EP12:二人の再会:現在
「報告にあった真紅の獣……あれですね?」
リセが指差した先、瓦礫の城壁の向こうで、黒い靄が赤く染まりゆらいでいた。
炎のような輪郭を持ち、闇そのもののようにうごめくそれが、こちらを見つめている。
「……矢を構えます」
「待て。様子が……変だ」
馬から下りたリセが、一歩近づく。
風が吹く。赤い光が揺れ、何かが、彼女の頬を撫でた。
目が合う。
真紅の獣と、リセの金色の瞳が。
・・・・ああ、こんな目を、知っている……
「……カ……」
言葉を発しようとした瞬間、獣は、ふっと姿を消した。
・・・今の……気のせい?
その場にはリセの矢の羽根がひらりと落ちて、焼け焦げていく。
ただ焔の残り香だけが、ゆらりと空気を歪めながら留まっていた。
かつて何度もその熱に焼かれ、逃れ、そして向き合ってきたはずだった。
けれど今、リセの心に広がったのは――恐れではなかった。
わななくリセの唇が、乾いた風にさらされる。
手のひらで頬をなぞる。
そこには、ほんの一滴の――涙。
「……やっぱり……あなたなの?」
風が答えることはない。
けれど、確かにあの獣の瞳は、彼女を見ていた。誰よりも深く、哀しみに満ちたまなざしで。
隣に立っていた青年が静かに口を開いた。
「あなたの……知り合いですか?」
リセはしばらく黙っていたが、やがて首を横に振った。
「……わからない。でも、わかる気がしたの。懐かしい、あの光の奥に」
青年は何かを察したようにそれ以上は問わなかった。代わりに、焔の消えた先を見つめながら言う。
「もしそれが“誰か”なら……きっと、待っている。あなたの言葉を」
リセは小さく頷いた。
「ううん、私が……ずっと言えずにいた言葉を、あの人に届けなきゃいけないの」
腰に下げた矢筒にそっと手を触れる。
それはもう、憎しみを射るためのものではない。
ーー願いを届けるための、矢。
「行こう」
声は凛と響いた。
もう少女ではない。
けれど、かつての少女が灯した金色の光は、確かにそこに在った。
沈みゆく太陽の背に、リセの影が長く伸びる。
追いすがる闇を払いながら、それでも彼女は前へ歩き出す。
たったひとつの真実を、伝えるために。
そして願うのだ。
――もう一度あのときのように
ただ二人でいられる時が訪れることを願って




