第1話:仕組まれた別居と、小さな恋のキューピッド
『魔王婚活転生』では多大なる応援をいただきありがとうございました!
皆様の熱い声援に応え、ついに第2部(続編)が始動します!
今回は「夫婦の絆」と「愛娘とのスローライフ」、そして圧倒的な「追放無双」をお届けします。
初めての方でも楽しめる仕様になっておりますので、ぜひお気軽にお楽しみください!
「パパー! あーん、して!」
「おお、エルナ。よしよし、あーんだ」
ベルシュタイン公爵邸の広大な食堂に、実にとろけきった声が響き渡る。
かつて世界を恐怖で支配し、諸神すらも戦慄させた魔王ゼノン・ヴァルガリス。その面影は、今やここには微塵もなかった。
黒髪の気品ある青年へと転生したゼノンは、現在、5歳になる愛娘エルナにスプーンを差し出している。
エルナは、母親譲りの美しい白金の髪を揺らし、これ以上ないほど愛らしい笑顔でパフェのイチゴをパクリと平らげた。
「おいちい! パパのつくるデザート、せかいいち!」
「ふふふ、そうだろう。極大消滅魔法の術式を応用して、分子レベルで糖度を均一に活性化させたからな」
「あなた、またそんな物騒な魔法をデザートに使って……」
呆れたような、しかし幸福に満ちた溜息を漏らしたのは、ゼノンの最愛の妻であり、元聖教会の聖女であるリーゼロッテだ。
彼女はエプロン姿で焼き立ての最高級ステーキをテーブルに並べながら、夫と娘のやり取りを愛おしそうに見つめている。
かつて、孤独の頂点にいた魔王ゼノン。
千年の時を超え、「温かい家庭」を求めて始めたズレまくりの婚活は、この最高の妻と、天使のような娘という果実を結んだ。
今のゼノンにとって、この食卓こそが世界のすべてであり、守るべき至高の聖域だった。
(完璧だ。
指南書『理想の父親・100の鉄則』にある【家族の笑顔は家庭の太陽である】を見事に体現している。
今の私は、世界で最も幸せな男だな)
ゼノンは心の中でガッツポーズを決め、リーゼロッテが切り分けたステーキを口に運ぶ。
まさに、平穏という名の幸福がそこにあった。
王都では今までのゼノンの無双っぷりに、
魔王の生まれ変わりだという事がバレバレだったが、
そのことをまだ知らなかった。
リーゼロッテと結婚し、婚活を成就させたゼノン、
娘も生まれて、家族に隠し事は許されないだろうと、
自分の前世は魔王で今は転生した身だという事を打ち明けた。
しかし、
リーゼロッテはため息をつき、
「もうとっくに気付いていました。
私だけでなく世間にも知れ渡っております。」
「な、なんと……知らなかった、私としたことが」
「わたくしも元聖女、
多少は悩みましたが……
今のあなたは、致したことは規格外でも、
全ては善性、
今のあなたに一点の曇りもないと判断いたしまいしたの」
「そ、そうか、それを聞いて改めて、リーゼロッテ、惚れ直したぞ」
「まあ、あなたったら」
と、話し合いはラブラブの内に終わったのだった。
……しかし。
その聖域に、泥靴で踏み込もうとする愚者がいることを、ゼノンはまだ知らなかった。
王都の一等地にある、絢爛豪華な侯爵邸。
その薄暗い執務室で、ガルフォード侯爵は邪悪な笑みを浮かべていた。
「ベルシュタイン公爵家の三男、ゼノン・フォン・ベルシュタイン……。
あの底知れぬ力、
やはり生かしておくには危険すぎるな」
ガルフォードは、
先日の邪神アザトス消滅の裏にゼノンがいたことを、
独自の隠密網で掴んでいた。
神すらも一撃で消し去る怪物。
そんな男が王国内でのさば大頭となっては、
自分たちが権力を握る邪魔でしかない。
力で勝てないのなら、絡め手で破滅させるまで。
「ふん、
どれほど無敵の男だろうと、所奢は人の子。
内側から崩してやれば脆いものよ。
特に、あの男が溺愛する聖女
……あそこが一番の急所だ」
ガルフォードは、
机の上に置かれたいくつかの魔導具と、精巧に偽造された書類に視線を落とした。
「幻惑魔法を極限まで高めたこの魔導鏡を使えば、
完璧な『不倫の現場』を投影できる。
それに、
この筆跡模倣の書状……。
どれほど信頼し合っていようとも、女という生き物は嫉妬と猜疑心に弱い」
侯爵は、
おぞましい笑声を漏らしながら、影の暗殺者に命令を下した。
「これを聖女の元へ届けろ。
くくく……。
最強の魔王が、
女の涙に塗れて自滅していく様を見るのが、今から楽しみでならんわ」
王国の闇が、ゼノンの預かり知らぬところで、
確実にその幸福な家庭へと伸びていた。
その日の深夜。
ゼノンが寝室へ向かうと、そこにはいつも出迎えてくれるリーゼロッテの姿はなかった。
ベッドの横のサイドテーブルにぽつんと置かれていたのは、一枚の手紙。
そして、
その横で淡く発光する、見慣れぬ魔導具の鏡だった。
(……リーゼロッテ? エルナはどうした?)
妙な胸騒ぎを覚えながら、
ゼノンがその鏡に触れた瞬間、
立体的な映像が空間に映し出された。
それは、
ゼノンがどこかの見知らぬ令嬢を激しく抱き寄せ、
耳元で愛を囁いている『完璧な密会映像』だった。
無論、
ガルフォード侯爵が仕掛けた偽物である。
しかし、
その映像に重ねられるようにして、リーゼロッテの直筆の置き手紙が残されていた。
『ゼノン様。
私は、あなたのことを信じていました。
でも、これを見せられては、もう一緒にいることはできません。
エルナは私が連れて行きます。
探さないでください』
「な……っ!?」
ゼノンの脳裏が真っ白に染まる。
千年間、誰にも破られなかった魔王の冷静沈着さが、紙切れ一枚で完全に崩壊した。
部屋を見渡せば、妻の着替えも、娘の小さなお気に入りのぬいぐるみも、すべて消えている。
「リーゼロッテ……! エルナ……っ!?」
次の瞬間、
公爵邸の周囲一帯の空間が、ゼノンの激昂に耐えかねてビリビリと鳴動を始めた。
王都の空が、
夜であるにもかかわらず、禍々しい紫色の雷雲で覆い尽くされていく。
かつて世界を滅ぼしかけた魔王が今、
人生最大の絶望と怒りに震えていた。
(一体誰が、私の『太陽』を奪った……!?)
元魔王の世界を巻き込む大迷走と、
裏切り者への『神速ざまぁ』の幕が、
最悪の形で上がろうとしていた。
第1話をお読みいただきありがとうございます!
日常回かと思いきや、
第1話のラストで爆速で別居が成立する超展開へと舵を切りました!
妻と娘を同時に失ったゼノンの怒りは最高潮。
ですがご安心ください、
なろうトレンドの黄金律に則り、ここからのストレス展開は一瞬で消し飛び、次回、5歳の娘エルナちゃんによる「神速の仲直り作戦」が炸裂します!
もし「この先の家族の無双が見たい!」「エルナちゃん頑張れ!」と思って頂けましたら、
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