、言われるままに立ち上がり頭を下げた。

 すると、扉が開き中に数名入ってくる気配がした。

 ソファーの対面に1人が腰を掛け、数名がその背後に立ち、俺の右手の窓側に2人程椅子を持って来て腰を掛けた。


 「こちらが、ラングラー侯爵領領主、クリフト・ローゼル閣下です。頭を上げて、お座りください。」


 「名を名乗るがよい。」


 「リーンの町のレオと申します。冒険者を生業としています。」


 俺は、頭を下げたまま、そう名乗った。


 「そうか。聞いていたとおり若いな。頭を上げてよいぞ。この度は、我が依頼を見事果たしただけでなく。多大なるものをもたらしたこと礼を言おう。それと言葉遣いは、儂の前であろうと気にするな、変な言葉遣いを聞くよりはよい、普段通りでよいぞ。」


 「は、我が身を考慮いただきありがとうございます。」


 俺は、そう返事をしつつ、領主様を見た。思ったより若く、40歳手前と言ったところか。


 「では、魔石の買取とその他の回収部位への報酬についてだが、それについては、そこに座っておる者から報告させよう。」


 「失礼します。私、マルコより、報告させていただきます。

 まず、ケイプクローラーの魔石65個は、買い取り額1個、2千シリングで13万シリングとさせていただきます。

 ワームについては、レオ様もギルドで確認されたと思いますが、サンドワームの魔石と言うことで5万シリングとさせていただきます。

 ケイプクローラーの頭部54個については、過去に記録にあった買取実績と現在の希少性を考慮しまして、1個、1万シリングとさせていただき、54万シリングでいかがでしょうか。

 これら合わせて62万シリング、金貨で62枚となります。この額での買取でいかがでしょうか?」


 「金額については、問題ないが、ケイプクローラーの頭部は、そっちの所有物で構わないと、言ったはずだが?」


 「ええ、当初はそのつもりでしたが、かなり高額なものと判明したため、閣下とも話し合った結果、買取とさせていただきました。」


 「そちらが、それで納得しているなら、文句はない。」


 「ありがとうございます。では、後ほど、そちらについてはご用意させていただきます。次に、ダンジョンコアにつきましては、鑑定を行いましたところ、間違いないとの事でしたので、金銭に代え難い物ですので、こちらで用意させていただいた物と交換と言う形にさせていただきたいのですがいかがでしょうか?」


 「確かに金銭を大量に持っても困るが、一体何と交換に?」


 「はい、それについてはいくつか候補を出しますので、そこから選んでいただければと思います。」


 「いいだろう。」


 「まず最初は、ミスリル製のブロードソードとランクC相当のマジックバック。次にランクB相当のマジックバック。最後にマジックアイテムになりまして、「英知の指輪」、これは鑑定Cと解析Bが付与されています。」


 ミスリル製のブロードソードか、今の俺では、扱うにはちょっと大きすぎる。それにCランク冒険者が持っていい代物でもない、今の俺には不要だな。マジックバックは、Cランクで水を3tまでの収納量、Bランクで5tまでの収納量、Aランクで10tまでの収納量、それ以上がSランクだったかな。


 「CランクとBランクのマジックバックの実際の収納量はどれくらいになる?」


 「はい、Cランクがおよそ水1.5t、Bランクが4.8tになります。」


 Cランクで荷馬車1台分か、Bランクだと3台分か、それを馬も荷駄車も必要なく持ち運べる。すごいな、獲物を街まで運ぶのに今まで25㎏くらいがやっとだったのが、余分な経費もなくそれだけ運べるようになるのか。そればかりか25㎏分の重さも必要なくなる。


 「あと、指輪の鑑定Cと解析Bについて、すまないが効果が分からないので教えて欲しいのだが。」


 「鑑定Cですが、鑑定する物品の名称と簡単な評価が分かります。これが鑑定Bなるとその用途や効果が分かるのですが。

 例えばダンジョンコアを鑑定すると、鑑定Cの場合ダンジョンコア、ダンジョンの心臓部。これが鑑定Bになるとダンジョンコア、ダンジョンを生成したり、魔物を生み出す物といった説明が追加になります。」


 「名称とどんな物かが分かるくらいと言う認識でいいのかな。」


 「そうですね。Cランクですと食べ物だと、まずいが食用可とか、食用不可とかで、調理方法まではわからないのでその程度の認識でよろしいでしょう。

 それと、解析Bですが、体に使った場合は、腹痛がある場合、それの原因が分かる。その対処方法が分かると言った物になります。

 例えば、腹痛、食あたり。初級毒消し薬服用で完治などですね。

 物に使った場合は、ミスリスソード、ミスリルの含有率80%などとなります。」


 うーん、便利と言えば便利か。でも、その辺は、マジックバックで持てるだけ持ち帰って、後で鑑定依頼を出す事である程度、これがない場合でも利便性はカバーできるか。


 「ちなみに、1日何回ぐらい使える?」


 「結構魔力を消費しますので、1回の使用でファイヤーボールを唱えるくらいの消費量になります。」


 「魔力消費型か。俺だと1日5回くらいしか使えないな。なら、すまないが、Bランクマジックバックを頂いてもいいか。」


 「それが希望でしたら、構いませんよ。早速用意しましょう。譲渡後、盗難防止のため使用者登録を行ってください。」


 「ほう、マジックバックだけでよかったのか?」


 一通り話が済んで、褒美としてマジックバックを貰うことを決めると、閣下がそう語り掛けて来た。


 「はい、閣下。ミスリルソードなどCランク冒険者が持っていたら、奪おうと狙われますし、俺の体では、まだ。ブロードソードを扱うのは難しいので、宝の持ち腐れになります。英知の指輪も魔力量の関係で扱いづらいですしね。これで結構です。」


