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Ep.4

「つまるところ、あなたは何を言いたいのですか?」


私の問いかけに、クリスは唇を噛み、血がにじむほど強く噛みしめながらも言葉を吐き出す。


「私はこの世界に選ばれた存在。どんなことだって、この力があれば思いのまま。素敵な王子様に見初められて、お姫様にだってなれるはずだったのに……!」


その瞳に浮かぶのは、狂おしいまでの執着。


「それなのに、それなのに……あなたが、全部をぶち壊したの!」


瞬間、青白い雷がクリスの掌から迸った。空気が焦げつく匂いが広がり、魔力の奔流が空間そのものを震わせる。


「……戦うつもりですか?」私は問いかける。


返ってきたのは、悲鳴のような叫びだった。


「返してよ! あなたは私と違って全部あったじゃない! お貴族様に生まれて、きれいな服着て、わがまま言ってもみんながそれを肯定してくれる……! 私が欲しかったもの、全部持ってたじゃない!」


私の手が自然と腰のカルヴァロスに伸びる。

柄を握り、鞘から抜き放つと、赤黒の剣身が低く唸るように震えた。


「……およしなさい。あなたでは、私には勝てませんわ」


私は静かに剣を構える。


「私には……この力しか、先見の力しかないのに……!」

「返して! 全部、返してよ!」


クリスが叫ぶと同時に、彼女の魔力が爆発した。

青白い稲光が遺跡の闇を切り裂き、轟音と共に空間を震わせる。


――彼女は本気だ。

私を倒さなければ、自分の未来が戻らないと信じている。


「モブくん、下がってなさい」


私は深く息を吸い、カルヴァロスを握り直した。

もう後戻りはできない。


青白い閃光が地を這った。

クリスの掌から放たれた多数の雷が、蛇のように唸りながら私へと迫る。


「――!」


私は身を翻し、足さばきをぎりぎりまで研ぎ澄ませる。髪の毛が焦げるほどの距離を雷が掠めていく。ほとんど紙一重。だが――正面から迫る一本だけは、避けきれない。


私はカルヴァロスを振り抜いた。


赤黒き剣が唸りを上げると、雷は剣身に触れた瞬間、霧散した。光の筋は弾かれ、空気中に散り、跡形も残らない。


……そう。カルヴァロスには魔法は通じない。


驚愕に目を見開くクリス。

「ど、どうして……どうして当たらないの!?」


彼女の声は悲鳴に近かった。


私は大地を強く蹴り込む。石床がひび割れるほどの踏み込み。さらに速度を上げ、一気に距離を詰める。


目の前に迫るクリスの顔。恐怖と困惑に歪んでいた。


「女のヒステリーは――見苦しいですわよ」


私は冷たく言い放ち、唇の端をわずかに吊り上げる。

「ごめんあそばせ……!」


カルヴァロスが横薙ぎに閃いた。


轟音。衝撃。


クリスの身体は、まるで人形のように宙を舞い、一直線に後方のプレインズドーンへと叩きつけられた。


鏡面に背中からぶつかった瞬間、水面に石を投げ入れたかのように波紋が広がった。だが、装置そのものには傷ひとつ付かない。ただ、冷たい輝きを湛えたままだ。


クリスは地面にずるずると崩れ落ち、そのまま動かなくなった。



静寂が戻った。

重苦しい空気の中、倒れ伏すクリスを見下ろす。


「……殺しちゃったの?」モブロックの声がかすかに震える。


「手加減できませんでしたわ」私は剣を下ろしながら答える。胸の奥が冷たく重くなる。


そのときだった。


クリスの身体が、ふっと温かな光に包まれた。次の瞬間、彼女の指にはめられていた指輪が――パンッ、と小さな破裂音を立てて砕け散った。


「げほっ……げほっ……!」

クリスが咳き込みながら息を吹き返す。


「……やはり持っていたのね」私は低く呟く。

守護の指輪――致命傷を一度だけ防ぐ、希少な魔具。


モブロックが胸を撫で下ろし、安堵の表情を浮かべる。


しかし安堵も束の間だった。


ドクン。


背筋に冷たいものが走る。

プレインズドーンの鏡面が、まるで心臓の鼓動のように脈打ったのだ。淡い光が広がり、やがて眩い輝きへと変わっていく。


「な、なんだ……!?」モブロックが驚愕の声を上げる。

「プレインズドーンが……!」私も目を見張った。


「きゃああああっ!」

クリスが悲鳴を上げ、頭を抱えて激しく首を振る。


その身体へと、プレインズドーンから放たれた光が吸い込まれるように流れ込んでいくのが見えた。


「やめて……! あなた誰なの、私に入ってこないで!」


クリスは意味不明な言葉を叫び、次いで何かをぶつぶつと呟き始める。内容は聞き取れないが、確かに何者かと交わしているような声色だった。


やがて、光も脈動も収まり、遺跡には再び静けさが訪れた。


「……成功だ」


クリスが、まるで別人のような調子でそう呟いた。


私は凍りつく。何が起こったの……?


彼女はゆっくりと立ち上がると、顔を上げ、私を見た。


「リリアナ?」


名前を呼ばれ、思わず背筋が強張る。


次に彼女の視線はモブロックに向いた。

「……キミは、誰だ?」


その声音、その雰囲気――先ほどまでのクリスとは明らかに違っていた。


「……私はリリアナ・フォン・エーデルハルト。あなたは、クリスではないのですか?」


問いかけると、彼女はにやりと笑った。

「ああ、そういうことか。なるほど、なるほど」


ひとりで納得するように頷いたあと、まっすぐこちらを見据え、言い放った。


「私は――白淵うつろ。この世界、“彼方の聖女”のシナリオライターだ」


遺跡の空気が、さらに重く、冷たく変わった。



「白淵……って、この世界のシナリオライターって……まさか本人!?」


モブロックの声が裏返る。驚愕と混乱が入り交じっていた。

私も同じだ。名を告げた瞬間から、全身の警戒心が跳ね上がっている。カルヴァロスを握る手に、自然と力がこもった。


モブロックもまた身構え、私と並んで彼女――いや、白淵うつろと名乗ったクリスを睨みつけていた。


「ぼ、僕たちをこっちの世界に送ったのは……あなたなんですか? どうしてこんなことを? いや、それよりも、どうしてそんな魔法みたいなことができたんですか!?」


モブロックの言葉は矢のように矢継ぎ早に飛ぶ。彼の混乱は当然だ。

私も答えを求めていた。――だが同時に、軽々しく聞くべきではないという直感も胸の奥で警鐘を鳴らしていた。


白淵はそんな私たちを見て、静かに微笑んだ。

「まあまあ、落ち着いて」


その声音には、不思議な落ち着きと威圧感があった。


「そうね……あなたたちがここまで辿り着いたのなら、すべて話すべきだろうね」


そう言って、彼女はわずかに視線を遠くに投げる。

その顔はクリスのもののはずなのに、まるで別人のように見えた。


「――私はもともと、この世界で生きていた人間だった」



「当時、この世界で暮らしていた私は、ある災害に巻き込まれた」


そう言って彼女は、遠い記憶を掘り起こすように視線を落とした。


「昏人――黒い影の化け物どもの大量発生よ。私を守るために、大切な人たちがたくさん犠牲になった。私も死にかけたけれど、このプレインズドーンの力を使って、この世界から君たちが暮らしていた世界……地球の日本に転生した」

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