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心を解き放て

「華符「芳華絢爛」!」


美鈴がそう叫ぶと、周囲にた入り用の段幕が現れた。

七色に光るそれらはゆっくりと広がっていき、さながら開いていく花のようであった。

面倒なことに、その花を構成する段幕間の距離はかなり狭く、大人一人がなんとか通り抜けられるかどうかといったところである。

しかし、いつまでも尻込みしているわけにもいかない。

僕は意を決して段幕の中へと飛び込んでいった。


段幕の隙間は見た目ほど狭くなく、混雑した通りを進んでいくようなものだと思えば、避けるのは以外と簡単だった。

美鈴の基礎体力強化のお陰で瞬発力も増しており、予想外の場所に弾が来ても難なくかわすことができた。

この弾幕は数分ほどで終わり、直ぐに二番目、三番目の弾幕が展開された。

これらの弾幕はどれもノーミスでかわすことができたのだが、だんだんと危うい避け方になっていった。

特に、五番目の弾幕では二種類の速さの弾が飛んでくるため、遅い方に気を取られて速い方に当たりそうになることが多々あった。


「ここまで被弾無しですか。なかなかやりますね。」


五番目の弾幕を避け終えると美鈴が話し出した。


「ならば、これで勝負です!」


その瞬間、美鈴の気が明らかに変わった。

何かとんでもないものが来るぞという本能的な危機感が体中を走った。

数瞬後、その考えは正しいということが証明された。

美鈴の展開した弾幕は三回目に見られたものと同じで、大量の弾幕を無作為にばらまくというものだった。

これらは三つほどの点からばらまかれるため、避けにくいといえば避けにくいのだが、弾の密度も速さもそれほどではなかったので、苦にはならなかった。

しかし、今回はそれとはわけが違う。

弾の量も、速さも、飛んでくる角度も、みんな揃って難易度を上げてきている。

右、左、左、となんとか避けるものの、さっきからかすってばかりで気のせいかカリカリという音も聞こえてくる。

そんなでも最初の三十秒は何とか耐えきって見せた。

しかし、その後しばらくすると、遂に被弾してしまった。

避けた先にあった弾に自ら当たる形だった。

被弾の瞬間、身体に軽い衝撃が走り、そのまま後方にとばされてしまったが、美鈴が急いで弾幕を消してくれたお陰で、続けて二度、三度と被弾することは無かった。


「流石にピチュっちゃいましたか。」


美鈴がゆっくりと近づいてきた。


「ピチュるって何ですか?」


「弾幕ごっこで被弾することですよ。語源は謎ですが、この幻想郷に百年ほど前からある言葉ですよ。」


「へぇ、意外と新しいんですね。」


「まぁ、弾幕ごっこ自体、歴史はまだ浅い方ですからね。」


何よりも幻想郷生まれの横文字があることに驚きである。


「じゃ、続きをしましょうか。」


「え、もうですか?」


「ええ、勿論。もう五分も休んだんです、体力はほぼ全快でしょう?」


「え、まぁ。」


「じゃぁ大丈夫です。」


そう言うと美鈴は立ち上がり、弾幕展開の準備をした。


「ほら、早く立たないとまたピチュりますよ。」


止む無く、僕は立ち上がった。

直後、先ほどと同じような弾幕が展開され、一気に襲ってきた。

そして、やはり避けきることは出来なかった。

避けてはピチュり、避けてはピチュりを繰り返すことおよそ一時間。


「重信さん、考えちゃダメなんですよ、考えちゃ。」


「どういうことですか?」


「弾幕は次は何処へ避けようとか考えていたのでは避けることは出来ないんです。ヒトの思考速度にも限界はありますからね。だから、自分の勘に頼らなければいけないのです。」


「感覚で避けるんですか?」


「そう、感覚です、心そのものです。重信さん、自らの心を解き放つんです。じゃあ、行きますよ。」


美鈴が再び弾幕を展開する。

と同時に、僕は心を解き放った(とは言っても、感覚的にそれっぽいことしただけなのだが)。

僕は襲い来る弾幕の全体を把握し簡単なルートを見つけると、後は感覚に身を任せた。

右、右、左、右、左、後ろ、左……。

避ける方向は避けた後になって頭に流れ込んできたが、最早数字の羅列のようであった。

ただ一心に弾幕を避け続けた。

前、左、右、右、後ろ、左、前、前……。

そして、気が付けば周囲に弾幕は無くなっていた。

弾幕が消えた。

つまり既定の時間の間避け続けることができた。

つまり、合格。

その事実を心の中で確かめると、安堵の心と共に今までの疲れもやってきて、僕はその場に座り込んだ。


「凄いじゃないですか、一時間でこれを攻略してしまうだなんて。」


「あ、有難うございます。」


取り敢えず、これであと少しだけ練習すれば、この特訓も終了になるだろう。

しばらくはゆっくりできるかもしれない。


「それじゃあ、弾幕はあと二十種類ほどあるので、頑張って行きましょう!」


「二十種類!?」


「はい。」


「じゃ、さっきのは……。」


「まぁ、まだ簡単な方ですかね。それでも初心者で避けられたのは凄いことですよ。」


どうやら、この先の道のりも険しいらしい。

まぁ、特訓だもんな、これ。

辛くて当たり前かぁ。

トホホ。

最近はYoutubeで音楽を聴きながら執筆を行うのですが、今日はうっかり「暗い日曜日」を聴いてしまいました。

良い曲なんですが、最初の数秒がね、ほんともう……。


次回も特訓になると思います。

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