(木星圏内)
今回は一回分ですが、少し長文です。
『Moon暦725年11月12(土)=Moon暦726年6月2日(土)』
『マギー、マーシャさんから連絡が入った』
『了解』
「マーシャです」
「マギーです。先週の土曜日はほんとうにありがとうございました」
「ほんとうによかったですね。私がお役に立てて嬉しかったです。それで一つお聞きしたいことがありますが、そちらにも非常用の酸素マスクがありますか」
「はい、ありますけど」
「五人分ですが予備を入れて十個用意していただけますか。ワープするときに私の体内でジョナたちに使わせます。それとアイマスクを五人分お願いします。十六日の土曜日にそちらに取りに行きたいと思います。電波を発信してください。人のいない場所でお願いします」
「分かりました。その時に艦長のニッシー少佐に会っていただけますか」
「分かりました。私もお会いしたいと思っていました。私は『ムージュ号』からこちらに戻ったときの彼女たちの意識のことを考えて、彼女たちに酸素マスクとアイマスクが必要だと思いました」
「そういうことまで考えていただき、ほんとうにありがとうございます」
「私は今までマギーに話しませんでしたが、私がサームナッカ号に何度か訪れた理由は、彼女たちの日常に必要な物を確認しに行きました。彼女たちの意識の中の言葉は理解できますが、それはあくまでも言葉だけなので、実物を見ないと私も提供ができません。マギーに話せば必要な物は用意していただけるとは思いましたが敢えて言いませんでした。そういうことを考えたことはありますか」
と、彼女からそう言われて驚いてしまい、どのような状況で生活していたかは考えたことがあったけど、ジョナはそのことに関しては何も話してなかったので、彼女がどれほどのパワーが発揮できるかも分からないし、日常生活に必要なものはどうしているかなんて、今までのジョナの言葉からも微塵にも感じ取ることができなかったのだ。
ジョナは前に五人部屋だと話していたが、マーシャさんが自分の目で確認をして、それと同じ物を提供していたのだろうか。食べるものから着るものまですべて、彼女たちが生きていくために必要な物を、何度かこちらを訪れて確認していたのだ。
私はエネルギー確保や私たち人間のことを理解するために、彼女はこちらに来ていたと思っていたが、とんでもない間違いをしていたのだ。
「……そういうことは全然考えてなかったです。言ってくれれば何でも用意しました。酸素マスクは十個でも百個でも私が必ず用意します。アイマスクもです」
と、私は自分の不甲斐なさを思い知り、こういう言葉を発してしまう。
「ありがとうございます。私がシェリーの部屋にいたときもシティーで少々確認しました。私はシティーの情報をサームナッカ号で手に入れ、色んな場所も確認しました。でもタワーの地下の情報は探しきれませんでした。それが分かればお知らせできたのに非常に残年でした。五時間ほどの間に色んなことを学びましたよ」
と、彼女がそう言ったから、これまた驚いてしまった。
「……そのためにシティーに来たのですね。私はシティーを見学に来たと思いました」
「もちろん、リチャードの車の中でシティーを見学できたことは場所の確認にはとても役立ちました。昼間と夜は違いますからね。ありがとうございました」
と、彼女がそう言ったけど、この見学の奥深い意味合いがあったなんて、今まで考えられなかったし、何かなくてはこういうことはしないと思うからだ。
「今度は私のシティーの友だちに会ってください。今までの経過はほとんど知ってます。マーシャさんのことも話して彼女から会ってみたいと言われました。よろしくお願いします」
「ほんとうですか。私もマギーの友だちに会ってみたいです。こちらこそよろしくお願いします。ワープのことも知っているということですね」
「はい。彼女は知ってます」
「話しは変わりますが、『ムージュ号・二世』が木星圏内に到達すればジョナの時計に電波を発信してください。私の全エネルギー使っても発信元にワープして、一気に彼女たちを届けます。できれば人のいない場所でお願いします」
と、突然彼女は自分の住み家の方向性を教えてくれたのだ。
私には木星圏内の意味が理解できないけど、この言葉はリリーさんも聞いているので、彼女が理解できればいいと思い、全エネルギーを使うほど遠くの場所から来るのだろうか。近くにいることを隠すためにこの言葉を使ったのだろうか。
