54.これからのこと
「あなたの身柄はわたしで引き取るわ。家を用意して、学校に行かせる。模布市のね。まずはこの世界のことを学んで、普通の人間として暮らせるようになりなさい。魔法が使えることは世間に公表しないで。家でこっそり練習するのはあり。東京に帰る香花と普段は会えないけど、時々会いに行くのは止めないから」
「あ、ありがとうございます!」
「ロジャー。大きくなったら一緒の所に住もう?」
「う、うん。そうだね」
「魔法のこと、教えてほしいな。あと電話も毎日するね」
「わかった。楽しみだ」
「まったく。これだから中学生は……」
樋口は再びため息をつくけど、嫌な様子ではなかった。
「あの。ありがとうございました。これで俺は、これから堂々と生きていけます」
五条院がおずおずと話しかけてきた。何度もバギャウヴァの死を確認して、動くことはなく、こちらを見つめる目も消えたことを確信した五条院は、心から安堵している様子で。
「これからどうするんですか? ゲームは発売するんですか?」
「するよ。怪物を警戒するために作ったゲームだけど、俺が心血注いで作ったのは間違いない。なんで同じような怪物が現実に出てきたのかは、魔法のせいにすればいい。魔法があると知っている世間だ。受け入れてくれるさ」
「……そうですね。わたしもゲーム買います!」
「遥は勉強しなきゃだけどな」
「むあー! なんでそういうこと言うの!? ちょっとくらい彼女が楽しいことするのを許してもいいじゃん! というか悠馬! デート行くって約束は果たしてもらうから!」
「わかったよ」
ライナーと悠馬の会話は平和そのもので、みんな笑みを見せていた。
五条院はすぐに会社へと帰っていった。社員たちを安心させなきゃいけないし、ゲームの発売準備をしなきゃいけない。
香花も東京に帰るために模布駅まで行く。樋口とロジャーが見送りに向かった。
「皆さん、本当にありがとうございました! また会いましょう。なにかあったら、手伝えることがあれば何でもしますから! わたしも魔法、少しだけ詳しいので!」
そう、お礼の言葉を口にした。
また今回みたいなことが起こるって、あるのかな。
あるかもしれないな。
「さ。わたしたちも帰るわよー。せっかく堂々と有給取れたんだから。ゆっくり寝たい。というか疲れた。お腹すいた」
「帰ったらご飯ですね。剛先輩も食べますよね?」
「うん。ありがたくいただくよ」
「遥ちゃんのご飯、美味しいから好きよ」
「そ、そうですか。なんかお姉さんに素直に褒められるの、怖いです」
「なんでよ。悠馬と一緒にいる限り、遥ちゃんのご飯ずっと食べられるの幸せだと思ってるわよ」
「あー。優しいお姉さんがなんか違和感!」
「なんだよ。ちゃんとした彼女になれたんだから、それは受け入れろよ」
「アユムちゃんも彼氏見つかるといいねー」
「言い方が投げやり」
「ラフィオー。帰ったらモフモフしていい?」
「いいけど、今もやってるだろ?」
「ぬいぐるみと一緒にモフモフしたい」
「僕とぬいぐるみを同時にモフモフするという意味かい? それとも、僕もぬいぐるみをモフモフする?」
「!! モフモフが、モフモフをモフモフする……」
「モフモフが多すぎて意味わからないね」
大きな戦いを終えた後も、そんな普段通りの中身のない会話をしながら、みんな家の方に向かう。
模布市は今日も平和だな。
――――
フィアナです!