 俺は、そう今回の物を選択した理由を話した。


 「なるほど、それでいいのなら、結構。では、これで失礼させてもらうよ。細かいことは任せるのでね。」


 忙しいのだろう。俺の話がある程度まとまったこともあり、そう言ってきた。俺も、ランクアップの事とか今回の褒賞の事等含め、礼を言う事にした。


 「今回は、色々便宜も図って頂きありがとうございました。」


 「何、構わんさ。こっちも色々利益があるのでな。これからも懇意にしてもらえると嬉しいよ。」


 ラングラー侯爵は、そう言うとこちらに笑みを見せて退出していった。

 

 その後は、マルコと名乗った文官とやり取りをし、何通かの書類に受領のサインを行い、現金とマジックバックを受け取った。

 マジックバックの使用者登録と解除の方法を聞いて、登録後、試しに実際に使ってみる。大きな荷物が、消えていく様は本当に戻ってくるのか不安になるが、取り出すときは頭の中にリストのようなものが思い浮かび、取り出すのにも苦労しないようになっていて、すごい物だと感心した。


 「今回、これだけの物を用意して、俺が貰ったマジックバック以外の他の物はどうするんだ?」


 俺は、あれだけの物を用意してあることに疑問に思い尋ねた。


 「今回は、あるお方への贈り物として、金額だけ伝えて3人の商人に用意させた物です。ですが、レオ様からダンジョンコアを譲り受けたので、代わりにその中から選んでいただいたのです。ですから、残りは侯爵家で買い取りますよ。」


 「残りも買い取るのか。」


 「ええ、商品を用意して貰って、要らないとは言えませんよ。それに別の機会の贈り物や褒美に使えますし、英知の指輪などは、侯爵家で普段使いする予定です。」


 「まぁ、商人も金を出して用意したのだから、買い取らないと大変か。それと、英知の指輪のスキルは、魔法・スキル習得所で聞かないスキルだが、先天的なスキルなのか?」


 「ええ、滅多に授かれませんが、生まれながらに持っているスキルですね。あと、偶にダンジョンドロップでも手に入るらしいですが、魔法・スキル習得所で得られるなら、みんな鑑定Aを取得して、鑑定Cなど見向きもされませんよ。」


 「確かにな。」


 「では、この書類を渡して終わりになります。こちらからの受け渡し目録になります。確認をお願いします。」


 俺は、書類に目を通すと、金品の明細が書かれた一覧だった。受け取った金額や、マジックバックのランク等に間違いがないかを確認して、問題がないことを伝えてやり取りを終えた。


 マルコが下がってから、家令を務めるジョハンスさんが、再び現れ、館の外まで案内され、そこで武器を受け取り、帰りの馬車が用意されていたので、お言葉に甘えて使わせ頂き、冒険者ギルドの近くまで乗せて貰った。帰りもグレゴリオが同乗してくれたので、二人分の報酬を彼に渡した。

 当初の約束は、魔石代の1割だったが、部位報酬も払われたため、そちらも1割払った。最初は金額が大きくなりすぎると遠慮していたが、俺だけ貰いすぎるのもいい気がしないので無理やり押し付ける形で渡した。




 冒険者ギルドに入ると、受付にキャスパーが居なかったので、適当な職員にギルド長から依頼の受諾の旨を伝えて、手続きを行った。

 依頼者や他の冒険者との顔合わせは、都合がつかずに当日になるそうだ。

 それと、今日貰った金額の大半をギルドに預ける手続きを行った。

 俺は、まだ時間もあることから、金銭的にも余裕があるし、魔法・スキル習得所で、身体強化の魔法も取得しようと向かった。

 魔法の身体強化系、職人系の人間は魔力量など普段から使わないため、余裕がないので取得する者もいないため、基本魔法使いと一対一での指導となる。

 指導する魔法使いが空いていれば、その後の身体強化の講習もスキル習得時に受けているため免除となるので、護衛依頼前に習得が終わると見込んで受けることにした。

 同様スキルと魔法、現段階で習得はもったいないかな?とも考えたが、スキルだと発動が1日1回のため、使い所を誤る危険もあり、魔法も習得することとした。





 魔法・スキル習得所に着くと、前回対応してくれた女性が居たため、そこに向かった。


 「いらっしゃいませ。あら、この間身体強化スキルを習得した方ですね。改めまして、レニーと申します。」


 「レオと言う。今度は身体強化魔法を習得しようと思い、その前に明日から受けられるかと、習得期間を確認したい。」


 「わかりました。少々お待ちください。」


 そう言うと、レニーは素早く後ろの棚から必要なファイルを2冊抜き取り、確認しながらも戻って来た。


 「お待たせしました。身体強化魔法を教えられる方は、1名は、明日からでも空いております。習得期間ですが、スキルの身体強化を習得しておりますので、魔法習得に必要な3日間のみで受講可能です。費用の方は2万シリング、金貨2枚となります。」


 「ギリギリだな。まぁいいか。では、受講させてもらおう。」


 そう言って、手続きを済ませ、翌日から魔法を習得を依頼日前日までしたのだった。


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