第5話 北京冬季五輪 開幕
2024年1月26日20:00(現地時間) 中華人民共和国・北京 国家体育場
夜空を焦がす絢爛豪華な花火とともに、第24回オリンピック冬季競技大会、北京2024が開幕した。
2018年の平昌大会から6年。本来であれば2022年に開催されるはずだったこの大会は、2019年末から世界を揺るがした未知の感染症の長期化によって2年間の延期を余儀なくされていた。幾多の困難を乗り越えて迎えたこの日、首都・北京には、世界96の国と地域から集まった3,210人のアスリートたちが一堂に会していた。8競技112種目で頂点を争う彼らの表情には、スポーツの祭典への熱気と誇りが満ちあふれていた。
アメリカが地球上から突如消失するという、前代未聞の世界的天変地異からわずか25日。世界が混迷と不安に包まれる中、国家国家の威信をかけた巨大イベントは予定通り強行されたのだった。主賓席の中央に立つのは、槫平秋国家主席。仕立ての良い人民服に身を包んだ槫主席は、微かな笑みを浮かべながらスタジアムを見下ろしていた。
「ここに、第24回オリンピック冬季競技大会・北京大会の開幕を宣言します!」
槫主席の厳かな開会宣言が響き渡り、大歓声と華やかな演出がスタジアムを包み込んだ。世界中が画面越しにこの平和の祭典を見守り、アスリートたちの入場行進に惜しみない拍手を送っていた。しかし、その華やかな光の影で、北京の冷気には重苦しい政治的意図と軍事的な緊張が張り詰めていた。
貴賓席に並ぶ各国の要人たちの顔ぶれは、アメリカ消失後の世界秩序の変容を過酷なまでに物語っていた。欧米主要国のトップが軒並み欠席する中、槫主席のすぐ傍らにはロシア、イラン、そして北朝鮮をはじめとする東側諸国の首脳陣がズラリと居並んでいた。彼らにとってこの五輪はスポーツの祝祭ではなく、米国の排他的支配が終わり、中国を中心とする新たな世界秩序が到来したことを世界に見せつけるための巨大な政治的演壇に他ならなかった。開会式に先立ちに行われた首脳会談で、槫主席はロシアのゼリア大統領に対し、含みを持たせた笑みでこう語っていた。
「五輪の成功は、我が国の国力と統治能力が揺るぎないものであることの証明だ。そして・・・祭典が終わる頃には、我々の悲願に向けた「新たな歴史」が動き出すことになるだろう」
五輪の会期は1月26日から2月20日まで。世界中の視線が北京での熱戦に注がれているまさにその裏で、中国人民解放軍の中央軍事委員会は、着々と作戦計画を進めていた。
「五輪期間中は世界中の警戒を解く絶好の煙幕となる。大会が閉幕する2月20日直後から最終カウントダウンに入り、3月中旬――台湾侵攻作戦を発動する」
華やかなファンファーレと歓声に包まれた鳥巣の地下深く、軍事衛星からのリアルタイムデータが人民解放軍統合指揮センターへ次々と送られていた。台湾海峡を隔てた対岸、そして東シナ海の波間に沈む静けさは、嵐の前触れでしかなかった。平和の象徴であるはずの五輪の聖火は、皮肉にも、アジア全体を飲み込む未曾有の軍事衝突へのカウントダウンを密かに照らし出していた。
次回も楽しみによろしくお願いします




