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第八話

「すみません。少しよろしいですか」


 夕食も終わり部屋に帰ろうとするイリスを呼び止めた。


「もう少しラグス流についてお聞きしたいのですが」


「かまいませんよ。少し酔ってしまったようですので風にあたりたいので、それでよければ」


 食堂の窓を抜け、イリスをテラスに案内する。心地よい風が吹き抜ける。赤らんだ顔のイリスは心地よさそうにしていた。


「それでどんなことをお聞きなりたいのですか」


 風を少し楽しみ満足したのか、私に顔を向け尋ねた。


「そうですね。ラグス様が死んだ後弟子の皆様はどうされたのでしょうか」


 イリスは私の質問に戸惑ったようだった。


「ウォルター君は変わったことに興味をお持ちですね」


「ウォルとお呼びください。家族も皆そう呼んでいますので。そんな変わったことですかね。ラグス様にはもうお会いすることはできませんし、他の弟子の方達とお会いしてみたいですからね」


「わかりましたウォル。ラグス様が死んだ後高弟のほとんどが放浪の旅にでましたね。わたしがその後どうしているか具体的に知っているのは二人だけになります」


 何かを求めて旅に出たのか。皆自由奔放な者達だった。


「それで、その御一人というのは何をされているんですか」


「ラグス流の道場を守っています。ラグス流は世界に広まりましたが、やはりあの道場を訪ねてくるものも多いですし、それに高弟以外にまだ基礎すらおぼつか無い弟子もいましたしね」


 そんな律儀な弟子はひとりしか思いつかないが。


「その御方はどういった方なんですか」


「マルタといってラグス様の師匠筋にあたられるかたの娘さんですね」


 マルタ・アーティザナル。マルタはおっとりして天然だったが、責任感は強かった。私が一級を授けた五人の内唯一の人格者だ。それも私が上手く導き育てたというよりも、師匠の教育が大きかったのだろうと思う。確かにマルタなら私亡き後も道場に残っていてもおかしくはない。


「そういえば師匠はどうしているんだ」


 つい口をでた言葉にイリスが怪訝そうな顔をした。まずいな。なんとか誤魔化さなければ。


「いえ、ラグス様に師匠がいたとは知らなかったもので、その師匠というのはどういったかたなのかなと」


「そうですか」


 イリスは怪訝そうな顔のままだ。疑惑を増やしてしまった。私は誤魔化すのが上手くないようだし、これからより慎重に言葉を選ぶべきだな。


「ラグス様の師匠にあたる方は精霊族なので今も生きておいでです。道場にも時々顔を出されているようです」


 精霊族とは人と精霊の間に生まれた種族だと言われている。実体を持たない精霊よりは人に近いが、成長速度が大きく異なる。精霊族は短いものでも五百年、長いものになると千年近くも生きるといわれている。成長が遅い為か精霊族にはゆったりした性格のものが多くめったに集落から出てくることはない。


 精霊族のなかでも好奇心旺盛で様々な場所に顔を出す師匠は変わり者だった。初めて出会ったとき師匠は三百歳くらいであったが、私の目には三十歳ぐらいに見えた。


 精霊族である師匠と人との間に生まれたためマルタはこれほど成長が遅いわけではないが、六十歳を越えたというのに十代前半といった見た目をしていた。あれから六年たったが見た目はたいして変わっていないことだろう。


「精霊族ですか。わたしは人としか会ったことがないのです」


 イリスの話に調子を合わせる。


「ふふっ、そんなに興味がおありなら連絡を取ってみましょうか。マルタに言えば連絡がつくはずですよ」


 「いえ、そこまでしていただくわけにはまいりません。ラグス様の師匠に剣を見ていただくなど」


 あの方なら飄々と気ままに生きているだろうし、会いたくないと言えば嘘になるが後回しにしても問題ないだろう。


「ふふっ。剣の腕に期待されているのなら無駄ですよ。ラグス様は師匠とお呼びになられていましたが、剣に関しては全般的な基礎くらいしか習っていないそうです。どちらかといえば人生の師匠であったようです。それにあの方は気さくな方ですしね。ここ最近は冒険者をされているようですよ」


 冒険者をしているのか。相変わらず読めない人だが、元気にされているならそれでいい。


「それでもう一人の方は何をしていらっしゃるんですか」


 私の言葉にイリスの表情が曇った。


「傭兵団を率いているみたいです」


 そういったきりイリスは口をつぐんでしまった。


「他の放浪に出たという弟子の方については何もわからないんですか」


 これ以上その弟子について聞くことはできなさそうだと、他の弟子について聞いてみた。


「噂くらいは聞きますが、あまりいい噂ではないですね」


 こちらに関してもあまり言いたくないようだった。何か問題でもおこしているのだろう。弟子を育てるというのはやはり難しいものだな。とりあえずそちらの問題の前にまずは目の前にある物から片付けていこう。


「イリス様はどうされていたんですか」


「わたしは」


 イリスは言いよどんだ。


「わたしは色々ですね。すいません。疲れたのでそろそろ寝ようかと思います。今日はありがとうございました」


 そう言うとさっさと出て行ってしまった。これから親しくなれば話してくれるかもしれない。それまで待つべきだろう。考えていてもしかたがない。明日も早いことだし寝ることにしよう。

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