第15話 台湾海峡Ⅱ
2024年3月24日台湾・台北 国防部
第三次世界大戦が幕を開けてからちょうど1週間が経過した。台湾海峡を舞台にした激闘は日を追うごとにその凄惨さを増していた。絶え間なく降り注ぐ中国人民解放軍の弾道ミサイルと長距離爆撃によって、台湾本島の中枢部は深い焦土と化しつつあった。作戦室の大型モニターに映し出された被害状況の数値は、台湾軍の深刻な消耗を如実に物語っていた。
開戦からの7日間で、中国軍の無差別なミサイル攻撃により民間人180人が命を落としていた。軍事的な損害も小さくはない。空中戦や基地への奇襲攻撃により主力戦闘機17機が撃墜・破壊され、海軍のPFG-1202「康定」Kang-Ding、PGG-609「高江」Kao-Chiangの2隻が撃破されてしまった。
これに対し、台湾軍も対空ミサイル網や残存するF-16V戦闘機による反撃を行い中国軍の戦闘機22機を撃墜し、艦船3隻を撃破する戦果を挙げていた。しかし、圧倒的な物量を誇る中国軍にとって、その程度の損害は全戦力のわずかな一部に過ぎなかった。人民解放軍の背後には広大な本土の補給基盤があり、依然として余裕を持ったまま次の大規模攻勢の準備を進めていたのである。
窮地に追い込まれながらも、台湾側を支援する日本からの航空自衛隊機による断続的な迎撃支援や、フィリピン、オーストラリア、インドといった有志国からの海上封鎖・牽制行動が、辛うじて台湾防衛の最後の防波堤となっていた。
同日 15:30 中華人民共和国・北京
台湾海峡における戦況の停滞、そして予想以上の台湾側の頑強な抵抗、さらに日本や有志国による介入に直面し、北京の中南海は異様な殺気と焦燥に包まれていた。執務室の机を激しく叩いた中国の槫平秋国家主席の顔は怒りと焦りによって歪んでいた。
「たかが一つの島に、なぜこれほど手間取るのか! 日本や有志国どもが余計なちょっかいを出しているからだ!」
槫国家主席は冷酷な眼光を周囲の軍高官に向け、低い声で吐き捨てるように言った。
「日本と韓国の政府に対して厳重に警告しろ。これ以上、台湾側へ航空機などの軍事支援および戦闘協力を継続するならば、我が国はさらなる報復措置に出ると伝えろ」
中国政府は直ちに外交ルートを通じて日本および韓国政府に対し、台湾への航空機をはじめとする軍事支援から直ちに手を引くよう強硬な最後通告を行った。しかし、日本政府の大島総理、そして韓国の楊大統領は、この中国側の脅しを即座に、かつ一蹴するように拒絶した。自由主義陣営の防衛線をここで引けば、東アジア全体が崩壊するという共通認識が日韓両政府の背中を押していた。
「我が国の要求を拒絶したか・・・。愚かな選択だな」
報告を受けた槫国家主席は、不気味な笑みを浮かべながら窓の外の空を見上げた。
「これ以上の遅延は許されない。台湾海峡の決着を早期につけるためならば、我が国は・・・核兵器の使用も辞さない。その覚悟を世界に見せつけてやる」
中国最高指導部内で、禁忌の扉を開く過激なオプションが現実味を帯び始めていた。
同日 18:00 韓国・釜山港および周辺海域
朝鮮半島における第二次朝鮮戦争の激化と並行して、世界情勢の潮目を変える新たな動きが生じていた。数日前にNATO(北大西洋条約機構)ロドリゲス代表が宣言した増援部隊のうち、すでに日本や韓国周辺の港湾および空域に到着していた総勢18万5000人のNATO派遣軍の中から7万人の部隊が台湾支援および東シナ海の制海権確保へ向けて直ちに行動を開始したのである。
欧州本国でのロシア軍との対峙を抱えながらも、ユーラシアの民主主義を守るため、大西洋を越えて派遣された英仏独を中心とするNATO部隊が、アジアの海域へと本格的に展開を始めた。
「NATO軍の先遣部隊が東シナ海に到達した! これより台湾支援作戦へ移行する!」
無線を通じて飛び交う各国のコードネーションは、孤立しつつあった台湾軍にとって計り知れない希望の光となった。NATO軍と有志国連合の艦隊・航空戦力は、4月上旬までに上海周辺への上陸作戦、および中国本土沿岸部への大規模な反攻作戦を実行する計画を急ピッチで策定し始めていた。
同日20:00 台湾・台北 総統府
台湾の隰総統は、防空壕の奥深くでNATO軍の到着と、中国側からの最後通告およびその拒絶の顛末を報告書で確認していた。頭上で鳴り響く敵の爆撃音と振動が、緊迫した空気をさらに色濃くしている。しかし、サワ総統の表情には一歩も引かないという強い決意が宿っていた。
「中国側は我々への航空支援を断つよう脅しをかけてきたが、日本も韓国も、そして欧州のNATOも、そしてフィリピンや豪州、インドも我々を見捨ててはいない。我が国は単独ではない」
総統はマイクの前に立ち、全軍および台湾全土の国民に向けて力強く呼びかけた。
「国民の皆様、そして前線で戦う兵士の諸君。開戦から1週間、我々は耐え難い試練の中にあります。多くの同胞が犠牲となり、インフラは破壊されました。しかし、我々はここで屈するわけにはいきません。中国がどのような脅しをかけようとも、核の影をちらつかせようとも、我々の自由と独立への意志を折ることはできません」
総統の声は、ラジオとインターネットを通じて台湾全土に響き渡った。
「我々は徹底抗戦をここに改めて宣言する! NATOの増援が来る、日本の自衛隊が、有志国が共に戦っている。夜明けは必ず訪れる。一歩も退くことなく、この祖国を最後まで守り抜こう!」
総統の揺るぎない宣言に、作戦室の兵士たちは力強くうなずき、それぞれの配置へと戻っていった。核の脅威をちらつかせる中国に対し、世界中の民主主義国家の結束を背負った台湾からは覚悟が感じられた。
次回も楽しみによろしくお願いします




