疑問
さて、予定が丸ごとつぶれてしまったわけだがこれからどうしようか。
そう考えながら着替え、縁側に腰を下ろした。
全くもって予定がない、というこの状態はかなりキツイ。
これがもし僕が高校に通っているときに発生していたのならば喜びのあまりベッドの上で飛び跳ねるのだろうが、こちらに来てから無予定の恐ろしさをうんざりするほど叩き込まれた。
することが無いと、時間の進み方が恐ろしいほど遅くなる。
試しにこの辺りの景色を眺めていてみよう。
どれ、そろそろ三十分くらいたったかな……と思ったらなんと五分も進んでいない。
よし、こうなったら無理にでも寝てみよう。
……うん、ぐっすり眠れたぞ、さてこれで三時間はたっただろう。
おや、おやおやおや、まだ三十分も立っていないじゃないか!
とまぁ、こんな具合である。
時は金なり、などということわざがあるが、あれは全人類が多忙である現代でこそ成り立つ言葉なのだろう。
長すぎる休みを心待ちにし、楽しんでいたあの頃が懐かしい。
あの頃は自由な時間を少しでも伸ばそうと、最低限の勉強だけしてすぐゲーム機に飛びついていた。
そんなだからいつも親父に怒られていて……。
待てよ、そういえば家族のことについて考えるだなんてこっちに来てからじゃ初めてじゃないか?
普通親元を離れたというのなら二、三日すれば嫌でも親のことを思い、寂しさを感じるはずだ。
それが寂しさを感じるどころか存在すら忘れていた。
よくよく思い返せばこちらに来た時のこともおかしなものである。
普通自分の住む世界とは異なるところに連れ居ていかれるのであれば、まずそれによっておこる元居た世界への影響を考えるはずだ。
両親が心配したりしないか、行方不明者として捜索願を出されるのではないか、自分が居なくなることで悲しむ人がいるのではないか......。
それがどうだ、実際に心に抱いたのは得体のしれない世界に対する空っぽの憧れではないか。
元の世界での暮らしがちょっとばかり暇だったからと言ってこんなことになり得るだろうか。
そもそも何故明確な目的も無いのにこんなところに来たんだ。
どうせすぐに帰れるなどと思っていたのなら、それはただのバカである。
いや待て、ここに来たのはほとんど僕の意志ではなく、彼女、八雲紫の意志だったのではないか。
彼女の方からこちらへおいでと手招きをしてきたのだ。
では何故彼女は僕を招いたのだろう。
あと少しで死んでいたから助けてあげた、というのは無いだろう。
こういう人身事故は毎年何百件も報告されている。
そんな中の一例をたまたま助けたいと思うことはないだろう。
だとすれば興味本位で人をさらってきたかっただけだろうか。
魔理沙によれば面白そうだからとたまにとんでもないことをしでかすのが紫という人らしい。
だがそれなら状況を中途半端に説明するのはおかしい。
何も説明しないでこちらに送り込み戸惑う姿を楽しむか、しっかり説明してどのように生きていくかを観察するか。
このどちらかになってしまうだろう。
ならそれ以外の理由は――
「重信じゃないか、久しぶりだな。」
突然聞き覚えのある声が聞こえた。
顔を上げると、そこにいたのは魔理沙だった。
「魔理沙か。最近ここで修行してるんだ。」
「へぇ、勤勉だな。偉いもんだ。」
「そう言う魔理沙はここで何を?」
「今こいしを探しているんだ。見てないか?」
「こいしなら昨日の夜見かけたぞ。」
「本当か!どこで見かけた。」
「真夜中に便所に行こうとしたら廊下で声をかけられて……しかしなんで魔理沙がこいしを探している。」
「ん?あぁ、燐っていう化け猫を知ってるか。」
「あの地底にいるっていう。地底の主のペットだっけ。」
「そうだ、そいつが珍しくうちにやって来て、こいしはいないかと。」
「成る程、それで探すのを手伝っているのか。」
「そうだ。何しろ何か月も家に帰ってないらしいからな。」
「へぇ、何か月……何か月も!?」
驚いて声を荒げてしまった。
「向こうじゃよくあることらしい。でも流石に心配になったようだな。」
「大変だな。」
「そりゃもう。そこでだ、重信に頼みたいことがある。」
「分かった、引き受けるよ。今日は予定もないしね。」
「話が早くて助かるよ。」
僕はゆっくりと立ち上がり、大袈裟な伸びをした。
話の核心に触れそうで触れきれずに流される。
でももうそろそろなにか起こるよ。
p.s. こいしちゃんの昔話の冒頭だけ投稿したから良ければ読んでね
https://www.pixiv.net/novel/series/1286272




