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「時間返せ」ってそんなの無理に決まってるでしょうが!!

みなさんも、嫌いな上司とかいますか?

 コンコン

 今日もだ。

 まあ、いつものことだ。

「はい!どうぞ〜」

 僕は頑張って遠くに届くように声を張り上げる。

「あの〜」

 なんだ。

 そもそも、勇者が魔王に何の用なんだ?

 まあ、それはちょっと手前すぎる問題だった。

「どうしたの?」

 玉座に座ったまま受け答えをするのはあまりいい気がしない。

 けど、こっちも準備をしておかねばならないので、まあ仕方のないことだ。

「ちょっと、皆の都合が急に悪くなっちゃったので、俺一人なんですけど〜」

 一人?

 まあ、年に一人くらいはいるんだよな。

「一人なんですけど、いいですかね?」

 しかしまあ、せっかくここまで来てもらっているのに断るのもよろしくない。

「その、とりあえず入ってきてよ」

 僕がそう彼に伝えると、彼がそっと扉を開けて、こちらに入ってきた。

 彼は、僕より一回りも二回りも若い好青年っぽい見た目だ。

 前髪がすべて持ち上がっていて、まあ好感の持てる青年だ。

「まあ、まずは理由でも聞かせてもらおうか」

 すると、勇者は僕のところまでスタスタと小走りで来て、僕に手提げ袋みたいなのを渡してくれた。

「あの、つまらないものですけど、」

 僕はここで中身を確認してしまうのは野暮だろう、と思い袋をそのまま玉座の隣に置いて、「どうも」と言った。

「で、なんで一人なの?」

 すると、勇者はドギマギしながら「いや、その、みんな予定が合わなくて、」

 そんな、予定を合わせてくるところじゃないか。

「予定が合わないなんてことあるの?」

「いや、その、急だったもんで、」

 ちゃんと準備してから来てくれよ、本当に。

「じゃあさ、なんでこんなところに一人で来ちゃったわけ?」

 勇者は、頭を掻きながら、「いや〜」と困ったように笑うだけだ。

「それじゃさ、キミは勇者に向いてないんじゃないの?」

「いや、でも、」

「でもさ、仲間に見捨てられるくらいってことでしょ?本当に、僕に勝つつもりでここに来たの?」

 勇者は、口をモゴモゴとさせていた。

「いや、その、」

「本当ね、ここまでも運が良かっただけなんじゃないの?ねえ?仲間にも見捨てられてさ〜」

 すると、勇者は自分の着用していた鎧を一つずつ脱ぎ始めた。

 といっても、そんなに着けてないけどね。

 チェストプレートとレギンスと、あとすね当てみたいなやつくらいだ。

 そして、床に正座して、「すいませんでした!!」と頭を床にこすりつけ、必死で謝りだした。

「そのさ〜、こっちの時間をとらせてるんだから、謝って済むと思っているわけ?」

 もちろん、僕は普段はそんなこと思ってないからね。あの、本当に。

 だってさ、普通に「俺の時間返せよ」っていう奴のことは嫌いじゃん。

 こっちだってそっちのために時間を使ってるのは一緒だし、それって明らかにこっちを見下しているからこその発言だからさ。それに、自分の時間だけ特別と思ってるのはおかしいよね。その、「他人の時間って大切だよね」っていうのはそうだと思うんだけど、それなら叱るときに「俺の時間を返せ」っていうのは矛盾してると思うんだよ。

 だって、その、怒ってる本人にとっては「自分の時間」ってことになるじゃん。どちらかというと、こっち側がその叱っている人(他人)の時間を無駄にしちゃってることになるじゃん。

 あれ、これって矛盾してね?ってなるわけよ。論理として、破綻してるの。その、「叱ることは時間の無駄ではない」と言われたら、それはそうかもしれないけど、でも叱り方にも問題があるじゃん。それで、長々と叱るならそれは時間の無駄だしね。その、一言「人の時間なんだから大切にしようよ」って言うだけなら、いいんだけど。

 それにさ、返せるわけないじゃん。それだけでも理不尽だよね。そのさ、そう言われてもこっちは「そんなのは、自己満足じゃん」って思うじゃん。簡単に言いたいことをまとめると、「一生許さない」ってことだよね。そんなの、人間としておかしいよ。時間を無駄にされたくらいでさ〜。

 だからまあ、やっぱこんな上司がいるところでは働きたくないよね。それに、年齢の問題で言ったら、明らかに上司側(自分より年齢が上)の人の時間の方が大切じゃないし。

 言うべきは「自分の時間を無駄にすることになるから、気をつけろよ」ってことじゃん。あと変化球というか、その二タイプがいると思うんだけど、「みんなの時間を無駄にしたんだよ」って怒る人。

 ・・・・・。

 え?

