生者の法則
翼が崖側を目指したのは視界の利かない中を闇雲に歩くのは危険と判断しての事だった。
もちろん他の選択を考えなかったわけではないが、今の状況でチャレンジ精神は称賛されるものではないだろう。フィスが無事だったとはいえ、既に彼女に頼るのは無理があるように思えた。ここからは自身が頑張りを見せる時である。とにかく今、最優先させるのは少しでも風を避けられる場所を見つける事だった。何しろ、強風が吹いているわけではないとはいえ、妙に風が冷たく感じる。明らかに崖の上とは気温が違うと思えた。問題は都合よくそんなものが見つかるかどうかであるが。
ところが――
「あった……?」
思わず言葉に疑問符がついてしまうほどに、アッサリと穴倉が見つかった。しかも都合よく枯れた草花が寝藁の様に敷き詰めてあった。もしかすると獣のねぐらでも見つけてしまったのだろうか。湧きあがる疑念を打ち消そうと中を観察してみる。
だが……
「要らぬ心配だったか?」
獣のねぐらにしてはそれらしき匂いがない。獣のぬけ毛などもないように見える。たまたま出来たにしては出来すぎている気がしないでもないが、正直それ以上の観察は断念せざるを得なかった。フィスが限界を迎えたように、翼の体も疲れと痛みが叫びを上げていた。休める所を見つけてしまった事で緊張していた糸が切れたと言っても良いかもしれない。どちらにしても後は何もない事を願いながら休むくらいしか、今の翼に出来る事はなかった。
「フィス。とりあえず、ここで少し休もう」
声を掛けてみるが反応がない。ただ規則正しく彼女の小さな胸が上下しており、寝息のようなものが微かに聞こえる様子からすると、疲れ切って眠りに落ちてしまったのだろうか。眠り姫となったフィスを起こさない様に穴倉の奥に寝かせると、自身は入り口側の場所に腰を下ろし、長い一息をつく。
「ふぅ……。よくもまあ、生き残れたものだ」
今日の出来事だけで日本昔話の主人公達がどれだけ凄いのか理解出来た気がする。小さい頃になんとなく聞かされていた鬼達とは、あのトロールの様な恐ろしい存在だったのだろうか。作り話か実話なのか分からないが、それに近い化け物が昔の日本には居たから生まれた話だとも言えるかもしれない。火のない所に火事は起こらないと言うような、ことわざもある事だし可能性はある。そういえば現在の日本では消えてしまった翼と図書館の事がどんなニュースとなって流れているのだろうか。はたして家族は……
そこまで考えたところで体の痛みを遥かに上回った疲れにより、翼の意識は刈り取られたのだった。




