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石の花嫁

新キャラ登場パートです。

 呼びかけられて、少女は花のような笑みを浮かべる。


『はい、それがわたくしの今の名です。フェレスは愛称のようなものですわね』


 そう。騙(だま)していたとは言い難(がた)い。


「やっぱり化物じゃないか。ずっと御祝(みいわい)君につきまとってたくせに、裏切ったんだよ!」


 饒舌(じょうぜつ)すぎる。言葉が重ねられる毎に、違和感が重なる。原因は初対面時と今の食い違い。彼は琴音と同じく、使い魔が見えていないようだったのに。


「……林道先輩、フェレスが見えてるんですよね? なら、最初会ったとき、なんでフェレスに反応しなかったんです? 優雅なんか、一目で未成年者略取扱いしたってのに」


 初対面の折、林道はフェレスに無反応だった。それが、フェレスの指摘と、別れ際の呼びかけで隠匿が発覚した。

 額面通り見えていなかったのなら先の供述と矛盾し、見えていながら無視したのならば、思惑があったということになる。


「見えてて黙ってた、ってのはおかしいですよね? 結論、疑わしい」


 林道は言い訳も悪びれもしなかった。


「ちっ、芝居っ気がありすぎるって言われてんのに、調子に乗っちまったか」


 当初、七瀬は林道を危険人物視していなかった。単に声をかけられただけならばついて行っただろうが、こうなれば立派な最有力容疑者である。動機に全く心当たりは無かったが。


「演技は大根ですね、林道先輩。四ツ角(よつかど)を殺したのも先輩ですか?」


「四ツ角? ああ、あのデブか。でもあの豚、預かり物なくしてやんの。腹立ったから宝石はちょろまかしてやったけどな」


 七瀬が銃弾を持ち出したことで、林道は奪う機会を失ったようだった。喜劇役者のような身振りに、七瀬は真意を測りかねた。


『遊びも大概にせよ、リンドウ。小細工を弄(ろう)せずとも不意は突けたであろうに』


 第4者の発言に、フェレスは緊張した面持ちで上空をにらんだ。釣られて七瀬も視線を上げると、そこには黒尽くめの人影が浮遊していた。


「わ、う、浮いてる? あ、魔法か。それにしても、奇異な格好してるなあ」


 七瀬は“魔法売ります!”に関わった人間だと早合点した。

 シックな黒のドレスは、七瀬のような素人にも高級品と分かる。20歳代の成熟した女性の体つきだが、顔は黒いヴェールで半ば隠れている。七瀬には喪服のように見えた。


『メフィストフェレス・ロックブーケ(石の花嫁)! 遅い顔見せですわね』


 フェレスは強い語気で叫ぶ。少女は、確かに喪服の女性をメフィストフェレスと呼んだ。




挿絵(By みてみん)




挿絵(By みてみん)




「メフィストフェレス? なんで?」


 混乱する。少女が己をメフィストフェレスだと認めてからまだ舌の根も乾いていない。


『女の身仕度(みじたく)とは時間がかかるものよ。さておき、お前のような出来損ないが介入するとは思わなんだぞ。悪巧みでもしておるのだろうが、妾(わらわ)に浅ましい謀(たばか)りなど効かぬわ』


 女性が答える。2人は知り合いであるらしい。悪い方向に。けたたましいエンジン音を従えて、林道はバイクを女性の真下につけた。


「俺、こっち側だから。そのガキに持ち逃げされてたからさっきは盗(と)り損なったけど、今度こそ貰(もら)ってくぜ。収穫しろ、ビルヴィス!」


『いけませんわ!』


 林道が指をパチンと弾く。言葉を聞きつけた白尽くめが、迅速(じんそく)な挙動で足を払った。


「おわっ!」


 ただし、足を払われたのも転倒したのも七瀬である。


『伏せてらして!』


 少女も地面に身を投げ出す。キンキンキンと、耳障りな音がした直後、仰向(あおむけ)けになった七瀬の頭上を、針金のような細いモノが通り過ぎていった。

 もういいですわよ、と言って使い魔が立ち上がるので、恐る恐るそれに倣(なら)う。


「いっけね、つい首を狙っちまった。手加減ができねえのがコイツの短所だな。ただのお披露目(ひろめ)のつもりだってのに、危うくトランクいただく前に殺しちまうトコだったぜ」


 林道は七瀬の無事に、なぜか胸をなで下ろしているようだった。


『臆病者が。逸(はや)りおって』


 ロックブーケが小さく吐き捨てた言葉が、七瀬には妙に印象に残った。


「魔女の箒(ほうき)じゃない。2つ目の魔法?」


 風景の1部が歪んだ。近くにあった建物が、電柱が、徐々に傾(かし)いできたのだ。見れば、建物も電柱も、七瀬の肩のあたりの高さから切れ目が入りズレてゆく。どれも、すっぱりと両断されている。

 1拍遅れて、すべてが倒壊した。


「さっきの紐(ひも)みたいな影が四ツ角の首をはねたのか。突っ立ってたら、身長が縮んでたな」


 電柱や建物のさらす鋭利な断面を見て息を呑(の)む。使い魔の機転が無ければ死んでいた。


『わたくしのナナセと異なり、随分とエレガントさに欠ける相方ですわね。ここで1戦交えるつもりですの?』


 ロックブーケと呼ばれた女性は薄く笑った。


『挑発には及ばぬ。最前に押し入った際、地獄もそこの介添(かいぞ)え役も発見できなかった時点で、こちらの奇襲は失敗よ。大方、不意打ちを警戒して隠匿したのであろう』


 ヴェールが揺れる。七瀬を一瞥(いちべつ)したらしい。やはり、両手の自由を取り戻したフェレスが体とトランクを倉庫外に避難させてくれたのだと七瀬は納得した。結果、倉庫にいた四ツ角は首を切られ、七瀬は命を拾った。

 林道が会話を引き継いだ。


「俺も相方も、確実な勝利が大好物でさ。福主君を預かってる。友達なんだろ?」


 七瀬の顔色が変わった。



ペースはまずまず順調です。

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