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(旧)闇夜に踊る  作者: 東雲飛鶴
四章 腭<アギト>に喰われる者
92/134

44

【44】


「……まだ白状してくれないの?」

 遙香が甘えた声で問いかける。昨日までなら、その手は食わない、と思っていたが……

「白状する前に、話しておくことがある」

「なあに、改まって」

 言いたくないけど、言わなければ。勝利は覚悟を決めた。

「俺、この仕事が終わったら、この街を出るんだ。数週間なのか、数ヶ月なのかわからない。だけど、そんなに長い時間じゃない。だから……聞かないで欲しかった。告白させないで欲しかった。別れるのがつらくなるから」

「ショウ……くん……行っちゃうの? せっかく十年ぶりに会えたのに……」

 遙香は勝利の手をぎゅっと握った。この手を離したくない、という気持ちが伝わってくる。

「ごめん……だから、写真部には入れない」

「そういうことだったんだ……。知らなかった。ごめんなさい……」

「別にいいさ。ただ、力になれなくて申し訳ないと思ってる。それはホントだよ」

 通りの方から、パトカーのサイレンが聞こえてくる。少し離れた県道の方からだ。今夜も誰かが異界獣に食われているのだろう。

「じゃ、今日はこれで帰るよ。聞こえるだろ? 俺、行かなくちゃ」

 勝利が立ち上がろうとすると、遙香が握った手をぎゅっと引っぱる。行くな、と。

「俺、このためにお前の街に来たんだ。分かってくれよ。遊びじゃないんだ」

「あんなに気持ち良さそうに飛び跳ね回っていたくせに」

「それはそれ、これはこれ。仕事の中にも楽しみを見いだすタイプなの、俺は」

 一体どこを見ているのか。油断もスキもない女の子だ。もしかしたら、本当にカメラマンの才能があるのかもしれないな。

「……で、ハルカさん、そろそろこの手を離してくれないかな?」

「ダメ」

「どうして。明日学校で会えるだろ?」

「会えないかもしれないじゃない……。こないだも大けがしてたし」

 全身包帯グルグル巻きのミイラ状態を、彼女に見られたことを思い出した。

「俺は平気だから――」

「兵器だから?」

 ただの聞き間違いなのに、うッ、となってしまった。

 そうだ。遙香の言うように、教団にとって自分はあくまで兵器なのだ。たった一人で幾百幾千の獣を屠り、ほぼ不死身の体を持っている。普段意識はしないものの、他の誰かに言われると、暗い気分になってしまう。

「ちがう、そうじゃない。俺はカンタンには死なないっつってんの」


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