17
【17】
「ぎょえッ!!」
地上五階のマンション屋上から、勝利がヒラリと舞い降りようとしたそのとき、何者かによって、強く後ろに引き戻された。
――何ッ!?
バランスを取る間もなく、彼は屋上に背中から叩きつけられた。
強い衝撃を頭部に受け、視界はぼやけ、気が遠くなっていく。
酷い目眩に襲われながら、身を起こそうとした時――――
『バウウウウ――――ッ』
――はあああああッ!? い、犬!?
彼の体は、さらに強い力でズルズルと後ろへと引き摺られていく。
「こ、コートに食いつかれてるのか!? え?」
振り解こうともがくが、かえって左右にブンブンと振り回されてしまう。
「ふ、ざけッ、うえぇ……」
ただでさえ目眩を起こしているところで、そんなことをされたら余計に気分が悪くなってくる。暗視ゴーグルの視界がめまぐるしく動き、三半規管を鍛えているはずの勝利は吐き気すら催している。
『ガウッ、バルルルル……』
「や、やめろ、ううぅ」
『ガフッ、ガフッ』
犬とおぼしき生物は、調子に乗って勝利をブンブンと振り回している。まるでオモチャにしているようだ。
(くそッ、これ以上やられたら……吐く!)
引きずり回され、振り回されながら、勝利は気力を振り絞って両腕を頭上へと向けた。
「くッたばれえええ――――――ッ!」
ダダダダダダダダダ――ッ、と、二丁のサブマシンガンを盲打ちした。
ギャン、と犬らしき生物が短い悲鳴を上げ、もみくちゃにされた勝利の体は、屋上のコンクリート床の上に放り出され、二、三度転がるとぴたりと止まった。
「うう……」
ぐるぐる回る視界に酔いながら、勝利は暗視ゴーグルを額の上に押し上げ、ふらふらと立ち上がった。そして、ベルトのバックルに仕込まれた、小型LEDライトのスイッチを入れた。
彼の眼前に現れたのは、血を大量にぶち撒けた、犬のようで犬でない者だった。勝利に撃ち込まれた銃弾で虫の息だ。
ソレは黒くぬらついた皮膚を持ち、犬のように四つ足だが、口は胸の辺りまで裂け、しかも花のように顎が四枚に割れている。
「っきしょお……やっぱテメエかよ。俺をさんざ振り回してくれた野郎は……」
その生物は、異界獣。
コードネームは『アギト』、今夜の獲物だ。




