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死弾  作者: 北村タマオ
第三章 転生篇
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0019 子は親に似る

 海と砂漠。

 この2つは、似ていないようで、似ている。水が貴重であると言う事だ。それ即ち、人間という存在を拒否している環境でもあるのだ。海には水はあるが、飲水ではない。砂漠では色々と工夫すれば水は手に入るが、人間が生きていくのには不足だ。井戸を掘るなり、事前に用意するなり、単純なやり方ではあるが、こうするしかない。

 その海と砂漠、2つを合わせた様な環境にて、「名も無き女」と「ハスキー」、そう名乗る2人の男女は生きていた。魔王討伐も目指さずに、ひたすら海の如く広い砂漠にて、生きていた。まるで隠居みたいな生活ではあるが、ここでの生活は、悪くはない。

 海と砂漠を合わせた様な環境。それでも、生きてはいける。ここにはスマホは勿論、パソコンも、車も無い。それでも、毎日生きている。それこそが、この異世界にて暮らす理由であった。この砂漠にて生きていくのに必要なのは、狩りの腕前と、その狩りで得た砂漠ネズミの肉を近くのオアシスにて物々交換にて水と食料を得る。当然、生活は貧しい。だが、死にはしない。

 別にハーレムでもない。魔王討伐もしない。そして、文明的な暮らしも最低限度にして、悠々自適なスローライフをおくる。そう言う理由で異世界にて隠居している転生者や転移者は他に幾らでもいる。「名も無き女」は、「ハスキー」と共に、この過酷な環境の中で生き続けていた。

 無論、このまま死ぬまで砂漠に骨を埋めるつもりはない。これは、一種の待ち伏せであった。「死弾」を撃ち込むべき奴が、この砂漠の海を超えて、やって来る筈だ。それまで待ち続ける。幾らでも砂でジャリジャリした食べ物を食らい、少ない水でやりくりして、飲んで、浴びて、洗って、暮らしていく。

 異世界にて心がネジ曲がったクズ勇者を現世に転移させて、これに対抗する力として、「死弾」の使える拳銃をばら撒いた何者かが、ここへ来るだろう。誰が、何が、こんな状況を作り出したのか。

 ここは待つ。自らは動かない。


「んで、いつまでここでスローライフを過ごせば良いんだ」

「現世が滅びる直前まで」

「確かに、あのまま現世を残していたら、私達が英雄的に戦っていれば、それこそが創造主の目論見通りでしょう」

「え、ちょっと待て。創造主? そんな奴が敵として回るなんて、反則じゃねぇか」

「そう、それよ。反則したいのよ、創造主は」

「……説明しろ」

「現世の暮らしと、ここの暮らし、どっちが良いのか、あなたは答えられる?」

「確かに、大変だけど、充実している」

「それがいけないのよ、創造主にとって。折角、一生懸命に創り上げた現世の生活が困難になり続ける中で、異世界に転生したり転移したりして、楽な道を用意してあげたのに、これもまた上手くいかず、挙句に親切で、サービスで用意した異世界での暮らしで、心を病んでしまう人間も出てくる。となると。」

「……やり直したくなるな、全部」

「ここに何かが来るとすれば、それが本丸よ。全部やり直ししたくて、一生懸命になっている中で、こんな異世界の砂漠にてスローライフを過ごしているのを知れば、本気でやれと発破をかけてくる」

「それを待っているのか。創造主が、この詰んだ世界を再起動しようとしている奴を、撃ち殺すのか」

「必ずしも撃ち殺す必要はない。話をして、帰してもらうのも選択肢の1つよ」

「それで、収まんのかよ。再起動したいのに動作がストップしたスマホやパソコン、あるいはタブレットを前にしたら、ストレスで頭がどうかして、その場で叩き割られる可能性だってあるぜ」

「そうなったら、全力で阻止するだけ」

「……出来るのかよ、お前。相手は創造主だぜ、創造主。要するに、神様だろう。撃ち殺してどうするんだよ。例えそれで現世が助かっても、異世界はどうするんだよ。今更全部無かった事になって出来ないだろう」

「現世も異世界も、別にあっても良いじゃない。やり直したければ、生きている内にやり直すべきなのよ。でも、事情があって異世界に行く奴も、いれば良い」

「じゃあ、結局はそのまんまかよ。それで良いのかよ」

「私は勇者ではない。名前もない、ただ「死弾」を撃たせる為だけに創り上げた、そのための器でしかない。世界を救うつもりはない」

「まぁ、いいや。俺もまた異世界でしくじった、今更現世の理不尽が嫌だとは言わないよ。お前さんの好きにやりな。俺は全部許してやるよ。お前が誰よりも正しいと、俺は確信している」


 そんな事を言われても、この女は別に赤面したり喜んだりしない。ただ、物々交換にて調達した食べ物、何が原材料なのかは想像もできない食べ物に齧り付く。「ハスキー」は、そんな彼女にときめかないし恋しない。何でも良いから反応しろ。その方が可愛げが出るというものなのに。

 その時、何故か風が吹く。「名も無き女」と「ハスキー」は、同時に拳銃を手にする。ここに訪ねてくる奴は居ない。オアシスに敵は居ない。


 月から状況を見守る神様と「魔天使」は、お互いに顔を見合わせる。どうするつもりなのだ、あいつは。創造主を相手に「あいつ」呼ばわりとは、如何なるものかと思う所であるが、構わないで続ける。

「どうするつもりなのか。どうケリを付けるつもりなのだ」

「なぁ、もうやり直しなんて無駄な事は考えないで、素直に受け入れればいいの」

「それが出来ないのを、歳のせいにするのは残酷すぎるかね」

「まぁ、どんな国も天辺から腐り始めるというからな。創造主も同じなんだろうよ」

「子は親に似る。我々も同じだ」


 未完


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