表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/33

第二十四話 おっさん、ワイバーンを駆る



「ぐぬぬぬ! おのれおのれおのれおのれ!」


 顔を真っ赤にして、オマール海老卿は激怒している。


 そんな顔をすると、本当に茹でたエビみたいだな。


「お前も早くワイバーンに乗れよ、エビ男。見物客たちが待ちかねてるぞ? 俺がはいつくばって許しを請う姿を、お前も早く見たいだろう?」


「言われずとも!」


 オマール海老はきびすを返して、自分のワイバーンにひらりとまたがった。


 ……へえ。なるほどな。


「やるじゃないかエビ男」


「なにがだ!? というか俺の名はオルマールだ、断じてエビ男ではない!」


「お前は口だけの男じゃない。ワイバーンの騎乗に関しては、どうやら実力は本物のようだ。ひとめ見ればわかる」


「……ふ、ふん! 今さらおべんちゃらを使っても無駄だぞ、モチヅキ・ハンゾー!」


 居丈高に言い放ちつつも、まんざらでもなさそうな様子。


 こいつ……さては根が単純だな?


 扱いさえ間違わなければ、いい働きをするタイプと見た。


「おべんちゃらを言ってるわけじゃないぞ」


 俺は重ねて言う。


「忍者ってやつはな、大抵のものには乗れるもんだ。でっかい凧に乗って空を飛ぶとか、基本中の基本だからな……故に、忍者の俺がワイバーンに乗れるのは当然のことだ。言ってみりゃ専門家なんだから」


「むう……貴様、何が言いたい!?」


「お前の力を認めてる、ってことだよオルマール卿。確かにお前には才能がある。事前に聞いていた通り、ワイバーンを扱う技術に関しては精霊教会でも随一なんだろう。おそらく天性の才能だろうな。そういうヤツは時々いる」


「ふん、言われるまでもない! 不詳このオルマール、ワイバーンの乗り手としては天下随一と自負しておる! 貴様ごときに遅れは取らぬ!」


 ま、単純バカほど野生に近い分野で活躍するもんだ。


 そこはそれ、言わぬが華ということで黙っておくとして。


「さて。それじゃ勝負を始めようか」


「むうっ!? 貴様は馬鹿なのかハンゾー! 俺の実力をそこまで理解しておきながら、なおも俺に挑むとは!」


 大げさに驚きながら、オマール海老が指摘する。


「ことワイバーンの騎乗に関しては、俺は大司教猊下さえもしのぐ! ひれ伏して許しを請えば、今ならまだ無様な敗北をさらさずとも済むであろうに!」


「わからないか?」


 俺は逆に指摘し返してやる。


「そんなお前に、俺は楽勝すると言ってるんだ。さっさと始めて終わらせて、名物のマミール貝と鎧エビを食いながら一杯やろうじゃないか」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ワイバーンに騎乗した俺とオマール海老が、数十メートルの距離を隔てて対峙する。


