44
【44】
「……まだ白状してくれないの?」
遙香が甘えた声で問いかける。昨日までなら、その手は食わない、と思っていたが……
「白状する前に、話しておくことがある」
「なあに、改まって」
言いたくないけど、言わなければ。勝利は覚悟を決めた。
「俺、この仕事が終わったら、この街を出るんだ。数週間なのか、数ヶ月なのかわからない。だけど、そんなに長い時間じゃない。だから……聞かないで欲しかった。告白させないで欲しかった。別れるのがつらくなるから」
「ショウ……くん……行っちゃうの? せっかく十年ぶりに会えたのに……」
遙香は勝利の手をぎゅっと握った。この手を離したくない、という気持ちが伝わってくる。
「ごめん……だから、写真部には入れない」
「そういうことだったんだ……。知らなかった。ごめんなさい……」
「別にいいさ。ただ、力になれなくて申し訳ないと思ってる。それはホントだよ」
通りの方から、パトカーのサイレンが聞こえてくる。少し離れた県道の方からだ。今夜も誰かが異界獣に食われているのだろう。
「じゃ、今日はこれで帰るよ。聞こえるだろ? 俺、行かなくちゃ」
勝利が立ち上がろうとすると、遙香が握った手をぎゅっと引っぱる。行くな、と。
「俺、このためにお前の街に来たんだ。分かってくれよ。遊びじゃないんだ」
「あんなに気持ち良さそうに飛び跳ね回っていたくせに」
「それはそれ、これはこれ。仕事の中にも楽しみを見いだすタイプなの、俺は」
一体どこを見ているのか。油断もスキもない女の子だ。もしかしたら、本当にカメラマンの才能があるのかもしれないな。
「……で、ハルカさん、そろそろこの手を離してくれないかな?」
「ダメ」
「どうして。明日学校で会えるだろ?」
「会えないかもしれないじゃない……。こないだも大けがしてたし」
全身包帯グルグル巻きのミイラ状態を、彼女に見られたことを思い出した。
「俺は平気だから――」
「兵器だから?」
ただの聞き間違いなのに、うッ、となってしまった。
そうだ。遙香の言うように、教団にとって自分はあくまで兵器なのだ。たった一人で幾百幾千の獣を屠り、ほぼ不死身の体を持っている。普段意識はしないものの、他の誰かに言われると、暗い気分になってしまう。
「ちがう、そうじゃない。俺はカンタンには死なないっつってんの」




