最終話 国王よサラダを食え
最終話 国王よサラダを食え
王都ベジキャッスルの中央広場には国民全員が集まっていた、巨大なカリフラワー頭の国王は玉座に座り、薫とエマとマンドゴラはその正面に立ち、なぜか実況席まで用意されており、さらに上空には巨大な文字で最終話と書かれた横断幕が浮かんでいた。
「誰が準備したんですのこれ」
「知らん」
「我だ」
「お前だったのかよ!」
マンドゴラは得意げに葉っぱを揺らした。
「最終回だから盛り上げようと思って」
「急に有能になるな」
国王は咳払いをした。
城が揺れた。
民衆が転んだ。
伝書鳩が三羽ほど気絶した。
「勇者よ」
「なんだ」
「余は野菜が怖い」
「知ってる」
「見た目が怖い」
「慣れろ」
「食べたら世界が終わる気がする」
「終わらねえよ」
「本当にか」
「本当だ」
エマが呆れたように言った。
「そもそも陛下だけではありませんわ、この国全体が思い込みだけで生きていますのよ」
「耳が痛い」
「カリフラワー頭でよく聞こえますわね」
「やめて差し上げてくださいまし」
自分で言ってからフォローしていた。
その時だった。
突然空が裂けた。
ビリビリと稲妻が走る。
黒い渦が発生する。
「また敵か!?」
「最終回恒例ですわね」
「恒例なのか」
渦の中から巨大な影が降り立った。
全長二十メートル。
黒い外套。
不気味な仮面。
そして頭はキャベツだった。
「また野菜かよ!」
「むしろ安心感がありますわね」
巨大なキャベツ怪人は笑った。
「クックック」
「誰だお前」
「私こそ真の黒幕」
「今!?」
「全ての元凶」
「今さら!?」
「作者も三話前まで存在を知らなかった」
「言うな!」
民衆がざわつく。
キャベツ怪人は両手を広げた。
「私は編集長キャベツン」
「嫌な役職だな!」
「野菜嫌い聖典を捏造した張本人だ」
「お前か!」
国王も立ち上がった。
「余は騙されていたのか」
「そうだ」
「なぜそんなことを」
編集長キャベツンは高笑いした。
「話を長引かせるためだ!」
「最低だぁぁぁぁぁっ!」
「野菜問題が解決したら連載が終わるだろう!」
「メタすぎる!」
「だから千年間引き延ばした!」
「千年も!?」
エマが頭を抱えた。
「打ち切りを恐れすぎですわ!」
編集長キャベツンは杖を振り上げる。
「さあ見せてやろう!」
王都の外が揺れる。
山が動く。
地平線が盛り上がる。
次々と現れる巨大野菜。
超巨大ブロッコリー。
超巨大トマト。
超巨大ナス。
超巨大ニンジン。
超巨大玉ねぎ。
「全部盛りですわ!」
「最終回だからな!」
「理屈になってませんわ!」
巨大野菜軍団は王都へ進軍を開始した。
民衆は悲鳴を上げる。
兵士は逃げ出す。
マンドゴラはなぜかサイン会を始めた。
「今じゃない!」
薫は前へ出た。
「エマ」
「何ですの」
「お前、もう野菜怖くないか」
エマは少しだけ考えた。
目の前には巨大ブロッコリー。
昔なら失神していた。
だが今は違う。
「正直まだ見た目は怖いですわ」
「だろうな」
「でも」
エマは笑った。
「食べれば美味しいんですのよね」
国民達が驚く。
薫も笑った。
「立派になったな」
「誰のせいで成長したと思ってますの」
「俺」
「違いますわ」
「我」
「もっと違いますわ!」
最後までいつもの調子だった。
だがその空気が皆の緊張を吹き飛ばした。
国民達も立ち上がる。
「そうだ」
「トマトは美味かったぞ」
「ニンジンも意外と悪くなかった」
「ブロッコリーも食べられた!」
一人また一人と声が上がる。
編集長キャベツンの顔が歪む。
「馬鹿な!」
「野菜は怖くない」
薫は大声で叫んだ。
「見た目だけで決めつけんな!」
「勇者様!」
「嫌いだからって逃げんな!」
「勇者様ぁ!」
「食ってから判断しろ!」
「それですわぁぁぁぁっ!」
国民達の歓声が響いた。
すると周囲の野菜が光り始める。
キャベツ。
トマト。
ニンジン。
ナス。
ブロッコリー。
王都中の野菜が天高く舞い上がった。
「な、なんだこれは!」
編集長キャベツンが狼狽える。
薫は自分でも分かっていなかった。
「分からん!」
「主人公が知らないんですの!?」
「勢いだ!」
全野菜が巨大な光となる。
そして一つに融合した。
光り輝く巨大サラダ。
「なんでぇぇぇぇぇっ!?」
「最終奥義だ!」
「名称は!?」
「ベジタブル友情努力勝利アルティメットデラックスファイナルサラダ!」
「長ぇぇぇぇぇっ!」
巨大サラダは編集長キャベツンへ直撃した。
ドゴォォォォォォォンッ!
世界が白く染まる。
光が弾ける。
衝撃が走る。
そして。
編集長キャベツンは吹き飛んだ。
星になった。
キラーン。
「雑な決着ですわ!」
「ギャグ漫画だからな!」
全てが終わった。
空は晴れ渡り。
国王は静かに玉座から降りた。
目の前には一皿のサラダ。
トマト。
レタス。
キュウリ。
ニンジン。
普通のサラダだった。
国王は震える手でフォークを持つ。
「余にできるだろうか」
「できるさ」
「怖い」
「大丈夫だ」
「世界は終わらないか」
「終わらない」
国王は頷いた。
そしてサラダを口へ運んだ。
もぐ。
静寂。
もぐもぐ。
沈黙。
もぐもぐもぐ。
国王の目から涙が流れた。
「うまい」
国民達が息を呑む。
国王は大粒の涙を流しながらサラダを食べ続ける。
「なぜ余は今まで食べなかったのだ」
「知らん」
「人生損してた」
「それは本当にそうですわ」
その日。
ベジランド王国は変わった。
野菜嫌いは減り。
農業は盛んになり。
国民は健康になった。
そして薫は勇者として称えられた。
数日後。
王都の広場。
出発の時がやって来た。
「帰るのか勇者」
と国王。
「元の世界にな」
と薫。
エマはどこか寂しそうだった。
「短い旅でしたわね」
「そうか」
「五話しかありませんもの」
「言うな」
皆で笑う。
そして最後に薫はマンドゴラを見た。
「そういやお前結局何なんだ」
「何がだ」
「マンドゴラなのか」
「もちろん」
「大根だろ」
「マンドゴラだ」
「大根ですわ」
「マンドゴラだ!」
「大根だろ!」
「大根ですわ!」
言い争う三人の前に風が吹く。
その瞬間。
マンドゴラの身体が突然光り始めた。
「なにぃ!?」
「まさか本当に!」
眩い閃光。
神々しいオーラ。
天使達のラッパ。
壮大なBGM。
そして光が消える。
そこに立っていたのは。
少しだけ光っている大根だった。
沈黙。
長い沈黙。
「変わってねぇぇぇぇぇっ!」
ベジランド王国にエマのツッコミが響き渡り、そのまま物語は大団円を迎えたのであった。
完。




