世界でひとり、君の涙を覚えている
第五章 世界でひとり、君の涙を覚えている
愁は決断する。「瑠璃の苦しみ」を消すことこそが、今の自分にできる最後の「愛のカタチ」だと。ピンセットを使い、丁寧に「キオクの結晶」を取り出し、遮光性の高いガラス瓶に入れていく。『コトン』最後まで丁寧に取り出すと、瑠璃は安らかな眠りについた。
「あれ、私、なんで、、、なにか辛くて死にたいって思っていたはずなのに、、、原因がわかんない」
パチッと目を開く瑠璃は尻尾を追いかける無邪気な犬のような表情をしていた。
「おめでとうございます。あなたは救われました。とてもとてもつらいことから解放されましたよ」
瑠璃に話しかけると同時に、ストロベリーローズの紅茶を差し出す。
「何かあったのだけはわかります。あなたの近くにいると救われるのかしら」
クスクスと笑う瑠璃にどうしても、どうしても勝手に抜き去ってしまったときに戻りたいと思ってしまう。
「おかえりください。あなたは救われた。この場所にいるとまた辛いことになってしまうかもしれません」
「お代は結構です。あなたの近くにいると、僕の気持ちも軽くなったので」
これ以上、瑠璃の近くにいるのが辛くて、悲しくて、もう一度傷つけてしまう気がして。
瑠璃の背中を見届け、やっと大きな木製の扉を閉めることができたのだった。
数日後、、、気分転換のために、街のカフェでストロベリーローズの紅茶を一口飲んで窓の外の景色を眺めていると、友達と一緒に歩く瑠璃の姿があった。以前のボロボロだった姿が嘘のように、健康で、穏やかで、心から幸せそうな笑顔。瑠璃と一瞬目があった。しかし、瑠璃は「見知らぬ一般人」を見る目で軽く会釈をして通り過ぎていく。愁は、切なさに胸を締め付けられながらも、確信する。
「忘れて手に入る幸福は、確かに正義だ。でも、君が忘れたあの美しくて痛い日々は、僕が死ぬまで全部覚えておく。それも含めて、僕の人生だ」
最後に一口飲んだ紅茶は、あの時と違う味がした気がした。愁は涙を拭い、また誰かの痛みを救うために静かに店に戻っていく。
終