「ありがとうございます。少佐のワークプレースは立ち入り禁止区域ですのでそこにします。メデス上大尉は艦長護衛なのでそばにいるかもしれませんが、ジョナの時計に電波を発信すると時計は外してその場に置きます。そして外で待ってます。声がすれば中に入りますので合図をしてください。よろしくお願いします」
「分かりました。彼女たちはその日が来ることをとても心待ちにしてます」
と、彼女がそう言ってくれたから、私も早く会いたいと心からそう思ったのだ。
「よく分かりました。少佐はプライベートタイムが使えますから、時間を計算して使える状態にしてもらいます。ここにいればリリーさんが管理してくれます。二重対策でやりたいです」
「ありがとうございます。リリーさんのボディーの話しも聞きました。そういうことを考えていたなんて、リリーさんはより人間に近くなりよかったですね。彼女は私と同じになりました。エネルギーが必要だということです。もし彼女がシティーに行きたいのであればワープして連れていけます。そうすればボディーに負担がかからないと思います」
と、彼女のそう言った意外な言葉は、私は今まで考えたこともなかったことであり、リリーさんもシティーの町並みや人の流れや、私が今まで話したことが言葉ではなくて、私と一緒に自分の視覚で確認できて体験できるし、その上で私がコンパクトの視覚を持ち歩けば、今まで以上に人間に近くなり、この素敵なシティーの人たちを身近に感じて自分も存在することができる。
「すごい。それは考えてもみませんでした。コンパクトな視覚のことは閃きましたが、直接行けば何でも見られますね。嬉しいです。ありがとうございます」
『リリーです。信じられないです。そういうことが可能になるなんて……私も考えてもみませんでした』
と、リリーさんの言葉の響きも、私と同じで驚いているようだった。
「前にリリーさんが私もシティーに住めるかもしれないと言ってくれたので、私は考えてもない言葉を聞いてとても嬉しかったです。お互いに不可能を可能にしましょう。上下の統一も同じことだと思います。私たちが手を取り合えば必ず可能になります。しかし、それにはお互いの人間の考え方を変えなくてはいけません。それは時が解決してくれると思います。私はほんとうに人類に興味がもてました」
と、マーシャさんはこういうことまで話してくれ、私は嬉しくて言葉がない。
『ありがとうございます。そういう言葉をマーシャさんから聞けるなんて、パーコンよりも人間の感情が勝ちましたね。それを教えてくれたマギーに感謝します』
と、リリーさんがそう言ったから、私は素敵な言葉を使ってくれたと思ったのだ。
「ありがとうございます。特に愛情という感情の言葉が好きになりました」
と、私がそう言うと、
「なるほど。私もよく調べてみましょう」
と、マーシャさんはそう言ったくれたけど、この言葉は調べて理解できるものではないと思い、一朝一夕で感じ取れることでもないので、この言葉は自分や相手に対して、自分自身が長きに渡って感じるものだと思い、リチャードやシェリーのことを思ったのだ。
「話しは変わりますが、彼女たちの時計はこの前お話した通りに差し上げますので、心配しないで受け取ってください。連絡が取れなくなると大変ですからね。本年度の十一学年はいないので、彼女たちの時計は予備がありますので気にしないで使ってください」
「ありがとうございます。この時計の電源はどれほど持ちますか」
「長くて五年間は持ちますので四年ほどは確実に止まらないと思います。その時には新しいのに取り替えるか、少佐に何か別の方法を考えてもらいます」
「……なるほど。私はカレンダーも確認しました。彼女たちに時間の存在を教えてもらい必要だと思いました。これで計算ができます。ここには時間の存在がないです。人間の世界ではとても重要なことだと理解できました。たまにそちらに行けば必要ないかもしれませんが、あればとても便利だと思います」
と、マーシャさんがそう言ったから、
「こことシティーでは日付が違います。切り替えるのが面倒ですがあれば便利ですね」
「えっ、それはどういう意味ですか」
と、マーシャさんがそう尋ねたから、
「えっ、意味ですか……何で違うのだろうか」
と、私が呟くように言葉にすると、
『リリーです。創立記念日が違うからです。シティーに最初の人間が移住したのが五ヶ月ほど遅くなり、始まりが違うようになりました』
と、リリーさんがそう説明してくれた。
