70.師匠の過去
更新遅くなりまして申し訳ありませんでした。
作者は都内在住でして職場が諸コロナ渦に巻き込まれており忙しい毎日です。
皆様も体には十分お気をつけてお過ごしください。
設定おかしな部分を数カ所訂正していますので読み返して頂ければと思います。
「久し振りだなぁ、ベルフェゴル」
「シャクール…貴様がなぜここにいる?」
「私はその子達に魔法を教える師匠とでも言うのかな。まだ殆ど何も教えてはおらんが」
「次期勇者を育てるつもりか?」
「そうなるかも知れんし、そうならないかも知れん。その子達次第だな」
「では今この子供達は殺しておかないといけないな」
「そうはさせん!」
シャクールは高速移動で倒れているトレシアスクとベルフェゴルの間に移動し杖を構えた。
「っふ!勇者のパーティの魔法使いであったお前が子供の魔法の師匠とは…時とは残酷なものだな」
「お前に言われたくないわ!前魔王の4番隊隊長ベルフェゴル。…現魔王の下に就くのが嫌だと言って魔王軍を抜けたのは聞いたがこんな所でこんな組織の支部長か。随分降格したな」
「だまれ!魔王様が亡くなってから行き場をなくし途方に暮れた私の気持ちなどお前にわかるか!」
「大切な者を亡くした気持ちはわかる。それでお前には結局人を怨む気持ちしか残らなかった…と言う事か」
「当たり前だ!私は人間に復讐すると決めたのだ!だから私は人売組合の支部長を請け負った。人に復讐する。それは現魔王の為ではない!前魔王様の為にだ!」
「行き場を失った老兵よ。お前と私は似ているな」
「あ゛!?」
「私も人類と勇者の限界を感じた。あの勇者ですら簡単に死ぬ。そして人はどんどん衰退して行く。成す術が私にはない」
「…」
「だから私は未来に託す事にしたのだ。過去を振り返るよりも前を向くと決めた。この子達は長年探し求めた逸材だ。貴様のような過去に囚われた後ろ向きな者が奪って良い命では無い!」
「言わせておけば…」
ベルフェゴルは杖をシャクールに構え魔法を詠唱し放った。
「ムエルトディソナンス」
ムエルトディソナンスとは風系魔法の特級魔法である。
その中でも特殊で音波で空気を揺らし相手にダメージを与えると言う物でかなり強力だ。
杖から見えない空気の振動がシャクールへ向かう。
それをシャクールは詠唱し魔法でレジストする。
「ムエルトディソナンス」
ベルフェゴルは奥歯を噛み締めて言った。
「っく!気様に私の魔法が止めれるか!」
そう言うとベルフェゴルは魔法に込める魔力を増やした。
自分の魔法が押され始めた事を感じ、シャクールも更に魔力を増やした。
以前のシャクールであればベルフェゴルの魔力量に劣ったが今のシャクールはそれに対抗出来る力を付けていた。
昔のシャクールの記憶の濃いベルフェゴルは驚いた。
これ程力を付けていたとは思っていなかったからだ。
そして口を開いた。
「貴様…いつの間にこれ程…」
「ふん!過去に生きている亡霊が未来を生きる者に勝てる訳ないだろう!私はあれから鍛錬を積み強くなっている。そして今も進化し続けているのだ!」
ベルフェゴルは今のシャクールのレベルが気になった。
そしてスキルを使ったがシャクールはその気配を感じレジストした。
レジストされた反応がベルフェゴルに返り、ベルフェゴルは片目を瞑って目にゴミが入ったような表情をした。
「鑑定をもレジストするか…」
「無論だ!次はこちらから行くぞ!」
そういうとシャクールは互いの魔法を上空へ交し瞬間移動でベルフェゴルの背後を取る。
だがベルフェゴルも負けてはいない。
直ぐに後ろ蹴りを放ちシャクールを攻撃するがシャクールは超至近距離にも拘わらずベルフェゴルの後ろ蹴りを横に反れて避ける。
そしてベルフェゴルの横腹に杖を沿え魔法を発動させる。
「モルテムシャイニング」
モルテムシャイニングは光系の魔法の特級魔法だ。
光と火系魔法の中間に属しこれもまた特殊な魔法である。
光と熱は隣接した関係にある。
その為濃い光は熱を帯びるようになるのだ。
例えるのであればアトミックボムのような効果がある。
その魔法を諸に受けてしまったベルフェゴルは体を捩りさせて顔を歪め、衝撃で吹っ飛ばされる。
「ぐはっ!」
数m飛ばされたベルフェゴルの下に空かさず魔法陣が現れる。
シャクールが魔法を発動させたのだ。
シャクールは詠唱し、魔法を発動させた。
「メギドフレイム」
すると魔法陣から赤と青の入り混じった火柱が上がり天井まで燃やし尽くす。
空間にはベルフェゴルの悲痛な声が響き渡った。
「ウギャーーー!!」
数秒後火柱の中からベルフェゴルが脱出して来た。
体は焼かれ、先ほどまでフサフサしていた毛は無くなり耳は燃え、部分によっては皮膚まで溶けている。
その姿を見てシャクールは言った。
「アークアタスラピスの杖を持っていてもその程度か?」
