美酒と唄に酔いしれる夜~頼れる師匠~
サシ飲み三杯目 ― ライアとともに
場所:酒場《銀鱗の吐息亭》
酒:清酒「竜鱗」
相手:ライア
次の舞台は、武骨な木の柱と石造りの壁に囲まれた居酒屋。
派手さはないが、剣士や冒険者達がよく集う場所らしく、ざわめきの中に熱気が満ちていた。
テーブルに並んだのは、透き通るように澄んだ清酒。
喉を滑らせればすっきりとした飲み口の奥に力強い旨みがあり、まさに戦士にふさわしい一杯だった。
「ふぅ…こうして飲むのは悪くないな」
ライアはぐいっと盃をあおり、口元を袖で拭う。
普段の真剣な剣士の顔つきとは違う、どこか肩の力の抜けた表情がそこにあった。
「実はさ、俺の世界に“日本”って国があってな。そこにも清酒に似た酒があったんだ」
盃を口に運びながらそう言うと、ライアは興味深そうに眉を上げた。
「へぇ、案外似てるのかもな、こことお前の世界って」
彼女はごくりと喉を鳴らし、盃を置いて腕を組む。
「どうだろうな…」
俺は少し笑いながら首を振る。
「俺の世界じゃ、もう剣で戦うなんてしてなかったよ」
「じゃあどうやって戦ってたんだ?」
「俺の世界って、魔法がない代わりに技術が発展しててな。『銃』っていう武器が主流だったよ」
ライアの問いに、俺は盃を揺らしながら答える。胸の奥がわずかにざわついた。
「じゅう?」
ライアが不思議そうに眉をひそめる。
聞き慣れない言葉に戸惑っているのが見て取れた。
「こっちにあるクロスボウの強化版って感じかな。引き金を引くだけで、矢みたいなのが一瞬で飛ぶんだ」
「ああ、あれか」
ライアはすぐに戦場を思い浮かべたのか、真剣な顔になる。
「確かに、あれは厄介な武器だな…一対一の勝負には向かないけど、大勢を相手にするなら恐ろしく強い」
盃を置いた彼女は、まっすぐな瞳で俺を見据えた。
「だけどな、剣は戦士の誇りだ。技術で作られたどんな武器よりも、己の腕と心で扱う剣こそ、真に頼れるものなんだ」
その言葉があまりにライアらしくて、俺は思わず笑みがこぼれる。
「…まぁそんなこんなで、俺は銃どころか剣を振るう機会なんてなかったんだ」
俺が肩をすくめると、ライアはくすりと笑い、思い返すように目を細めた。
「確かに、最初のお前は全然剣の心得なんかなかったよな。構えもおぼつかなかったし」
その声音はからかうというよりも懐かしむ色を帯びていた。
「でもな、お前には才能があると思うぞ。闇の力があったとはいえ、あの剣術大会で勝ち進んで、私と剣を交えたんだからな」
彼女は盃を再び手に取り、真っ直ぐな瞳で俺を見据える。
ライアの言葉は飾り気がなく、ただ真実を告げるだけのものだった。
その言葉に、胸の奥がちくりと疼く。
俺は盃を揺らしながら、小さく息を吐いた。
「…昔さ、人を助けようとしたことがあったんだ」
ふと口をついて出た言葉に、ライアがわずかに目を細める。
「いじめられてた奴をかばった。でも…感謝なんてされなかった。むしろ俺の方が浮いてさ」
盃の中の澄んだ酒を見つめながら、苦笑が零れる。
「それからは、もう人を助けようとなんて思わなくなった。どうせ報われないって、そう思ってた」
「…カケル」
ライアの低い声が、俺を促すように響く。
「でも、この世界に来て…闇の力を得て、誰かを助けて…『ありがとう』って言われたんだ」
言葉が胸の奥から静かに零れていく。
「それが…すごく嬉しかった。だから闇の力がなくなった今でも、やっぱり誰かを守る力でありたいんだ」
酒のせいか、声がわずかに震えていた。
それでも、ライアは真っ直ぐに頷き、俺の言葉を受け止めてくれていた。
「…なら、剣を学べばいい」
彼女の声は澄んでいて、揺らぎがなかった。
「闇の力なんてなくても、お前は剣を握る資格がある。仲間を守りたいって思える心があるなら、それだけで十分だ」
ライアは盃を掲げ、挑むように笑みを浮かべる。
「いつか――私に追い付いてみろよ」
その言葉に、思わず笑みがこぼれる。
「……ああ、それまでしっかり鍛えてくれよな、師匠」
盃を軽く掲げ返すと、ライアは力強く頷いた。
「ふん、任せろ。弟子が情けなくならないよう、びしばし鍛えてやるさ」
その瞬間、アピアのリュートが優しく爪弾かれた。
「嗚呼~澄みし刃 誇りを胸に 友と歩む」
今回のお相手はライアでした。
どこか豪放磊落でありながら、仲間を導く姿はまさに頼れる師匠そのもの。
酒を酌み交わしながら語る時間も、また彼ららしいひとときでした。
次は寡黙だけれど、誰よりも熱い想いを胸に秘めた彼女との乾杯です。




