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(旧)闇夜に踊る  作者: 東雲飛鶴
四章 腭<アギト>に喰われる者
65/134

17

【17】


「ぎょえッ!!」

 地上五階のマンション屋上から、勝利がヒラリと舞い降りようとしたそのとき、何者かによって、強く後ろに引き戻された。


 ――何ッ!?


 バランスを取る間もなく、彼は屋上に背中から叩きつけられた。

 強い衝撃を頭部に受け、視界はぼやけ、気が遠くなっていく。

 酷い目眩に襲われながら、身を起こそうとした時――――


『バウウウウ――――ッ』


 ――はあああああッ!? い、犬!?

 彼の体は、さらに強い力でズルズルと後ろへと引き摺られていく。

「こ、コートに食いつかれてるのか!? え?」

 振り解こうともがくが、かえって左右にブンブンと振り回されてしまう。

「ふ、ざけッ、うえぇ……」

 ただでさえ目眩を起こしているところで、そんなことをされたら余計に気分が悪くなってくる。暗視ゴーグルの視界がめまぐるしく動き、三半規管を鍛えているはずの勝利は吐き気すら催している。

『ガウッ、バルルルル……』

「や、やめろ、ううぅ」

『ガフッ、ガフッ』

 犬とおぼしき生物は、調子に乗って勝利をブンブンと振り回している。まるでオモチャにしているようだ。

(くそッ、これ以上やられたら……吐く!)

 引きずり回され、振り回されながら、勝利は気力を振り絞って両腕を頭上へと向けた。


「くッたばれえええ――――――ッ!」


 ダダダダダダダダダ――ッ、と、二丁のサブマシンガンを盲打ちした。

 ギャン、と犬らしき生物が短い悲鳴を上げ、もみくちゃにされた勝利の体は、屋上のコンクリート床の上に放り出され、二、三度転がるとぴたりと止まった。

「うう……」

 ぐるぐる回る視界に酔いながら、勝利は暗視ゴーグルを額の上に押し上げ、ふらふらと立ち上がった。そして、ベルトのバックルに仕込まれた、小型LEDライトのスイッチを入れた。

 彼の眼前に現れたのは、血を大量にぶち撒けた、犬のようで犬でない者だった。勝利に撃ち込まれた銃弾で虫の息だ。

 ソレは黒くぬらついた皮膚を持ち、犬のように四つ足だが、口は胸の辺りまで裂け、しかも花のように顎が四枚に割れている。

「っきしょお……やっぱテメエかよ。俺をさんざ振り回してくれた野郎は……」


 その生物は、異界獣。

 コードネームは『アギト』、今夜の獲物だ。

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