9(挿絵あり)
【9】
シスターベロニカが胸騒ぎを覚えつつ、電源室の前でミネラルウォーターのペットボトルを空にすると、ふいに工場のゲート付近でタイヤの激しいスキール音が鳴った。
次の瞬間、ベロニカはボトルを放り投げると、ゲートに向かって全力で駆けだした。
「ゲート前、何事だ、報告しろ!」
インカムに向かって叫ぶ。
『こちらゲート前、今トラッ、きゃああああ』
待機中のシスターの絶叫、そして大きな衝突音が聞こえた。例のトラックにでも突っ込まれたのか。
(くッ、派手なお出ましだなッ)
ベロニカは走りながらインカムに呼びかける。
「勝利、すぐ戻ってこい。予定が狂った」
『こちら勝利、了解。さっきの悲鳴は?』
「これから確認する、以上」
いやな予感を覚えつつ、ベロニカは走った。
まもなくゲート前に到着すると、白煙を上げ、運転席をパトカーの半ばまで突っ込んだ貨物トラックが彼女を出迎えた。
「シスターベロニカ! た、た、たすけて」
ベロニカめがけて飛び込んできたのは、見張り担当のシスターチェリーだ。すっかり怯えきっていて使い物になりそうにない。ベロニカは、チッ、と舌打ちをすると、
「貴様は電源室に向かえ! ドアの前でマーガレットを援護しろ」とだけチェリーに告げて、自分は白煙を上げているトラックに警戒しつつ近寄った。
警官たちは皆、道路封鎖で出払っており、こちらの被害はパトカー一台のみ。だが、車体前部が酷くひしゃげた、このトラックの運転手は無事では済まないだろう。悪いが構っている暇はない。
「この煙は……?」
トラックを見ると、荷室側面に冷凍車と書いてある。煙はエンジンからではなく、荷室前部の冷却ユニットから出ていた。
(まさか……この電源に釣られたのか?)
車一台を大きな冷凍庫にしているのだから、使われる電力も大きい。万一獲物がこのトラックに引き寄せられたのだしたら――
ベロニカは、背中に担いでいたアサルトライフルを急いで構えると、トラック後方にぐるりと回り込んだ。さらにゆっくり回り込むと、車の向こう側に張り付いていた何かが、一瞬で姿を消した。
(これか――)
ベロニカはおもむろに車体の下に何かを放り込み、全力でゲートの内側に飛び込んだ。
次の瞬間、トラックはパトカーもろとも爆発した。
(どうだ?)
ゲートの柱の陰から体を起こすと、青く炎上する二台の車が視界に入る。炎の色が異質なのは、異界獣専用に造られた手榴弾を使用したためだ。
炎で明るく照らされた周囲には、道路に張り付くように燃える積み荷の残骸や、吹き飛ばされたガラスの破片、冷凍車のちぎれた壁が散乱していた。
「この程度で殺れるとは思わんが……」
ベロニカは、敵の死体がないか、注意深く炎の中に目を凝らした。




