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文系に運動は難しい

霧の湖は大きそうに見えて実はあまり大きくない。

湖の端から対岸を見ることは不可能だが、これは湖の上に絶えず存在する濃い霧のせいであり、一周約三キロほどである(と、魔理沙が言っていた)。

が、僕にとってはとても長い。

小学の頃のマラソン大会とかいう非常に面倒くさい競争の時でも二キロ少々だった。

そして、僕はその二キロ少々でも途中でへばってしまいまともに走れたためしがないのである。

それが今回は十週は知らなければいけないので、つまりは三十キロ。

いきなり十五倍の距離を走破しなければならないのである。

これは若しかしなくても拷問なのではないだろうか。

しかし走り出してしまったのだから仕方がない。

もう、この奈落からは抜け出せないのである。

まぁ、これだけ精一杯走っているのだし、いくら妖怪といえど美鈴にも慈悲の心くらい――


「ほら、ペースが落ちていますよ!」


無かった。


「まだ一周しか走ってないんですよ!ほら、頑張って!」


まだ一周。

あと九周。

考えるだけでも嫌になる。

汗がダラダラと流れ、頭もぼぅっとなってきた。

一応美鈴の声掛けがハートマン軍曹のような罵倒する気満々の暴言でないだけましなのだろうが、それでもきついことには変わらない。

そんな調子で走っていると、頭が二度、三度くらっとなり、少しバランスを崩してしまった。

それに気づいた美鈴が


「大丈夫ですか!ふらふらしていますよ!」


と話してきたが、


「だ、だい、じょうぶ、です。」


と返し、直ぐに体勢を立て直した。

本当は一ミリも大丈夫ではなかったのだが、思考回路がいかれていたせいか、またはいちいち他のことに頭を使うのが嫌だったせいか、反射的に答えてしまった。

その数秒後に自分が間違った回答をしていたことに気が付いたが、訂正するのもどことなく気が引けるため、そのまま走ることにした。


それからもう少し走っていると、幾分か楽になってきた。

人間は極度の疲れを感じると最高にハイになるらしいが、どうやらそれは本当のようだ。

頭は相変わらずぼぅっとしているが、あの忌々しい汗は引いてくれた。

これならいけるかもしれない。

そう思い、取り敢えず気分転換と気合入れのために目を強く閉じた。

と、突然体が動かなくなり、さらにその数瞬後に声が聞こえてきた。


「……から……でしょ、……てる……鈴!」


「……しわけ……う様。」


「……んと……さいよ!」


”コツ、コツ、コツ”


”ガチャ”


”キイィ……”


”バタン”


”……”


部屋に沈黙が訪れたのでゆっくりと目を開けると、やけに薄暗い天井と美鈴のしょんぼりした顔が見えた。

そして、幾らか意識がはっきりしてくるとここが自分に与えられた部屋であることが分かった。

いまだに状況は呑み込めない。


「あ、気が付きましたか。」


「え、あぁ、はい。」


「あぁ、良かった。」


「何があったんですか?」


「それがですね……。」


美鈴の話によると僕は目をつぶった瞬間に意識を失ってしまったらしく、倒れてしまったらしい。

僕は重度の熱中症にかかっていたそうだが、幸いここに住んでいる魔女(パチュリーという名前の人らしい)が数年ほど前に回復魔法を習得していたため事なきを得たという。

しかし、美鈴の方はレミリアに度叱られて、今度似たようなことをしたら命が危ないのだという。

失敗するだけで命も取られるとは、悪魔の館は恐ろしい。


「すみません、異変に気づけなくて。」


美鈴がうなだれながら言った。


「あぁ、いえ、こちらも自分から言えなかったので、お互い様ですよ。」


が、美鈴は一向に顔を上げない。

相当きつく言われたのであろう。

まぁ、これからは少し特訓も楽になるだろう。

でなければ僕も美鈴も死んでしまう。

今回調子に乗ってどんどん書いてたら少し長くなってしまいました。

まぁ、仕方ないよね?(無責任)

次回はパチュリー回、になると思います。

僕の予定ほどあてにならないものはありませんが。


追記:なんか長いと思ったら大部分が繰り返しになってました。

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