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回避出来た令嬢は?  作者: 明月 えま
第1章・新しい生活の始まり
9/63

彼女の不安と束縛と

今回まで、暗めです。

リオンは6月に入ってから、仕事をセーブして夕飯の時間には帰るようにしている。来週は結婚式と披露パーティーをする事にしており、レイローズとの時間を取るようにしているからだ。


元々、1日に3時間程度、浅くしか寝ていなかったが、レイローズと寝室を共にする様になって、4時間半から5時間くらいは眠れるようになった。それも、時折、深く眠っている時があり、自分でも驚く。


今までは、夜半に小雨が降り出した程度でも

、地面が濡れ始めるくらいの微妙な空気の変化ですぐに覚醒していた為、ザァザァと雨が降る中、目が覚めるなど考えられず、始めて雨の中で目が覚めた時は、ゾッとして周囲に変化が無いか確認したのだった。

大雨の中でも、レイローズがすぅすぅと気持ち良さそうに、眠っているのを見て、安心しながら、自分の緊張感がすっかり解けてしまっている事を実感した。

あまり眠らなくとも頭は働く。が、胃がついて行ってなかった。常に胃がムカムカするため、食欲は無く、本当に、栄養を摂取する為だけに食事をしていた。

今は、眠るようになったからか、胃の不調がない。食事も、レイローズが心配するから、摂るようになった。


いつも通り屋敷に戻り、夕飯を共にするが、何だか彼女の様子がおかしい。

表面上、にこやかに話しているが、何かを我慢しているような。


先週でほとんど式の用意もできている為、今週はゆっくりして、休むようにと配慮したのが悪かったか。何か思い出したか、悪い事を考えついたか。一体、何が原因なのだろう。


ずっと。考える暇を与えない方がよかったのだろうか?

まあ、食事の席では、メイドもいるし、後から確認するほかあるまい。


レイローズには、夕食後、寝る準備まで済ませて自分の部屋に来るように伝える。


レイローズが就寝準備の為、部屋に戻ったのを確認し、メイドと執事にレイローズの様子を確認する。


午後からは自室からほとんど出ていないらしく、今までの疲れも溜まって休んでいるものと思っていたとの事。使用人との対応も普通だったと。


全く。抱え込んでしまう性格は、相変わらずのようだ。


屋敷の運営に関する報告を聞き、明日の日程確認後に部屋に戻る。レイローズはまだ来ていない。

シャワーを浴びた為、髪から水滴が滴る。風魔法で水をタオルに飛ばす。

黙って待つのも手持ち無沙汰で、隣国との貿易統計を眺めながら待つ。


しかし。

なかなか、来ない。

女の準備は色々と時間がかかるものとは解っているが。これは、わざとゆっくりしてるな。自分から行くか。


お互いの部屋の中間にある寝室を抜けて、レイローズの部屋に行くと、暗い窓の外を眺めているレイローズがいる。自分が入って来たというのに、気付く様子も無い。


「今度は、何を悩んでいるのです?」

後ろから声をかけられて、ビクッと肩が揺れる。そのまま、背後から抱き込む。

「何も」

「何も?」

「ええ。」

「じゃあ、おいで。」

レイローズを寝室に連れて行く。

彼女の部屋は、メイドが入って来るから、ゆっくり話せない。

寝室のベッドサイドに座り、彼女を膝に乗せる。ほんのりとした間接照明の下、水色の髪がサラリと流れる。


「貴女は、感情の起伏が顔に出やすい。それから、知っていますか?貴女の髪色は青に魔力の銀が入っている。だから、水色のように見えるが、本質は深い青だ。貴女は自然と、緊張状態の時に自分を守ろうと魔力を抑え込む。そうすると、魔力の輝きが失われた水色になる。ストレスが無い状態では、同じ様な水色の髪に見えても、本質の青に魔力の銀が混じった美しい青銀だ。」

レイローズが戸惑いを隠す事なく、私を見る。

「我慢し過ぎて自分でも気がついていない事が多いでしょう?昨日迄と違い、貴女はやたら自分を押さえてこんでいる。何が、貴女を不安にさせているんです?私には、言えませんか?」

「そういう、訳では。」

「私達は、書面の上では既に夫婦になった。それなのに、私は貴女が悩みを打ち明けられない程度の存在なんでしょうか?」

「違うわ。ただ…」

「ただ?」

「…私が臆病なだけ。」

「私は、貴女の全てを全力で守り、貴女1人だけを生涯愛すと誓ったはずだ。どんな些細な事でも、教えてくれませんか?何かを思い出した?それとも、何か嫌な事があった?何か、気がついてしまった?」