 立会人は、精霊教会に所属するワイバーン頭がつとめる。


 当然ながら、立会人には海老の息が掛かっているだろう。


 サッカーとかボクシングではよくあるよな。圧倒的にアウェー側が不利なこういう試合。


 ま、俺には関係のないことだが。


「両者、準備はよろしいか!?」


 立会人が声を張り上げる。


 ざわついていた会場が、しんと静まり返る。


「神と精霊の御名の下、これより名誉あるワイバーン戦を執り行う! 正々堂々、雌雄を決するべし!」


 誰もが固唾を呑んで見守っている。


 信頼と不安の間で揺れ動いている、フリージアの姿が見える。


 オマール海老は、この瞬間ばかりは威風堂々たる騎士のたたずまいで、粛然とワイバーンにまたがっている。


「それではいざ――始めぃ!!」


 号令一下。


 オマール海老のワイバーンが空に飛び立つ。


 その姿を確認してから、俺も悠々とあとに続く。


「――ふん! 離陸に関しては、まずは褒めてやろう!」


 戦闘機の空戦よろしく飛び回りながら、オマール海老がさけぶ。


「ずぶの素人にしては、小器用にワイバーンを扱う! しかしここから先はどうだ!?」


 早くも勝ち誇るオマール海老の獲物は、槍だ。


 身の丈の倍はある大槍。


 そのうえ精霊騎士というからには、精霊魔法とやらも使えるのだろう。


 槍と魔法を駆使した空中戦術――オマール海老の得意戦法は、すぐに想像がつく。


「飛び回ってるだけでは勝んぞ!? 俺に挑んだことをたっぷり後悔させながら、ゆっくりじっくりいたぶってやる!」


 こちらに突っ込んできた。


 見事な軌道と機動だ。


 普通の相手であれば、これだけで勝負はついてるだろう。


 残念ながら俺は普通じゃないんだが。


「わーははははは! 愚かなりハンゾー、あっさりきっぱり死ぬがいい――」


()()()


 俺は命じた。


 何に?


 もちろんオマール海老が乗っているワイバーンに。


「……ぬおっ!?」


 急ブレーキ。


 オマール海老のワイバーンが空中で止まる。


 その横を、俺は悠々と通り過ぎる。


「どうした? 俺がその気だったら、今の交錯で勝負はついてるぞ?」


「……馬鹿な! 何故だ!」


 騎乗するワイバーンを叱咤して再び動き出しながらも、戸惑いを隠せないオマール海老。


「ハンゾー貴様、いったい何をした!? どんな魔法を使って俺の魔法を止めた!?」


「魔法なんざ使っちゃいない。もう一度自分の目で確かめてみたらどうだ?」


「――言われずとも!」


 ワイバーンを旋回させ、再び襲いかかってくる。


「二度目の奇跡はないぞハンゾー! さあ我が槍に貫かれて死ねい――」


()()()


 さっきとまったく同じ流れだ。


 俺はオマール海老のワイバーンに命じ、その動きを止める。


「――馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!」


 うろたえるオマール海老。


「いったい何がどうなっている!? 答えよハンゾー!」


「答えるも何も、二度も目の前で見せただろうが」


 俺は指摘する。


「お前のワイバーンに命じたんだよ。『止まれ』ってな」


「――いやいやいやいや!」


 オマール海老は激しく首を振って、


「あり得んだろそれ!? 俺が乗っているワイバーンは、長年にわたって調教してきた相棒だぞ!? そもそもワイバーンに言葉は通じぬ! 止まれと命じたところで通じるわけが――」


「お前はアホか? 言葉は関係ない。さっき丁寧に教えてやったばかりじゃないか。()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから俺に従うと」


「むぬうっ!?」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 最初に言っただろう、戦う前から勝負は決まっていると。俺の言葉の意味、理解してもらえたか?」


「ぐ……ぐぬぬ……」


「俺がその気になれば、今この瞬間でもお前のワイバーンの首を刈れる。それがわかってるから、お前のワイバーンは大人しくしている。いい相棒を持ったことに感謝するんだな――さてと」


 そろそろ軽く本気を出すか。


「俺はワイバーンに乗るのが始めてなんでな。なかなか悪くないオモチャだし、ちょっと遊んでみるとしよう」


「お、オモチャだと!? 命がけでないと乗りこなせない、亜種とはいえ竜の眷属が、貴様にとってはその程度でしかないというのか……っ!?」


「少しばかり空の舞踏を楽しませてもらう。お前も付き合え」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 こうして決闘は事実上、終わった。


 あとは単なるデモンストレーションである。


 果たして俺がどの程度ワイバーンを乗りこなせるのか、という試技でしかない。


 結論。


 日常使いの足として、ワイバーンは悪くないものだった。一匹飼い慣らして、俺の乗騎にするのもいいかもしれない。


 気分が良かったので、空軍のアクロバット飛行よろしく曲芸も披露してみたら、観客たちから拍手喝采を受けた。


 ついさっきまで俺の敗北を楽しみにしてた連中なのに、まったく現金なものだ。


 ……ん?


 勝ち負けはどうなったかって?

 

 そんなものハッキリさせる必要があるか?


 まあひとつだけ――俺の曲芸飛行を目の当たりにしたオマール海老は、口をあんぐり開けて放心していた、とだけ言っておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