アークアタスラピスとはこの世界で最も強力な魔法石である。
虹色に光り、アダマンタイトよりも硬く持ち主の魔法を何よりも強化してくれる魔石だ。
この魔石は限られた者しか所有していない高価で貴重な物である。
元魔王軍幹部であったベルフェゴル故、所有出来ている物と言えるだろう。
本来ならば魔王軍脱退時に魔王に返還、もしくは取り上げられてしまう物であるがベルフェゴルは持ったまま脱退をしていた。
「うるさい!貴様などに私が負ける訳な…」
ベルフェゴルはシャクールと接近戦を挑む為、踏み込む足に力を入れ飛び出そうとした。
が、足を何かに掴まれた。
足元を見るとトゥキーが足を掴んでいたのだ。
その為ベルフェゴルは飛び出す事を一瞬躊躇い、足を掴むトゥキーに鬼の形相をし言った。
「小僧ぉ…」
が、シャクールはその一瞬を見逃さなかった。
瞬間移動しベルフェゴルの横へ立ったのだ。
ベルフェゴルが振り返っている逆方向にである。
それ故ベルフェゴルがシャクールに気付くのが遅れる。
シャクールはベルフェゴルへ杖を向け詠唱し魔法を発動させる。
「タナトスルーム」
ベルフェゴルはシャクールの詠唱する言葉が聞こえ横を振り返った。
だが遅く、既にシャクールは詠唱を終え魔法を発動させていた。
魔法を諸に食らったベルフェゴルは苦しみ出した。
タナトスルームとは風系魔法の特急魔法である。
この魔法の発動範囲内を真空状態にする魔法。
要は息が出来ないのだ。
その為息が出来ず悶えているのだ。
声とは空気の振動により耳に伝わる物である。
その為ベルフェゴルの呻き声は聞こえない。
苦しんでいるのは視界に入って来る為理解出来るが声が聞こえない為ナチスが虐殺を行ったガス室の監視カメラ画像を見ているような気分になる。
そして2分もせずにベルフェゴルはその場に崩れ落ち白目を剥きながら身体全体が青くなり、口から吐血し身体は縮まり倒れている。
シャクールはその姿を見て魔法を解除し、少しベルフェゴルを眺めると直ぐにトゥキーを見て言った。
「ナイスだ。お陰で勝てたぞ」
そういうと詠唱をし出し、詠唱が終わると魔法を発動させた。
「フルレフリヘリオ」
するとトレシアスクに緑と黄色の交じった光が其々の上に現れた魔法陣から降り注いだ。
傷は癒え、身体は回復をした。
だが精神の回復をする訳ではない為皆まだ立ち上がって来る気配はない。
意識のあった俺は直ぐに立ち上がり師匠に質問をした。
俺は倒れてはいたが師匠とベルフェゴルの会話は聞こえていた。
その為師匠に聞きたい事があったのだ。
「師匠…」
「ん?」
「師匠は勇者のパーティにいたんですね」
「うむ。私が若い頃、勇者の称号を得た者と魔王討伐を目標に魔王に挑んだ事がある」
「だけど抜けたんですか?」
「うむ。30を過ぎた頃か…色々見えて来てしまったのだ」
「と言うと?」
「当時の勇者は魔王は勿論、魔族討伐を目標としていた。私もその討伐に加わった。魔族を討伐しダンジョンを攻略し自分を強くした。だが魔王には叶わなかった。命からがら逃れ更に自身を強くする為魔物や魔族と戦った。だが戦って行くにつれ一つの疑念が生まれ。私達がやっている事は正しい行いなのかと」
「…」
「全て悪い魔族ではなかった。家族を守ろうとした者や自分達の村を守ろうとした者、魔族は私達人間と変わらなかったのだ。それまでそれが義務だと思い戦って来た。魔族に殺されかけた事だって1度や2度じゃない。だが魔族が何かした訳じゃない。何もしていない魔族を急に襲って、殺していたんだ。私達の目を恐れる子供の魔族を見てふと思った。これは虐殺だと。それを当時の勇者に話しても鼻で笑われたよ。「魔族に同情してるんじゃねー」とな。このままでは負の連鎖は止まらない。勇者が魔王を倒す…それはこの世界の変えられない、変わらない摂理だったとしても魔族が人間を、人間が魔族を憎む争いはなくならない。そう考えた時この勇者ではダメだと感じた。何よりも強く、そして何よりも広い心を持った人間…もしくは魔族がこの世界を統治しなければ争いはなくならない。そう気付いた私はその日にパーティを抜けたよ。フードを被って歩くのも昔殺してしまった魔族に未だに私を追っている者も多い。何より魔王軍に顔が知れてしまっているからな。私は魔王大陸ではお尋ね者なんだよ。軽蔑したか?」
「若気の至りって者は誰にでもあります。だけど過去は変えられない。この魔法がある世界なら可能かも知れないけど。…それが出来ないのであればその過去を背負いどう生きていくか…それが大切だと思います。後悔は大切です。だけど前を向かないのはまた別の話し。後悔を糧に人は成長して行くんです。今の師匠の考え方は俺は好きです。今回の事でまだまだ力が足りない事を理解しました。魔王を相手にするならこのままではダメです。俺達に魔法を教えてください」
