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【10】
ガス火とも異なる、若干緑がかった青い炎が、車の残骸を涼やかに包んでいる。ガソリンにも引火しているはずなのに、何故か青い炎の方が勝っているようだ。
我々の使う赤い炎では、異界獣を焼き尽くすことは出来ない。
彼等の表皮はこちらの世界の武器では傷をつけるのは難しく、掃討には特殊な技術や秘術が用いられる。それらを独占しているのが超法規的集団の『教団』であり、故に異界獣の駆除も一手に引き受けているのだ。
パチパチと爆ぜる音の他に、聞こえるものはない。
死骸は落ちていないか。どこかに吹き飛んでしまったのか。破片は落ちていないか。
それともまだ生きているのか。
五感で得られる情報から、あらゆる可能性を思考する。
(どこだ)
視線を向こう側に滑らせると、反対車線のガードレールがひしゃげて、植え込みの低木を押しつぶしている。ぐにゃりと曲がった鉄パイプ状のガードレールには、トラックの銀色の外装板と共に、ぼろのような何かが引っかかっている。
「む……」
ベロニカは、アサルトライフルの銃口を向けながら、ゆっくりと近づいた。彼女の軍靴に踏みつけられて、細かく砕け散ったガラス片が微かに鳴いている。
「なんだ、人間か」
ぼろのようなソレは、運転手のなれの果てだった。胴のあたりで千切れていたが、衣服がくっついていることで、かろうじて人間だと判別出来た。ベロニカが死体を確認していると、道路封鎖中の警察官が数人、血相を変えて工場まで戻ってきた。
「シスター、爆発があったようですが、大丈夫ですか?」
「馬鹿者ッ、戻って来るな!!」
一体彼等は上司から何を聞いていたのか。
若い警官だから知らぬのもムリはないのかもしれない。だが――
「戻れ! 今すぐ!」
ベロニカは警官たちの足下に銃弾をバラ撒いた。己に向けて発砲されたことがないからだろう、悲鳴を上げて走り去っていく者や、その場で恐怖に震え上がる者もいた。
中年の警官が、腰を抜かした警官のベルトを引っ掴み、裏返った声で、
「ひッ! わ、わかりました!」
と叫び、現場から慌てて走り去っていった。
彼等を見送ると、シスターベロニカはぽつりと呟いた。
「一人、喰われたか」
道路脇で黒い生き物が、頭から警官をむさぼり喰らっていた。リズミカルに骨をかみ砕く鈍い音が、夜の湿気を伴って耳の奥に次々と投げ込まれてくる。
警官たちは恐怖に我を忘れ、仲間が減っていることにも気付かなかったようだ。
「これだから警察官は……」
吐き捨てるように言うと、ベロニカは銃に特殊弾を装填した。




