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(旧)闇夜に踊る  作者: 東雲飛鶴
四章 腭<アギト>に喰われる者
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32

【32】


 頭を使いすぎて少々脳味噌が疲れたので、勝利はコーヒーのお代わりを注ぐ際に砂糖を五つ入れた。シスター共はダイエットを気にして砂糖を入れないくせに、お菓子はバリバリ喰らうのだから矛盾している。


 一旦頭をリセットし、糖分を補給したので、再度地形情報がバグった原因について考えてみる。本当は考え事なんて柄ではないのだが、ここまで仕事に支障が出ているのでは、考えずにはいられない。

 ……あとは……。

「あッ!!」

 勝利は思わず声を上げた。室内のシスターたちが一斉に彼を見た。

「どうしたの? ショウくん」シスターの一人が声を掛ける。

「あ、いや……何でもないです。ちょっと、思い出したことがあっただけで……」

 そう、と言うと、彼女はシスターたちとのおしゃべりを再開した。

(そうか……あれを忘れていた!)


『俺は、ガキの頃、ハルカと出会っている』


 これだ。この事実。

 悩んでいたわけではなく、常に考えていたわけでもない。

 だが、心のどこかに刺さっていた。

 思い出せない記憶。

 それをハルカに確かめることなく、逃げ出した。それをシスターベロニカに確かめることなく、勝手に不信に陥った。

 過去が分からない。

 覚えていても、あやふやなことが多い。学校にしたってそうだ。二つ前の学校のこと、クラスメートの顔も既に忘れかけている。


 もしかして、過去を明らかにしようとするのは、マズいことなのだろうか?

 これまで全く気にも留めていなかったこと。

 それを白日の下にさらすのは、危険なのか?

 だから、記憶がバグってしまったのか?

 自分は、教団に何をされてきたのか《・・・・・・・・・・・・》?


 その考えに至った時、勝利は部活棟で感じたのと同じ恐怖に襲われた。

 そして、自分自身ではどうにも出来ない、という事を悟った。

 記憶の欠落を放置し続ければ、自分は仕事でドジを踏み続け、いずれ本当に死ぬかもしれない。それはきっと間違いはない。シスターベロニカも、自分の不調に薄々感づいているようにも思える。だが、幾度も言葉を濁しているところを見ると、教団にとってマズい事態になっているのだろう。

 親も同然に長い期間を過ごしてきた人を疑いたくはない。だが――


 ――やはり、確かめなければ。

 勝利は決心した。


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