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日米転生earth  作者: 照山
序章 2024年
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第4話 ASEAN

2024年1月17日10:00(現地時間) インドネシア・ジャカルタ ASEAN事務局本部


アメリカ合衆国の消失から16日、ジャカルタのASEAN事務局本部では、緊急のASEAN+5特別安全保障外相会合が開幕していた。参加したのはASEAN加盟12か国に加え、太平洋・インド洋の安定を握る周辺5か国である日本、韓国、オーストラリア、インド、ニュージーランドが参加した。議題はただ一つ。「米国の不在下における、東アジアおよびインド太平洋の安全保障体制と対中政策の再定義」であった。


「皆様、ようこそお越しいただきました。我々は今、人類史上最大の危機と秩序の真空状態に直面しております」


議長国インドネシアのチャラビ外相が重々しく開会を宣言すると、会議場には重苦しい緊張感が充満した。アメリカが消えたことで、南シナ海や東シナ海、そして台湾海峡のパワーバランスは一変した。米軍の後ろ楯を失ったASEAN諸国にとって、台頭する中国とどう向き合うかは、文字通り国家の生き残りをかけた試練であった。円卓の席に着いた日本の杉山和馬外務大臣は、手元の資料を注視しながら周囲の様子を観察していた。


安保理の暫定常任理事国に就任した日本の発言には、これまで以上の重みが集まっている。真っ先に発言を申し出たのは、南シナ海で中国と領有権を争うフィリピンのロリエ外相であった。


「我が国は、南シナ海における海洋秩序の急激な変化に強い懸念を表明します! 米海軍による「航行の自由作戦」が途絶えた今、中国海警局や海上民兵の動きはより大胆かつ攻撃的になっています。我々はこの無法な現状変更の試みに対し、共同で断固たる反対の声明を出すべきです!」


フィリピンの強い語気に、オーストラリアのハーマン外相とニュージーランドのキース外相が深く頷いた。


「同感です。インド太平洋の安定と開かれた海の維持は、一部の国家の野望によって脅かされてはなりません。我々有志国は、米国の不在を埋める新たな多国間防衛ネットワークを直ちに構築すべきです」


しかし、ASEAN内部の足並みは決して揃ってはいなかった。中国との経済的結びつきが極めて強いカンボジアのオラエ外相やラオスのフアン外相が、即座に不快感を示した。


「過度な対中牽制声明は、かえって地域の緊張を不要に高めるだけです! 米国が消えた今、我々が直面すべき現実は中国がこの地域の圧倒的な大国であるという事実です。刺激的な声明を出すのではなく、中国との経済連携を深め、平和的な対話で安全保障を担保するのが現実的選択ではありませんか」


「その通りだ。我が国は中国の対外方針を支持する立場であり、特定の国を脅威と決めつけた共同声明には賛同できない」


内政不干渉と全会一致を原則とするASEANの限界が、この歴史的局面においても露呈していた。親米・防衛重視の加盟国と、親中・経済優先の加盟国との間で激しい摩擦が生じ、会議は早くも暗礁に乗り上げかけた。その時、これまで沈黙を保っていたインドのジャイシャンカル外相が介入した。


「争点は対立か従属か、ではない。我々自身が独立した抑止力を提示できるか否かだ。インド洋から太平洋に至るシーレーンの安全は、特定の覇権国に委ねるべきではない。我々インドは、自律的な安全保障枠組みの構築に向け、枠組みの拡大を提案する」


さらに韓国の李(リ)壮啓(ソンケイ)外相も続く。


「我が国にとっても、北朝鮮の脅威に加え、東シナ海の安定は死活問題です。米国という巨大な傘が消えた以上、我々アジア諸国が個別に分断され、中国やロシアの軍事的圧力に屈する事態だけは避けなければなりません」


会議場の視線が、最後に日本の杉山外相へと注がれた。先日の安保理臨時会合で拒否権なき常任理事国としての重責を引き受けた日本の姿勢が試されていた。杉山はゆっくりとマイクを引き寄せ力強い声で語り始めた。


「皆様。我が国は、先般国連安保理の暫定常任理事国としての要請を受諾いたしました。それは、米国を失ったこの世界において、国際法に基づく平和と安定を守り抜くという、日本の不退転の決意であります」


杉山の言葉に、場内の全外相が耳を傾けた。


「中国という大国との対話と経済的相互依存の重要性を、我が国も否定するものではありません。しかし、力による一方的な現状変更、とりわけ台湾海峡や南シナ海における武力行使や威嚇は、ここに集うすべての国の主権と繁栄を根本から破壊します。日本は拒否権を持たない常任理事国かもしれませんが、自由で開かれたインド太平洋を守るため、オーストラリア、インド、韓国、そしてASEANの有志の皆様と防衛・情報共有の協力を劇的に強化する用意があります」


杉山外相の演説は、中国を直接名指しして過度に刺激することを避けつつも、力による現状変更は絶対に容認しないというレッドラインを明確に引く見事なバランス感覚であった。紛糾した議論の末、数時間に及ぶ調整を経て、ジャカルタ緊急会合は「共同声明」を採択した。


文言はASEAN内部の意見対立を反映して特定の国家を指名した批判こそ見送られたものの、「海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)の遵守」「力による現状変更の試みへの強い懸念」「多国間による安全保障対話と情報共有の促進」という、実質的に中国の暴走を強く牽制する内容がしっかりと盛り込まれた。


会合が終わると、杉山外相はオーストラリア、インド、韓国の外相たちと極秘の個別に別室へと向かった。北京が「3月中旬の台湾侵攻」へ向けて着々と軍事準備を進めているとは、まだ誰も知る由もなかった。

次回も楽しみによろしくお願いします

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