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死弾  作者: 北村タマオ
第一章 開戦篇
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0001 裁く者

 死弾? ああ、知っているよ。あの女の、転移者狩りの事だろう。元々、現世で人生がうまくいかなかった人間が、楽をして幸せになろうとして、神様に懇願して作らせた異世界だが、中にはその生活に飽きてしまって、復讐がてらに現世に戻ってくるやつも居る。無論、そういう理由で異世界転移する奴らにまで、神様は慈悲深くはなかった。

 楽して成功したい、ハーレムで暮らしたい、努力しないで強くなりたい。人間の欲望を全部叶えていたら、キリがない。世の中の理不尽に耐えられない奴らの為に、これでは本末転倒も良いところだ。

 で、神様は創り上げたんだよ。名前も無ければ、親も居ない、家族も居なければ、心もない、人を愛する術も知らない。だから強い。そんな女さ、死弾は。

 それだけじゃない。あいつの本当に恐ろしいところはな、使っている武器さ。見た目は日本の警官が使っているS&Wの「SAKURA」だし、込められている弾も5発だ。

 でもな、こいつに撃たれたら、その可愛い見た目からは考えられないくらいの大穴が身体にあく。掠めても駄目だ。そこから身体が焼けただれていく。どんなにチートなスキルを持っていても、この死弾だけは耐えられない。最期には全身が焼けただれて、土に帰ってしまう。土でなければ、染みだけになって死ぬ。

 あいつには、何もない。名前も、家も、親も、彼氏も。だから、ついたあだ名が死弾だ。

 見た目? ああ、こいつもまた珍妙なんだよ。髪の毛はお下げで、顔の作りは上の中といったところ、着ている服の趣味は普通だ。こんなに特徴のない奴を探し出して殺すのなんて、校庭に落ちた蟻のコンタクトレンズを探すようなもんだ。

 何にせよ、俺はもう現世には戻らないよ。何かしでかしたら、死弾の弾丸を食らって、染みになっちまう。あんな死に方するくらいなら、どんなに退屈でも良いから、死ぬまでここで暮らすよ。


 「彼女」は、真っ暗闇の部屋の中で、禅を組む。元々「無」から産まれてきた「彼女」であるが、より深い闇の中に、自分を置く為の儀式である。

 「彼女」は、神様に命じられたら、相手がどんなチートを使っても、ドラゴンが来ても、女子供が相手でも、構わずに「SAKURA」の外見をしている拳銃で殺していくのだ。その為には、「無」にならなければならない。

 「彼女」はそっと、目を開ける。何もない部屋が見える。あるのは、布団一式、小さい机、洋服箪笥が1つだけだ。スマートフォンは愚か、パソコンもテレビもない。そして、禅を組む自分の前には、「SAKURA」と銃弾がある。

 まただ。また聞こえる。異世界から現世に転移してきた奴らに襲われている人間の声が。助けなければ。「死弾」と呼ばれる「彼女」は、その為に自分は生きているのだ。


 元々、彼はこの高校に通学していた。スクールカーストの最下層にて、バカで頭も悪くて学もない、典型的な落ちこぼれだ。だから、異世界に転生して、チート能力で魔王は勿論、龍だって葬ってきた。もうこれ以上自分に敵が居ないと気がついた時、彼は自分の本当の敵をまだ殺していない事に気がついた。

 この紅薔薇高校の生徒達である。いや、教師も何もしてくれなかったから、この際、連中の好きな日本語で、「連帯責任」として、全員殺してしまおう。

 先ず殺すのは、自分と同じくらい学がない癖に威張ってた連中、そして見て見ぬふりをした連中、自分達の仕事の査定にひびくと思って、あえて「いじめ」を認めなかった教師。全員皆殺しだ。

 そうらそうら、死ね死ね。俺はずっとこうやって異世界で無双してきたんだ。例え軍隊が相手でも負けるものか。お前らなんて怖くない。皆死ね。


 「彼女」は、今正にその人生を終えようとしている男子高校生に呼びかける。

「誰がこんな事をしたの?」

「イカ野郎が、光る剣を持って、やったんだ。お願い、助けて、明日は、大会が」

 それが、彼の最後の言葉だった。「彼女」は、校舎に入っていく。無間地獄に落ちるべき魂を裁くためにである。


「……な、なんで、私を残したの?」

「お前は、俺のプロポーズを断った」

「それが、そんなに悔しいの?」

「だからこうして、お前の身体を少しずつ削っているんじゃないか。爪も鼻も髪の毛も削った。次はどこにしようか」


 そこから先を喋る前に、屋上への出入り口から、「彼女」が現れる。

「なんだてめぇは」

「死ね」

 「彼女」はそうとしか言わずに、平然と「死弾」を3発、腹部に撃ち込んでいた。苦しみ悶える彼の身体は、焼けただれていき、やがて屋上のコンクリートの床に染みになって消えていた。光る剣に「彼女」が歩み寄ると、それを手に取る事もなく、これを踏み壊す。

 「彼女」は、この日も「使命」を全うした。良き魂はそれ相応の世界へ、悪しき魂もまたそれ相応の地獄へ、そしてこの染みになった男は無間地獄へ。

 「死弾」は、残った女子高生には目もくれずに、その場を去っていった。次にまた標的がくるまで、まだ時間がある。禅の続きをしなければ。



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