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灰かぶり媛の奇縁譚  作者: 藤瀬京祥
伍章

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第拾話 黎佳澄 弐

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

「また来ていたのですか、あの盗人め!

 性懲りも無く。

 しかも吾子まで盗人呼ばわりするとは……」

「お、お母……様……?」

「立ち入り禁止の意味が理解出来ぬのか、あの空気頭め」


 怒りも露わに、実の姪を盗人呼ばわりして憚らない薔薇(そうび)の気迫に、同じ食卓を囲む琳瑶(りんよう)は気圧されて言葉に詰まる。

 いったい何がどうして薔薇がそんなに怒っているのかと思ったら、昼間も一緒にいた侍女が小声で琳瑶に教えてくれる。


佳澄(かちょう)様は以前、あの部屋から薔薇様の宝物を勝手に持ち出したことがあるのです」


 もちろん部屋にも勝手に入り込んで。

 元々あの部屋に鍵は付いていなかったが、そんな佳澄の行動が原因で鍵が掛けられることになったのである。


 後から付けた鍵なので壊せないこともないけれど、佳澄にそんな力はない。

 使用人に道具を使って壊させればいいのだが、使用人は佳澄の命令より薔薇の指示に従う。

 特にこの西の離れのことに関しては。

 だから鍵が取り付けられて以来、佳澄は風通しなどで鍵が開けられるタイミングを見計らって忍び込もうとしているらしい。


 おそらく今日も、庭院(にわ)のどこかに忍んで様子を見ていたのだろう。

 薔薇が一足先に部屋を出ていったものの鍵は開けられたまま。

 侍女が残っていることは間違いないが、薔薇さえいなければなんとかなると思い突撃を敢行した……というのが琳瑶が遭遇した事態と思われる。

 ここまでをきいて今日の出来事を理解した琳瑶だが、わからないことがある。


「えーっと、その、お母様の宝物というと?」

「もちろん琳瑶様のお古……いえ、琳瑶様が以前にお召しになっていた衣装などでございます」

「そうですよねぇ」


 侍女が言い直したのは、おそらくすぐそこで食事をしながら聞いている薔薇に忖度してのことだろう。

 実際はともかく、主人である薔薇の宝物を 「お古」 というのは気まずかったに違いない。


(そこ、言い直さなくても大丈夫です)


 口では侍女の返事に納得した振りをしつつ内心ではそんなことを思う琳瑶だが、問題は言い方ではない。

 まだ会ったことはないけれど、妹の佳流(かりゅう)は琳瑶と一歳違いの十三歳だが、姉の佳澄は四歳も年上の十六歳である。

 昼間会った佳澄と琳瑶は、同じ衣装が着られるとは思えない身長差があった。

 佳澄はいわゆる中肉中背だが、それでもまだまだ成長期の琳瑶とは肩幅なども全然違うのである。

 絶対に着られないことはないだろうが、手直しするには絶対的に布が足りないはずだ。


(袖とか裾とか、前身頃とか、あ、後ろ身頃も駄目というか、無理があるというか、きつきつというか)


 それでも頑張って琳瑶の衣装を佳澄が着ようとしたら、いかにも不格好になるのが目に見えている。

 しかも薔薇は琳瑶が着ることを前提に柄を選んで仕立てている。

 それが佳澄にも似合うかといえば、わからない。

 わからないが、不格好になることは間違いなく、琳瑶にも想像がつく。


 そのくらいは佳澄にだってわかるはずなのに、どうして琳瑶のお古を欲しがるのだろうか。

 もし薔薇のお宝が自分より歳下の子どもの衣装や小物だと知らなかったとしても、すでに一度持ち出しているというからその時にわかったはずである。

 それなのに彼女は、今日もずいぶんと強引に薔薇のお宝部屋に入ろうとしていた。


 そもそも佳澄だって黎家(れいか)の娘である。

 父の(れい)芳雲(ほううん)にまともな稼ぎはなくても、叔父の屋敷にお世話になっていて日々の暮らしに困ることはなく、衣装を含めた身の回りの物にだって困っているとは思えない。

 昼間見た時も、決して粗末な衣装ではなかった……というか、それなりにいい生地を使った衣装で、仕立てだって悪くはなかった。

 少なくとも琳瑶と同じ程度の衣装は着ていたし、髪型にいたってはずいぶんと派手派手しかった。

 ずいぶんと背が高く見えたのは、必用以上に高く結い上げた髪のせいだったのかもしれない。


(そういえば、髪飾りもやたら付けていたっけ)


 思い返してみれば、彼女が身につけていたのは、衣装を含めてどれもそれなりに値の張る品だったような気がして、ますます佳澄が琳瑶の古着を盗もうとした理由がわからなくなる。


「でもお母様にとっては宝物ですが、その、佳澄様にとってはただの古着ですよね」


 大好きな薔薇に嫌われるのは琳瑶も嫌である。

 絶対に嫌である。

 だから言葉を選んだつもりだが、結局 「古着」 という言葉を使わざるを得ず、チラリと薔薇を見る。

 そして食事を再開した薔薇が反応しないことを確認して続ける。


「……しかも佳澄様とわたしでは身長とか色々と違います。

 その、わたしの古着が着られるとは思えないのですが、どうするつもりなんですか?」

「売るのです!」


 琳瑶の質問に気まずそうな顔をして返事に困る侍女に代わり、怒りを堪えた薔薇が答えた。

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