《第二十七節》伝説の槍(2)
突然背後から声をかけられ、リヴは慌てて後ろを振り返った。
威厳あるその人物を見て、リヴは絶句する。
背後に立っていたのは、ガルシア王国国王、ビースト・ガルシアだった。
彼はリヴの顔を見下ろし、低い声で言う。
「ここは〝禁書庫〟のはずだが?」
ビーストの目には、怒りの色が浮かんでいた。
普段温厚な彼の怒りに、リヴはびくりと肩を震わせる。
「申し訳、ございません…」
分かりやすく萎縮する彼に、ビーストは荒くため息をついた。
「鍵はどうした。今も私が持っているが?」
問いかけられたリヴは、気まずそうに目を逸らした。
「鍵穴の形状を調べて…合鍵を作りました」
とても信じられない回答に、ビーストはしばらく黙り込み、残念そうに頭を押さえた。
「はぁ…そうか。作れたのか…」
冷や汗を浮かべる彼に、リヴは言う。
「えっと…まだ世には出回っていない方法ですので、私以外の者は作れないと思いますよ?」
「いや、お前が作れる時点で大問題だ。…仕方ない、新しい施錠方法を考えておこう」
ビーストはすかさず突っ込むと、呆れたようにリヴの方を向いた。
「それで、なぜここへ入ろうと思った?」
リヴがわざわざ禁書庫へ赴くということは、必ず何らかの大きな理由があるはず。
ビーストはそう思い、勝手に訪れたことはひとまず不問にすることにした。
「…これを、探していたんです」
「これ?」
「上では見つからなかったのですが、禁書庫にならあるかと」
リヴは机の上に置かれた本を一冊、ビーストに手渡した。
受け取ったビーストは、その本をまじまじと見つめる。
本の表紙には、大きく〝The Legend of Garcia (5)〟と書かれていた。
とても年季が入っており、他の本と違って、手入れすらされていないようだった。
「ガルシア伝説の続編…? あれは四巻までではなかったのか?」
ガルシア伝説とは、主に瘴気について書かれた物語だ。
一巻から四巻にかけて、瘴気の性質や習性、瘴気耐性者について事細かに記載されている。
ゼロが瘴気を取り込んで間もないこの頃は、非常に役に立った書物だった。
「ええ。陛下の仰る通り、上にあるガルシア伝説は全部で四巻です。ですが、それだけでは内容が不十分だったもので…」
「……というと?」
「四巻までは、瘴気について書かれていましたよね。瘴気とは何なのか、どういった特徴があるのか。そして、瘴気耐性者の存在についても、非常に詳しく書かれていました。……そう、詳しく書かれていたんです」
「それがどうした?」
「つい最近まで誰も知らなかった〝瘴気〟という存在をここまで詳細に書けた者が、不死身であるはずの瘴気耐性者が消えた理由も、再び瘴気が現れた理由も書いていないというのは、おかしいと思いませんか? まあ、それを知る前に亡くなってしまったという可能性もありますが…」
「ほう。確かに言われてみればそうだな…」
「それで色々と調べた結果、ここに続きがあることが分かりました。もちろん、入ってみなければ分かりませんでしたが。今陛下が持っているものと、机の上にあるものが、そのガルシア伝説の続編です」
リヴは手渡した本と、机の上に重なった本をそれぞれ指差した。
ビーストは半ば感心したように頷き、それから口を開く。
「事情は分かった。だが、それなら私に一声かけてくれれば良かったではないか。なぜ一人で探そうと思った?」
「兄さ…ゼロ殿下に知られたくなかったからですよ」
リヴは言った。
「今開いているページ、そこに〝伝説の槍〟というものが書かれています。それは、瘴気耐性者を唯一殺すことができた、とても神聖な槍なんだそうです」
「神聖な槍、か…。それはまたすごい武器だな」
「ええ」
リヴは頷くと、少し悲しそうに目を伏せた。
「こんな話、もしゼロ殿下が知ってしまったら、きっと探しに行ってしまうでしょう? 第一王子という身分も、何もかも捨てて、ただ自分が死ぬためだけに探しに行ってしまうと思うんです。私は、彼にそんなことをさせたくない」
「だから一人で来た、と」
「それもあるのですが…」
リヴは持ってきていた鞄から小さな瓶とガラスの板を取り出した。
蓋を回して開け、ピンセットで中の物体を掴み、ガラスの板の上にそっと乗せる。
「これは散髪の時に譲ってもらった、ゼロ殿下の髪の毛です」
「……うん?」
唐突な髪の毛の登場に、ビーストは真剣な表情のまま固まってしまった。
リヴはそんな彼の様子に気づいているのかいないのか、得意げに目を細めると、ガラスの板に手をかざす。
すると数秒後、手のひらから銀色の光が溢れ出した。




