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第四話

「それはあの警備兵と同じように操られているっということですか」


「たぶん……」


 マーティンの救出まで全て計画されていたということか。マーティンは間違いなく王になる。操られているとなれば国の方針などどうとでもなる。それまで待たずとも王の暗殺なども容易だろう。厄介なことになったな。


「それでマーティンを治すことは可能ですか」


「高位の治癒術士なら、どんな魔術で操っているかわかれば治すこともできると思う……」


 王宮の術士は上級治癒術士だから一つ目は問題ない。後はどんな魔術を使ったかか。


「マルタ。どのような術であれ、それほど強力な術であればかけるのに時間がかかりますよね」


 私の質問にマルタは考え込む。


「魂を歪めるほどのものですからねえ。魔術を発動させればすぐに操れるとかそんなのじゃないと思うけど……」


 マルタは首を傾げながら自信なさげに答えた。確証はないが信じるしかない。まだ王都内にいるはずだ。


「それほどの術士をギベルソンが何人も抱えているとは思えません。切り捨てたはずはないのです。ですから術士は酒場内にいなかった可能性が高い。門はまだ閉じています。王都内に潜んでいる可能性が高い」


「つまり、その術者を捕まえればどんな魔術が使われたかもわかると……」


 イリスが私の言葉を継いだ。


「そうだ。門の閉鎖解除を思いとどまってもらわなければ」


 辺りを見回すと騎士団長が部下に指示をだしているのが見える。門の閉鎖解除の指示であれば今すぐにでも止めなければならない。団長に向かって走り出す。団長に近づくにつれ、何を話しているのか聞き取れるようになった。


「酒場は制圧し、事件は解決した。門の開放を伝えろ」


 団長に話しかけるには、ここからではまだ遠い。


「騎士団長殿、お話があります。門の開放はお待ち頂きたい」


 私は声を張り上げ呼びかけた。周りにいた騎士達やなにごとかと集まっていた群集が私に注目するのがわかった。その注目の中に殺意を持った視線が混じっていることに気がつく。辺りを見渡すが、集まった人間が多すぎて特定することはできない。少し送れて走ってきていたイリスが、急に立ち止まった私にぶつかりそうになっている。


「どうかされましたか」


「殺意を持った視線を投げかけられました。群集の中に誘拐に関わった者がいるようです」


 イリスも群集を見渡したが、すぐに首を振る。


「これほど多くの人間のなかから見つけ出すのは難しいですね」


「ええ。ですがいることは間違いありません。私の言葉に立ち去ったかもしれませんが、まだ遠くにはいってないはずです。マルタと共に周囲を探ってください」


 横目に団長が私に近づいて来るのが見えた。


「これはウォルター様。彼は無傷で無事確保できました。門の開放に支障はないと思われますが」


 訝しげな表情で疑問を口にした。それに対して順序立てて説明していく。私の話を聞くうちに団長の顔色が変わった。王子が操られているかもしれないのだ。当然の反応だった。私が話し終える前に団長は口を挟んでくる。


「それは本当のことなのですか」


 騎士団長は決してマーティンを名前や王子などとは呼ばなかった。王子が誘拐されたなど、群集の前で明かすことはできない。私も気をつけなければならない。


「はい。彼は誘拐を起こしたとされる警備兵と同じ状態にあります。マルタ様は半分ですが精霊族の血を引いています。精霊族は魂を見る力を持っているのです。間違いありません」


 私の言葉に団長は頭を抱え込んだ。


「これではなんと王に報告すれば……」


「術者を見つけ出せれば、早急に解決できる可能性があります。王子が救出されたか自分の目で確認したはずで、術者はまだ付近にいる可能性が高い。これで門の開放をお待ちいただいた理由はおわかりになられたでしょう。騎士達を動員し、周囲に怪しい者がいないか手分けして探してください。騎士一人では敵わないかもしれないのでかならず複数で動くように徹底していただきたい」


