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ラピスラズリの恋  作者: 佐倉硯
その先は裏の顔
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46 side.縁

※暴力シーン入ります。苦手な方はご遠慮ください

ご都合主義やっほー。

薬の効果で眠らされた葉クンの顔を覗き込む。


火照った顔で息苦しそうに激しく胸を上下させているから、よほど苦しいのだろう。はだけたワイシャツのボタンを一つ一つ閉じて、額に汗ばんで引っ付いた前髪を指先で触ると、少しだけ彼の表情が和らいだ気もして。


『何よ貴方達! 離しなさいっ!』


今まで見たことがない苦しそうな葉クンの姿を堪能していた(・・・・・・)のに、背後から煩い英語が聞こえてきた事にようやく私は現実に戻ってくる。


うーん、残念。もう少し葉クンの傍に居たかったけれど、彼のヒーローに大抜擢された身として頑張らなければいけないようだ。


ゆっくりとベッドの上から離れて振り返ると、入口近くに黒服サングラスの男達に背中で両腕を拘束され、床に這いつくばる女性の姿を見て目を細める。私のヒールがスイートルームの大理石を鳴らす。女性の前に立てば、這いつくばったまま私を見上げて吠え始めた。


『アンタ達! 私にこんなことしていいと思って――あ?』


ゴッと鈍い音がした。あ。いけない。五月蠅くてついヒールで横面を蹴り上げてしまった。ヒール壊れてないよね? 思わずヒールを確認すると、少し汚れてしまった気がする。あーあ、葉クンに会うからってお気に入りのヒールを履いてきたのが失敗だったかな。


拘束されたままだから顔だけがグキリと横を向いて頬が一気に腫れ上がって口元が流血する。ご自慢のプラチナブロンドの髪がぼさぼさしながらようやく自分の顔を蹴られたと理解した途端、酷く痛みを訴え始めて。


『っ痛っ!! ふ、ふざけっ!』


まだ勢いがあるようだ。


残念、一発では仕留められなかったらしいのでもう一発。


次は頭を踏みつける。


彼女の顔面は素直に床にキスしたようで何よりだ。大理石がそんなに好きだなんて知らなかった。それならもう少し相瀬を楽しませてあげようと頭の上からグリグリと踏みつければ「うぐぅ、おごぉっ」と変なうめき声が漏れる。よかった、気に入ってもらえたようだ。


でもそろそろ私の相手をしてもらわなければ困る。彼女の前にしゃがんでプラチナブロンドの髪をがっつりと掴むと、無理矢理持ち上げて私と視線を合わせる。

美しき若き女傑と呼ばれた姿はこの数秒で、頬を腫らして鼻血を出した馬鹿な女に成り下がった。ま、私がそうしたんだけど。


『アレクサンドラ。オイタ(・・・)はいけない。ましてや黒澤財閥の庭でやめてくれる?』

『ぅぁ……あ、あんたっ……あの会社……のっ……』


ようやくアレクサンドラは私があの交渉の場に通訳代わりにいた女だと気づいたようで。


本来ならば私はアレクサンドラと一緒に行動する必要がなかった。本部長と言っても人事部だし、関わるのはもう少し後だ。私があの場にいたのは無能な役員爺達の通訳(お守り)のためだ。社長も英語は話せるけれど、円滑に話を進めるために社長に通訳は頼めない。秘書にも英語ができる者が何人か居たが、社長から直接のお願いとあれば断る事ができなかったというのが事実だ。


『あの時自己紹介をしたでしょう? それとも自分以外の女には興味がない? 駄目よ? ちゃんと聞いてね。今度はあの時に言わなかった事も教えてあげるわ』


そう言って私は更にプラチナブロンドの髪をグッと握りしめてニッコリと微笑んで。


『私は縁。このホテルのオーナー。気に入って頂けているかしら?』


一応、五つ星のホテルなのだ。こんなに騒動を起こしても問題にならないのは私だから。それにこの階はワンフロアのスイートルームなのでよほどのことがない限り他のお客様のご迷惑になることはない。


『なっ……』


絶句するアレクサンドラに対し、私はお客様に見せる笑みを止め、目をスッと細めて。


『そして――黒澤財閥第十四代当主及び黒澤グループ現総帥、黒澤真織(・・・・)の第一子よ』

『は? あぁっ!? あっ、真織(あの方)のっ……っ!?』

『気安く母を呼ばないで』


お前如き(・・・・)が耳障りだわ。


自己紹介が終わった事を合図に私に歩み寄ってきた人がいた。葉クンに薬を盛ったバーテンダーだ。彼は静かにベストの内ポケットから小さなジッパー付きのビニール袋を差し出してくる。私はそれを受け取ってアレクサンドラの前に差し出せばバーテンダーは渡すものを渡すとすぐに私の後ろに黙ったまま控える。


『これ、薬物(ドラッグ)でしょう? 葉クンになんてもの飲ませるつもりだったの? バーテンダー()が機転を利かせて合法的な薬に変えてくれたからよかったものの、彼を薬物中毒にするつもりだったのかしら?』


まぁ、残念な事に彼はうちの従業員でもなければ本業はバーテンダーでもない。アレクサンドラを拘束する黒服サングラス――通称“烏有(うゆう)”のメンバーで、万が一を想定して夢兎叔父様が派遣してくれた優秀な()の人材だ。


『っなん……』


あまりにも衝撃的な表情で私の後ろに控えるバーテンダーを見上げるものだから、私は掴んでいたアレクサンドラの髪をますます強く引っ張る。少しブチブチと切れちゃったみたいだけれど、沢山あるからいいわよね。


『言ったでしょう? 黒澤財閥の庭(日本)でこんな風に遊んじゃダメ。お利口さんにしていないから怖い大人が来ちゃったじゃない』


そう言ってにっこりと微笑みながらアレクサンドラの髪から手を離して立ち上がると、髪が数本手に絡みついていて気持ちが悪い。髪を払いながら持っていた薬をバーテンダーの恰好をした烏有に渡す。袋を再度内ポケットにしまいながら、アレクサンドラから受け取ったチップのお札数枚を差し出してきたので、それを受け取り谷間に挟んであげた。


チップを渡すならこれくらいのサービスをしてほしいものだ。ま、谷間にチップを挟んで渡したところで、薬を盛るような従業員は雇ってないけれど。


アレクサンドラはようやく自分の立場が分かったのか谷間からチップを取ることなく身震いし始める。それでも必死に活路を見出そうと痛みに耐えながら震える声で訴える。


『わ、私に何かあったら、貴方達の方が終わりよっ!』

『あら? 日本でドラッグを所持した貴方が言うの?』


どういう経路で手に入れたかはわからないし本人が使用しているかも定かではないが、彼女はいかんせん慣れすぎている(・・・・・・・)。法で裁かれるべきはアレクサンドラであり、どれだけの金持ちであろうが、黒澤財閥の総資産に比べたらたいしたことはない新参者だ。ただアレクサンドラが切り札を持っている自信から来る発言、という事は何となく理解している。


まぁ、その切り札ももうすぐ手元に到着する予定だけれど。


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