「なるほど、そうなんですか。さすがリリーさんですね。過去の歴史をチェックできるようになりましたね」
「そうなんだ。私は違う意味を考えたこともなかった。そういうことだと思っただけでした」
と、私は意外な情報が手に入ったと思ったけど、人類が上と地球に別れて住み始めた理由が少し理解できたような気がして、そういうことは隠された秘密なのだろうかとも思い、今まで誰も教えてくれなかったし、検索することさえ考えたこともなかったのだ。
『マーシャさんもこちらの情報をたくさん理解してきましたね。こちらから頻繁に連絡が取れるようになれば、もっと色んな情報が手に入りますが、私のパワーが回復したので、テリングやパーコンみたいな通信技術で連絡ができないでしょうか。私はマザーパーコンとは違います。シティーのファミリーパーコンです。理解されているとは思いますが、上には知られないようにします。この連絡方法も少佐に聞いてみましょうか』
と、そう言ったリリーさんの言葉は、私には少し難しい話しだと思う。
「なるほど、リリーさんの存在は上とは違いますね。私もそのことをよく考えてみます。その時は少佐にまたお世話になりますね」
『そうなることを祈ってます』
と、リリーさんはそう言ったが、二人の会話を聞いていると、私の知らない内容があるので、二人で話し合いをしたことがあるのだと思ってしまう。
「早く少佐に月面の太陽光集積船を作ってもらわなくてはいけません。二世の完成に時間を取られたけど、彼はその話しは知ってます。この時計の機能が違うバージョンも開発しているので、少佐も仕事が大変だと思います。彼は艦長の仕事よりもそちらの開発の仕事の方が大好きだと思いますよ。少々時間がかかるかもしれませんが必ず作ってもらいますね」
と、私がそう説明すると、
「よろしくお願いします。話しは変わりますが、私はいろいろ調べてそちらで希少メタルと呼ばれる金属がこちらでは手に入りますが、必要なら持っていけますが……」
『リリーです。マギーはレアメタルの金属の知識はありません。こちらで必要な金属名が分かれば探せるのですか』
と、リリーさんの言葉の響きは少し驚いているようだった。
「私が調べた限りでは探せます。名前が分かればもう一度確認に行きます」
『それはすごいことです。今の地球上では探すことすら無理のようです。今は再利用の時代です。それを手に入れて運用できればマギーの手柄になり階級が上がることが考えられます。艦長にも相談して私が考えますのでその話しは私にしてください。よろしくお願いします』
私はサハラ砂漠の地下資源のことを考えたが、これは隠された事実であり公にすることはできないので、Moon歴が始まり七百年以上も時が経ち、その資源がどれほど蓄積されているのか理解できないのだ。今の人類にはこの知識があるかどうかも分からないので、マーシャさんの言葉は青天の霹靂のごとくに、私には衝撃が強かった。
「分かりました。リリーさんにお話しします」
と、マーシャさんはそう言ったけど、
「リリーさん、そのレアメタルの意味は……私の少尉の階級で検索できますか」
と、私がそう尋ねると、
『検索してみて、マギーがマーシャさんから聞いたことになり、そして艦長に話したことにしなくては、そこが大事なことよ。私が艦長に話して意見を聞くからね。これはすごいことだよ。知的生命体発見と同じくらいにすごいことだよ。このことが公になればマーシャさんのエネルギーの確保である月面の太陽光集積船の建造は、内緒ではなくサームナッカ号の管轄で本格的に製造されるようになると思います』
と、リリーさんがそこまで言うのだから、私には意味ができないけど、ほんとうにすごいことなのだと理解できた。
「マーシャさん、ありがとうございます」
と、私がそう言うと、
「こちらこそ。言ってみてよかったです。私はマギーに協力できることだと思いました」
と、マーシャさんがそう言ってくれたのだ。
『この話しは今回のお迎えの連絡では内密にお願いします』
と、リリーさんはそう言っている。
「分かりました。仲間のマギーのためにそうすることを約束します。もうそろそろ時間切れになりそうです。そちらではエネルギー切れとは言わないのですね。それでこの言葉に代えました」
「分かりました。今日は連絡ありがとうございました。酸素マスクとアイマスクの件は了解しました。私の仲間をこれからもよろしくお願いします」
今回も読んでいただき、ありがとうございました。