街に戻れば、まだニワトリやゴブリンは街を闊歩していました。
けどかなり数が減っているし、新たに出てくることもないでしょう。
兵士たちが自力で倒している様子があちこちで見えます。事態は収束に向かっていると見ていいですね。
わたしも矢を放って彼らの手伝いをします。コータさんも火球だと周りに被害が出るからと、ファイヤーアロー、炎の矢で狙い撃ちにする方針でやっていました。
「おい! お前たち!」
おや。声がしました。ちょうど屋敷の近くを通った時に、町長が見つけたようです。
「ロジャーはどこだ!? 言え! どこにいる!? というか、この事態はなんだ!? お前たちが原因なのか!?」
「原因はバギャウヴァですが、もう倒しました! ロジャーは異世界で暮らすようです! わたしたちも逃げます! では!」
「待ってくれ! ロジャーはどこなんだ!? 俺の! 魔法の血は! どこに行った!?」
リゼさんが一息に言って、ユーリくんは加速しました。町長が追いかけますが、足が遅いですね。
通りを駆け抜けるユーリくんはすぐに街の端に到着。兵士たちは大きな穴を塞ごうとしていましたけれど、それを避けて間をすり抜け、街の外に出ます。
外に広がる森は静かでした。ゴブリンが生息しているといっても、そのほとんどは街に入り込んで殺されました。しばらく人前に出てくることはないでしょう。
街は大変なことになりましたけど、しばらくは平和が戻ります。良かった、とは言えませんけどね。
何事かと、兵士たちがこっちを追いかけています。
「ユーリ急げ!」
「ガウ!」
「ねえユーリくん! わたしたちどこに向かって逃げてるの!?」
「この方向に走れば城塞都市があるはずだ。なんて名前だったかな……とにかくそこに落ち着こう」
「その後はなにする? どこに行く?」
「さあな。何かしたいこと、あるか?」
「わたしの村で、両親にユーリくんと結婚することを伝えようかなと! でもそれ以上に、あれです! お寿司食べたいです! 向こうの世界で食べたのが美味しかったので! コータさん、この世界のもので再現できそうですか?」
「どうだろう。やってみても良いかもしれないけど。とりあえず魚が獲れる街に行くべきだよな」
「よし! カイの街に戻ろう! 港町だしちょうどいいよね! フィアナちゃんの村はその後で!」
「なんでだ!? 行ったばかりだろ!」
「でもでも! ベルさんとあんな別れ方したのは良くないかなって! だから戻って仲直りすべき! あと付き合っちゃえ!」
「気まずいから嫌だ!」
「フィアナちゃん! ユーリくんと付き合ってて、すっごく仲がいいところ見せつけちゃおう! ベルさんも焦ってカイを彼氏にしようって思うよ!」
「いいと思います!」
「ガウッ」
「ユーリくんも協力するって言ってますよ」
「ユーリ!? なんでお前まで! ああもう! わかった! 行くから!」
カイさんが頭を抱えながらも、腹は決めたという様子でした。
「ユーリ急げよ! 決心が揺らがないうちにやってやる!」
「ところでリゼさん。結局、カイさんとベルさんの間に何があったんですか?」
「それはねー」
「言うなよ! 絶対に言うな!」
ユーリくんの背中で、ワイワイお喋りしている間に、街は遠ざかっていきました。追いかける人もいません。さすがユーリくん。速いです。
その上で揺られながら、モフモフの毛並みをそっと撫でます。
心地よいです。なるほど、モフモフですか。これを好きになる気持ちが、なんとなくわかりました。
ラフィオさんとつむぎさん、良い人たちでしたね。また会いたいです。お互いにいるべき世界があるのはわかりつつも、必要があれば助けを求めるのも良いかもしれませんね。
でも、わたしにとっての一番のモフモフは、ラフィオさんではなくユーリくんなのは変わりませんけれど。
モフモフの毛並みは、いつもよりも心地よく感じられました。
〈おしまい〉
読んでいただき、ありがとうございました。
別々の作品のキャラクターが出会って共通の敵に立ち向かう、クロスオーバー的な作品を作りたいと思って始めた作品です。「無能魔女」のキャラが登場するのは実に5年ぶりだったりします。書いていて、懐かしい気持ちがしました。
楽しんでいただければ幸いです。彼らの物語は、またいつか書きたいなと思っています。その時、またお会いしましょう。




