味噌汁がこぼれた
お久しぶりです
ヒトという生き物は、いつも何かしら間違いを犯す。
どれだけ気を付けようと、どれだけ注意深かろうと、間違えるときは間違える。
それがヒトという種なのであり、避けられはしない遺伝子なんだ。
だから、僕も間違えることくらいいくらでもあるし、それがたまたま今日だったに過ぎない。
少しくらいのミスは見逃してあげるべきなのではないだろうか。
「駄目です。」
響子は許してはくれないそうだ。
「……さいですか。」
フランたちと話した後すぐに寝床に入り、そのまま安眠することができたのだが、少し安眠しすぎたようだ。
スヤスヤと呆れ返るほど健康的な眠りを見せた僕は、そのまま十時ごろまでぐっすりだったようだ。
「ほんと、よく眠れるんですね。」
実際呆れられた。
響子がこのような態度をとるとは思ってもいなかった。
驚異的な眠りの力は計り知れない。
というより、シチュエーションの方が問題なのだろう。
僕は彼女の厚意に甘えて美味い味噌汁の作り方を教わろうとしていたのだ。
が、恩を受ける側がこのようなふるまいをしてしまったのだから、彼女の怒りも最もだろう。
流石のガンジーも黙っちゃいられない。
いや、ガンジーなら許してくれるかな?
「許したとしても、私は許しません。それはそれこれはこれ、というやつです。」
ごもっとも。
どうやら本格的に怒らせてしまったようだと今更ながら思う。
ここは日本人らしく謝罪しなければならない。
僕は彼女の前にひざまずき、それから驚くほど滑らかな動作でこうべを垂れた。
「すみませんでした。」
ほぼ完ぺきな土下座である。
ここは廊下なので誰かに見られる可能性は十二分にあったのだが、そんなことを気にしている場合ではない。
こういう時は恥をかなぐり捨てるのが得策である。
こうすれば誠意も伝わってくれるだろうし、相手も突っぱねにくくなる。
案の定響子は戸惑った様子で口をパクパクさせていた。
「か、顔を上げてくださいよ、みっともないですよ。」
こちらは許してもらえるまでは土下座をやめない心づもりなので、沈黙を貫いた。
「恥ずかしくないんですか?」
「自分が悪いので。」
「でもこっちが恥ずかしいのでやめてください!」
「許してもらえるまではやめません」
響子は眉をひそめ、しばらく考えた後吐息交じりにこう答えた。
「分かりました、許します、許しますよ。ただし今後――もしあればの話でしょうが――似たようなことがあれば、その時はあなたをこの廊下にそのままの状態で放置しますからね。」
僕は落ち着いた声でありがとうございますと礼を言いながら心の中でガッツポーズをした。
どうやらうまくいってくれたようだ。
「それと、お味噌汁の作り方を教えるのは延期です、延期。」
「へ?」
これでもかというくらい間抜けな声が出た。
「当たり前でしょう、約束をほごにしたのは重信さんなんですから。」
「でも、それは許してくれたはずじゃぁ……」
「えぇ、許しはしました、許しはしましたが、誰かさんのせいでなくなった時間は帰ってきません。というわけで私はあなたの時間、お味噌汁の作り方を教えてもらうはずだった時間をいただきます。」
「さい……ですか……」
まぁそれも当然であろう。
こちらが一方的に約束を破っておきながら利益を得られるなんて言う都合のいい話なんぞあるはずもない。
響子は短い分かれの言葉だけ告げると部屋から出て行った。
皆さんお察しの通り、投稿してなかった理由は"怠慢"です。
嫌気が差したそこのあなた、引き返すなら今のうちですよ。
それでも読み続けるという方には、精一杯のエンディングを。




