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【22】
彼女を食堂に通すと、シスターたちは意味深な笑いで出迎えた。教団きっての凄腕ハンター・多島勝利の客人だ。無下に扱われることはないだろう。
シスターベロニカは既に食事を終えて、食堂の隅でテレビの連ドラを見ている。あちこちの街に赴任する彼等にとって、全国ネットの国営放送は地味に有り難かった。
勝利は、取っておいた昨夜のシーラカンスの切り身を暖めるようシスターに頼むと、自分の向かいの席に遙香を座らせた。
「懐かしいなあ、子供の頃に入ったきりよ」遙香が言った。
「そうなの?」
「教会のクリスマス会に来たとき、迷子になって入り込んだのよ」
「ふうん……」
街の教会でクリスマスに子供を招いてパーティを催すのはよくある話だが、この教団でも全ての施設で近隣住民へのサービスを行っている。一般的には宗教に親しんでもらうことが目的だが、この教団の目的はあくまで地元に溶け込むため。本来武装組織である教団には、教義など最初から存在しない。あくまでも世を忍ぶ仮の姿なのだ。
遙香がクロワッサンとスクランブルエッグに舌鼓を打っていると、厨房からシスターが例のブツを運んできた。
「さあ、これも食えよ」
「なに? お魚? いいの? こんな……」
暖めなおしたシーラカンスには香草とバターが添えられて、いい薫りが食卓に溢れる。
「本当は、昼休みにお前に食わせてやろうと思ったんだ」
「……ありがと。こんなちゃんとしたもの、食べるの久しぶり」
どんな食生活送ってんだ、と言いそうになって勝利は言葉を飲み込んだ。彼女の生活が困窮していることをうっかり忘れかけていた。
「これな、シーラカンスなんだ。シスターが俺たちのために取り寄せてくれたんだ」
「すごーい! いっただっきまーす!」
遙香は大喜びで手を合わせ、さくさくとシーラカンスにナイフを入れた。
「どう?」
「んー! んー!」満面の笑みで頭をこくこくと上下させている。
「シーラカンスが食えるなんてすごいだろ?」勝利は自慢げに言った。
「そうよね。日本まで通販してるなんて、知らなかった」
「へ?」
「南方に行けば食べられないこともないけど、って話……えと、ごめんなさい」
遙香は急に何かに気付いて、大人しくなってしまった。
「な、何のこと? 別に謝られるようなことないけど? ほら、冷めちゃうからどんどん食べなよ。スープお代わり入れようか?」
勝利は手を差し出した。
「あの……私をおどろかそうと思ったんでしょ? だから、ごめん」
勝利はううん、と首を振った、
「そっか。ハルカのお父さんは都市伝説ハンターだもんな。そのくらいのこと、知っていてもおかしくないよな。さすがだよ」
「あはは……うん。お父さんに聞いた」
「やっぱね」
「でも、本物を食べられるなんて、すごく嬉しい。これはホントよ」
そう言って、遙香はスープボウルを勝利に手渡した。