 あ、長いかな?

 もしかして、皆の時間を無駄にしちゃった感じ?

 ごめんちゃい。

 戻るから、許してぴょん。

「その、そんなつもりはなかったんですけど、」 

 勇者は、土下座の状態から頭だけを上げてこちらを見ている。

「そのさ、とりあえずこのお土産返すから、」

 僕は玉座を立ち上がり、お土産を勇者に返しに行こうとしたんだけど、すると突然勇者が「あ、いや、それは全然あとでもいいので食べてもらえると」とこちらに近寄ってきた。

「いやいや、せっかく来てもらったのに申し訳ないよ、」

「いや、こっちこそ、魔王様に申し訳ないなって思ったんですよ」

 僕よりも十センチくらい小さい彼が、下の方から手提げ袋を僕の方に押し付けてくる。

「でもね、キミにだってやむを得ない事情があるじゃないの」

「いや、さっきそんなこと言ってませんでしたよね?」

「そんなことないよ、ねえ?」

 ピ、ピ、ピ、ピ、

 あれ、何の音? 

 すると、勇者が大きくジャンプして僕から離れた。

 そして、先程脱ぎ捨てた鎧を着始めている。

「お〜い、どうしたんだよ?」

 僕は、そのお土産を持って勇者に近づいた。

 すると、勇者が僕にどこから取り出したのかわからないけど、先程まで持っていなかったはずの剣を取り出し、こちらに剣先を向けてきた。

「ちょっと、そんなの酷いよ。ねえ、これ返すから、」

 ピピピピピピピp

 ドガーン

「え、なにこれ?あ、口に入った!っぺ、っぺ、ゴホッゴホッゴホッ、」

 いつの間にか、僕の目の前にいたはずの勇者が跡形もなく消えていた。そして、お土産の袋も同じように跡形もなく消えていた。

「おい!!おい、おい!!あいつはどうなった?」

 ものすごい怒号が聞こえてくる。

 それに続くドタドタと騒がしい足音。

「おい!!お前なのか!!」

 その声と同時に、扉がバンッと勢い良く開かれる。

 そこには、剣を持ったガタイの良い男と、ショックで口を両手で覆っている女と、膝から崩れ落ちているドワーフみたいな男がいた。

「おい!お前が魔王なのか?!!」

 ものすごい剣幕だ。ガタイのいい男が大声をあげている。

「え、いや、・・・その、そうですけど、」

 そして、部屋全体を見回したあと、僕のことを睨みつけてくる。

「お前が、勇者を殺したのか!!!」

「え?」

 僕の中で、なんとなく状況が整理された。

 あ、なるほど。

 つい、爆発の隙に勇者に逃げられたのかなって思ったんだけど、違うんだね。

「おい!!俺は、お前のことを一生許さない!!!よくも、よくも」

「いや、ちょっと待ってくれよ!!僕、僕はただお土産を返そうと思ってさ、」

「お土産くらい、受け取れや!!!!」

 それは、ごもっとも。

「返してよ!!私たちの仲間を返してよ!!!」

 魔法使いっぽい女が叫ぶ。

 返せないって。

「いや、僕、そんなつもりじゃなくて、でも、」

「返してよ!!返してよ!!!返しなさいよっっっ!!!」

「でも、・・・でも、そんなつもりじゃなくて」

 ドワーフっぽい男も、こちらを睨みつけてから「俺達は、お前を絶対に許さない!!」と低い声で言い切った。

 そして、三人はそれぞれ思い思いに悲しみを噛み締めながらトボトボと帰っていった。

 ガタイのいい男が城の入口の目の前で「クソーーっ!!!!!!」と叫んでいるのが聞こえてきた。

 僕はただ玉座に取り残されて。

 ・・・・・ 

 みんな、来てくれてるじゃん。

 よかったな。

 僕は、顔を上げて、空を見上げた。

 星が輝いている。

また見てね

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