 その言葉に団長はすぐに従ってくれた。てきぱきと周りの騎士達に指示を出す。団長の指示のもと、騎士達が方々に散って行く。


「私も捜索に向かいます。情報感謝いたします」


 そう言うと騎士団長は走り去っていった。




 私も探すとしよう。意識を広げる。それにはかなりの集中を要した。周りの気配から敵意のないものを除外する。私に敵意を持った気配は少なくはない。明らかに貴族とわかる服装をしている。貴族というだけで敵意を持たれているのだろう。この程度の敵意は貴族間でも感じるものだ。さきほど感じたような強烈な気配はなかった。もう群集の中にはいないらしい。


 範囲を拡張していくと東のほうで幾人かの気配が固まっているのが感じ取れた。ここからそう遠くはない場所だ。その気配の一つが急に消える。殺されたか。もしくは気配を完全に消したか。術者と騎士の争いかどうか、ここからではわからないが何かが起こっているのことは間違いない。


 気配を感じた方向に足を向けた。集まった群衆の間をすり抜け、細く街灯も灯っていない暗い道をただひたすらに走る。辺りは静かで私が腰に提げた剣の揺れる音だけが響いている。体の軸がずれているからか。まだまだ未熟だ。


 気配を感じる。先ほど感じたときはもっと多くの気配があったが、今は二つしか感じ取ることはできない。正面に壁が見える。この道はどうやら三叉路になっているようだった。道を曲がると人影が見える。何人もの騎士達が倒れていた。彼らからは気配は感じとれない。死んでいるようだ。


 感じ取れた二つの気配に目を向けると片方は跪いているように見える。もう一方はその跪いた影に剣を突き刺そうとしている。細い月の光が剣に反射した。細い剣だ。剣を突こうとしている影に向かって走りながら殺気をぶつける。こちらに意識を向けるのがわかった。影はそのまま剣を引くと私と反対の方向へと走り出した。追いかけるか迷ったが一つの気配に気付き、跪いた影に駆け寄る。影は騎士団長だった。


「大丈夫ですか」


 胸から血を流しているのが見て取れる。出血はひどいが今すぐにでも死ぬというほどの傷ではなさそうだ。

 

「これはウォルター様。まさかこんな所まで来られるとは。刺されたがなんとか急所は防げたようです。まさかプレートメイルの上から刺されるとは思いもしませんでした」


 団長の傷を見ると胸当ての右のあたりから出血しているのがわかった。確かにプレートメイルを貫いている。見たところ団長の鎧は最上級品だ。一般的に出回っている鎧の中でこれ以上のものはなかなかない。団長が死んでいないのはそのおかげだろう。粘りの強く硬い材質の胸当てにレイピアが横滑りしたのだ。そのせいで急所を狙ったが外れた。多くの人間が胸当てに守られている安心感からか胸の防御が疎かになる。それを利用して胸ばかり好んで狙うのだろう。これは誘拐の際に殺されたメネジルド流一級剣士の傷とも一致する。


「騎士団長殿すみません。私はあやつを追わねばなりません」


 団長に頭を下げ、すぐに後を追う。


「危険です。お戻りください。ウォルター様」


 背に団長の言葉が聞こえたが、気にせず走る。すると、さほど走る必要もなくすぐに影が見えた。二つの影が激しく剣を交えている。交差する二本の剣が美しく煌いている。普通なら、ここで割って入るのは無粋だが、片方は誘拐に加担した者だ。そんなことを言っている場合ではない。姿が見える位置まで来ると片方はイリスだった。さきほど感じた気配はやはりイリスだったか。


「イリス。大丈夫か」


「はい。ですが思った以上にやりますね」


 イリスからすぐに返答が来た。余裕がありそうだな。これなら私の出番はなさそうだったが、剣を脇構えに構える。


「殺すなよ。歯に毒を隠しているかもしれん。一瞬で意識を刈り取れ」


 私の声が発せられたのと同時だったろうか。二人の間に炎が生まれた。その明るさに目を閉じる。次に目を開けたときにはイリスが倒れていた。


 何が起こった。間違いなくイリスが押していた。それなのにイリスが倒れ、男が立っている。考える間もなくまたも炎が生まれ私へと放たれた。

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