11(挿絵あり)
「一人、喰われたか」
その黒い生物は、上半身がカエル、下半身がサルのような姿をしていて、二本足で直立していた。大きな口の中に、人間を丸ごと突っ込んでボリボリと咀嚼している。腹のあたりから音が聞こえるから、本来の歯や顎は口の奥にあると思われる。彼の悲鳴も聞こえなかったのは、一瞬で頭部を喰われてしまったからだろう。
「マズい……これで仕留めなければ――――」
次に喰われるのは自分だ。シスターベロニカに戦慄が走った。
十数年前、左手、左足を生きながらにして喰われた恐怖がよみがえる。彼女はその結果、義手と義足を着けることになってしまった。もう、かつてのように異界獣と対峙することは出来ない。造りモノの手足では、現役だった頃の機敏な動きが出来ないのだ。それはすなわち、ハンターとしての死を意味している。その彼女に教団での二度目の生を与えたのが、他ならぬ勝利の存在だった。
彼女が銃に装填したものは、主に大物に使う対異界獣用グレネード弾だ。弾頭の特殊金属が異界獣の外皮を裂き、内部で爆散して対象を破壊する。
対異界獣戦において、通常兵器が効かないのは外皮だけ、そしてそれを破壊出来る武器は、同じ異界獣の素材を使った武器と、教団で精製される希少金属だけなのだ。
幸いまだ化け物は、今宵のディナーを楽しんでいる。警官の腰のあたりまでカエル口の中に収まったころ、ベロニカは銃の狙いを定めた。
『サンキュー、お前はよくやった』
そう心の中で警官に声をかけると、彼女は引き金を引いた。
鈍い発射音と共に打ち出された弾は、食いかけの警官の足とともに化け物と、焦げたパトカーを吹き飛ばした。
「危ない!!」
次の瞬間、勝利の呼びかけと同時にベロニカの体はふわりと宙を舞った。
ベロニカは脇を抱きかかえられ、勝利と共にゲート脇の警備室の屋根に飛び乗った。すると目の前に強い光が瞬いた。
「うッ」ベロニカは思わず手のひらで目を覆った。
さっきまで彼女のいた場所に、稲妻が落ちたように見える。
「ふう。間に合って良かった」安堵の表情を浮かべて勝利が言った。「上から見たらアレが帯電してたんだ。やっぱ電気を食うみたいだね」
「遅いぞ。もう二人犠牲者が出ている」
ベロニカは口では咎めているが、さすがは我が息子だと内心褒めていた。
「ごめん、冷凍車を見た時点で気付くべきだった」
そこまで言うと、勝利は再びベロニカを抱いて警備室の屋根から飛び降りた。