「そう言ってくれるか。そうであれば先を急ごう。このままでは確実に殺される。当初の目的通りバルテオナへ急ごう。修行した後、仕上がり状況次第で再度人売組合を叩く…それで良いかな?」
「はい。その間苦しむ人、助けられなかった人も出るでしょうが致し方ないと思います。俺達が非力なのが悪い」
「よし!では皆を起こそう。ベルフェゴルは倒した。あとは雑魚しかいない。囚われている者を救い町に返した後に直ぐに出発しよう」
「わかりました」
そして俺は皆を起こし、地下にいる囚われた子供達を救出して町に届けた後バルテオナへ向かって出発した。
バルテオナへ向かう道中2カ国を通った。
モロットを出てポストラム、スペニー、バルテオナである。
その道中立ち寄ったポストラムはモロットと似たような国でモロットより栄えてはいるが人売組合は存在しており、昼夜問わず人浚いは行われているようだった。
そういった犯罪行為が行われるのは路地裏や人気のないような場所で行われる。
またその場に居合わせると首を突っ込みたくなる性分の為トレシアスクはそういった場所に近寄らないように心がけていた。
スペニーに関してはポストラムよりも栄えており、町にも活気があり、人は親切で度々魔族や獣人も目にした。
同じ魔王大陸でもここは港町。
海を渡れば聖大陸であり聖大陸からの往来もある事はあるらしい。
人売組合の存在が感じられないような町ではあるが普通はそういう物である。
ポストラムやモロット、アジェリアのように人売組合が表立って活動する国は少ない。
裏の社会と言うのは表の社会と裏で通じている。
裏で通じてはいるが表にはわからないよう活動しており、一般人には存在すら知られていなかったりする。
俺のギャングに関しては構成員が多すぎた。
何せアメリカの東海岸全域に支部があった為どうしたって目立ってしまう。
だがマフィアは別だ。
アングラな世界に興味ある人間だったり俺達のような裏の世界の住人ならマフィアがどんな活動をしてどんな事を行っているか。
そこの構成員すら私服であってもどこの組織の人間か大体見当が付く。
だが一般人にはわからない。
自分の住んでいる地域に○○○と言った組織があるのは知っているが事務所がどこなのか、その構成員は何人か、ボスの名前なんかも普通は知りえないはずなのだ。
それ故、ポストラムやモロット、アジェリアのような町は珍しいと言えるだろう。
ポストラムからは海を船で渡った。
ポストラムは魔王大陸、バルテオナは聖大陸に位置している。
その為ポストラムからバルテオナへ入る者はかなり厳重に調べられる。
だがシャクールがいる為その厳重な取り調べはなかった。
元勇者パーティの魔法使いシャクール・オニールは割と有名らしい。
これから会おうとしている魔剣士も戦士も元勇者パーティにいた者だと言うからそのせいもあるのだろう。
逆に聖大陸から魔王大陸への移動は自由だ。
自由であってもあまりない。
聖大陸の住人からしたら魔王大陸は治安が悪く、魔王と言う恐るべき支配者のいる国。
魔王大陸は聖大陸の者からは昔から恐れられており、魔王大陸に渡ると言ったら正気かと疑われるレベルだと言う事だ。
年々魔王大陸は聖大陸へ進行を進めている。
ここバルテオナからポストラムまではドーバー海峡位の距離しかない。
にも関わらず魔王大陸側からの進行がないのはここバルテオナの軍事力によるものが大きいとの事だった。
バルテオナは聖大陸でも有数の軍事国家であり魔王軍1~5軍クラスの者が来ない限り侵略されない程の力を有しているとの事だった。
この国の軍に魔剣術士と戦士の師が属しているとの事で元勇者のパーティだった者には特に親切なのだと言う。
町は大変栄えており長閑で軍事国家と言う印象は受けづらい街並みが広がっていた。
国の領土も何処から何処までが領土かもわからない位広く、恐らく王宮だと思われる城は山の中腹程の高台にあり、恐らくその下に広がるのが王都なのだろう。
俺達が見て来た魔王大陸の町とは全くと言って良い程別物だった。
ポストラムの港からバルテオナの町は見える距離にあるのにも関わらずポストラムの港からバルテオナは見えない。
靄のような物があり、少し進むと靄が晴れバルテオナが見えると言う現象が船中であった。
師匠曰くそういうものなのだと言う。
それも一種の魔法のようなものなのだろうかと俺は思った。
すると師匠が口を開いた。
「これからミカールとアズラーの所まで行く。状況次第では5年から10年の修行となるだろう。世直しをしたくば強くなれ!強くなってから救えなかった命の分も救え!良いな?」
「はい!」
「それまでは精進するように!では行こう!バルテオナへ!」
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