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ラピスラズリの恋  作者: 佐倉硯
その先は裏の顔
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47 side.縁


「縁様」


ふとスイートルームに新たな来訪者がやってきた。


烏有でもリーダー格の男が一人、私の名を呼び近づきながら現状を報告する。


「拘束完了しました」

「どこにいた?」

「向かいのビルの一室に」

「こちらに連れてこられる?」

「かしこまりました」


私がそう言うと、烏有のリーダーは振り返って部下らしき人物に指示を出す。複数の烏有が拘束した状態で連れてきたのは二人の男だ。


「くそっ! 離せ! なんだらアンタら!」

「ただの一般市民に何の権限があってこんなところにっ! 訴えてやるからなっ!」


こちらも威勢のいい。


自分立場を理解していない男たちが二人、また手元に届いたかと思うと少しゲンナリしてしまう。それよりも何よりも下品極まりない喚き声が耳障りだ。


「葉クンが起きちゃうでしょう。静かにしてくれる?」


彼の眠りを妨げるなんて万死に値するわ。


私が話しかけた事により、ようやく二人はこの舞台が誰の為にあるかを理解し私を見て皮肉に笑って。


「おいおい、なんだなんだ? お嬢様がこんなことしていいと――」

「五月蠅いわね。折って」

「御意」


私の事を知っていた様子だけれど、そんなことはどうでもいい。喚く男の声を遮って私が命じると、男を拘束していた烏有が男の指をあっさりと折る。瞬間的に爆発したような叫びとうめき声があまりに迷惑で両耳を塞いだ。


「あー五月蠅い」

「ああああああっあっ! ゆびあぁぁああっいでぇえええっ! いあぁえええっ!」

「黙れと言っているの」


耳を塞いでも聞こえる男の声にそう叫べば、烏有の一人が猿轡代わりの布を噛ませてようやくうめき声だけとなる。まったく嫌になると耳から手を離せば、折られていないもう一人の男は顔を蒼白とさせながら黙ったまま視線を漂わせて。


「賢明な判断ね」


同じように喚くなら次は腕をお願いしていたところだ。


烏有の一人が男たちから回収したものを私に差し出した。受け取るにしては重すぎるので、そのまま見えるように持ってもらう事にして改めて這いつくばったままのアレクサンドラを見る。


『あら? 先ほどの威勢はどこへ行ったの?』


二人の男が連れてこられたと同時に、アレクサンドラの顔は青色を通り越して真っ白になっている。まるで髪と同じ色だなと思いながらも静かに告げた。


『葉クンとのツーショットを撮って週刊誌に売る発想は悪くないわ。“アメリカの実業家、美しき若き女傑と一般人男性の再会愛”なんてタイトルだったら面白そうだもの』


そう言って烏有が持っていた一眼レフのデータを確認する。慣れた手つきで烏有がデータの中身を次から次へと表示し、私はそれを眺めるだけだ。アレクサンドラからは一切そのデータ内容は見えないが、流石プロの犯行――上手に撮れている。

葉クンと女性が並んで夜道を歩く後ろ姿、スイートルームで葉クンの上に覆いかぶさりキスを繰り返す隠し撮り。自ら週刊誌の記者に連絡し、スクープを撮らせるという手法は悪くない。

不貞だと叫べばそれまでだけれど、葉クンの本位でなかったのは明らかだし、それを責めるつもりは毛頭ない。むしろその部分においては間に合わないように(・・・・・・・・・)動いたのだから。


『メディアと自分の知名度を利用して、葉クンが日本に居辛くなるよう仕向けてアメリカに連れていくつもりだったのならいいアイディアだったと思うわ。例え目元に線を入れられたとしても特定する人はいるもの。一度貴方と噂になってしまえば、彼は他の人と縁を結べなくなるし、今回の来日で連れて帰る事が出来なくても、自分がいない場所で牽制もできる』


そう言いながら烏有に持ってもらっていた一眼レフカメラと彼らのスマートフォンを破壊するよう指示する。葉クンの写った写真、どんなのでもいいから欲しかったけれど、流石にこのデータを残しておくわけにはいかない。今度一緒に写真を撮ってもらおうと心に誓ったところで、今まで黙っていた男が「それだけはやめてくれっ!」と叫んだのだが、烏有が自己判断で男の肩を外したようだ。また悲鳴が上がったので、他のお客様のご迷惑にならないよう猿轡をつける。ワンフロアワンルームのスイートとは言え、他の階にはお客様がいらっしゃる。不名誉な噂など立てられたらこの人は責任を取りきれるのだろうか。


烏有はやっぱり仕事ができる人達だなと思いながら改めてアレクサンドラを見ると、私が指摘した内容が図星だったらしく、あられもないランジェリー姿で顔面が涙と血でぐちゃぐちゃになりながら呆然としている姿があまりの無様で笑ってしまった。


本当、先ほどまでの威勢はどこへ行ったのかしら? 葉クンにあれだけのことをしておいて許さると思っているなら可笑しい話だ。彼が目を覚ます前に決着をつけなければいけない。私が、黒澤財閥の人間として出る杭はへし折る。会社としてはそれなりに必要な存在ではあるが、余計な口出しをするのはいただけない。契約時にこちらが出した条件は決してそちらにとっても悪いものではなかったはずなのに、それを今更蒸し返してチクチクと横やりを入れてくるのが悪いのだ。


『彼を薬中にして自分から離れられないようにするつもりだったの? 無様ね、そんなことをしなければ男に振り向いてもらえないなんて』


摘発される前で本当に良かった。まぁ、かといって取引相手であるからご丁寧に警察に突き出すような事なんてしないけれど。


それに黒澤財閥としてはすでに要人扱いされている葉クンにこんなことをしでかしたのだから責任は取ってもらわないと困る。本人が薬を使っているかどうかは知った事ではないが、被害者が出るのは絶対に避けなければいけない事項だ。黒澤財閥直系の関係者を狙うなんてアレクサンドラは運が悪い(・・・・)

おとなしくしていればこんなことにはならなかったのに、黒澤財閥を舐めすぎだ。


きっと目を覚ました葉クンは心が折れてしまった女性を言葉で諭すだろう。もうこんなことをしてはいけない、君はそんな人じゃなかったろうと優しく諭して、そしてアレクサンドラが謝罪するとアッサリ許すのだ。


彼は優しい。でも、今はいらない優しさだ。


『葉クンから伝言よ』


それは彼が意識を手放す直前に私に託したもの。私の言葉にアレクサンドラのブルーの瞳に少しだけ希望が満ちたのは、彼の優しさをまだ信じているからだ。


けれど――彼はもうとっくに見切りをつけている。


『――俺は一旦懐に入れた人には甘い。君の過ちは、自分がまだ俺の懐に入っていると勘違いしていた事だよ。君は“俺の優しさを信用しすぎた”ね』


そう告げるとアレクサンドラの瞳が大きく見開かれ涙がボロボロと零れ堕ちる。


『あぁっ……そんなっ……よ、葉がそんな風に言うわけ……何か、何かの間違いよ……』


そう言ってベッドの上で眠る彼に縋るような視線を向けたけれど、私が間に立ち視界を遮る。


『彼を見るな。触るな。縋るな。視界に入るな。お前にその資格はない』


少なくとも言葉で己の気持ちをまっすぐに伝える純粋な女性であれば、私のライバルと認めてあげたのに。


『ざまぁみろ』


ああ、彼に見放された女の末路はなんと哀れな。

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