レイローズが苦笑する。


「貴方には、敵わないわ。…私、とても酷いことを貴方に質問してもいいかしら?」


そんな、とても辛そうな笑顔なんて、見たくないのだが。すがりついて泣いてくれた方が。余程いい。


「構いませんよ。貴女が知りたい事は何でしょう。」

「貴方は、前世は、本当に、亡くなったの?」

「…?それは、一体、どういう意味ですか?前に、胸が苦しくなってからの記憶が無いと話しましたね。私は、以前の記憶を思い出してから、ここに存在していましたが?」

「ええ。聞いたわ。だから、きっと、私の考え過ぎなの。」

考え過ぎ?一体、何が不安なのか。


「考え過ぎとは?」

「ねえ。私は、事故の状況からして、絶対に死んだわ。でも、貴方は?…貴方は、本当に死んでここに転生しているのかしら。貴方は、病気で、意識だけここに存在するという可能性は無いのかしら。もしも、もしも、そうなら。貴方は、貴方だけ、日本に戻ってしまうという可能性は無いのかしら。」

「そんな可能性が?」

「わからないわ。でも、病気の主人公が、異世界に行って、成功を収めて、病の治癒とともに日本に戻る、なんて話もよくあったわ。」

「それでは、元の身体が死んでいなかった場合、私の意識がこの世界から消えてしまう事を心配していると?」

「そうよ。馬鹿よね。こんな事、貴方に言っても困らせるだけだわ。解ってるの。ネガティブになり過ぎだと。」

「それは。確かに、記憶が無い分、適当な返事は出来ない。ただ。君は、私と離れたく無いと思ってくれていると?そういう事で、いいんだね。」

「そうね。私、去年までは、1人でも平気だったわ。でも、今は駄目なの。貴方に甘えて依存してしまっているのがわかってる。今までは1人でも平気だったのに。ふと思いついてしまうと、まるで、また、破滅に向かっているような気持ちがして。貴方がいなくなったら。もし、貴方が私を忘れてしまったら、私は、どう、生きて行けばいいのかしら。」


そう言って、黙り込む。


「なるほど。私は、貴女がこの短期間にそこまで私に心を許してくれるとは思ってもいなかったので、貴女が苦しんでいるにも関わらず、内心、嬉しく思います。さて。私は自分に出来る、1番の方法を貴女に提示したい。そうですね…」

時の旅人を調べている時に、ある魔術の記載が王立図書館にあったのを思い出す。

禁書欄にあるものだ。魂結び、と呼ばれるその術は、その昔、異世界から来た者と、この世界の者が婚姻を結んだ時、必ず使用される術でもあった。術は、異世界から来た時の旅人をこの世界に留めるための枷でもあった。

魔術様式は描いてあったが。詳しくは読んでいない。

それに、現在は禁術となったその魔術は、とても高位の魔術師でないと、魔法陣を立ち上げる事すら出来ない。

禁術は写して持ち出すとして。

魔導師だ。心当たりはある。彼が、協力してくれるかは、わからないが。


禁術となったのは、50年程前に、高位貴族の男性が王家の姫に懸想した事から始まる。

よい友人の振りをして、姫を誘拐した彼は、同意も無く強引に魂結びの術をかけさせた。

姫には、愛する者が他にいたという。余りにも強い魔術に蝕まれ、愛していた者との、愛する記憶を徐々に取りこぼすうち、姫はとうとう、精神を病んでしまう。

愛してもいない者と魂が連動し、愛しているように錯覚する。

魔力の高い姫は、最後、錯乱し、自らの魂を壊す事で術を解いた。

一方通行の術なのだ。どれだけ手を尽くそうにも、周囲の者はじめ、術をかけた魔術師さえ解術できなかった事が、愛してもいない者と離れる事の出来ない運命を呪い、悲観し、最悪の結末を迎えた。

貴族家の男性は処刑となり、直系の家族も牢に入れられ、病死している。家も取り潰された。一族の遠縁の者は、処刑や投獄を免がれる代わりに、子孫を残すことを禁じられた。その最期の親族も、数年前にこの世を去った。


もちろん、表面立って問題になって記録となっているのはその一件のみ。

その前に結ばれた、時の旅人とこの世界の者との婚姻後に魔術が使われた後、その者達が幸せに暮らしたかどうかの記録は無い。


人の気持ちは変わる事がある。一度結ぶと、どちらかが壊れてその存在が消滅するまで、まるで呪いのように存在する魔術だ。


そこまでを、彼女は望むのだろうか。


「もしも、貴女と私の魂を結びつけられるとしたらどうします?ただし、貴女がどんなに私から離れたくても、もう、離れる事が出来なくなる。どんなに私を嫌っても、もしかしたら、この生が終わっても、私から離れられないかもしれない。」


「…もし。もし、そんな方法があるなら、そうしてほしいわ。」


「貴女、本当に解って言っているんですか?本当に、私から逃げられなくなるんですよ。そんな、簡単に。…気持ちが弱っているからといえ、デメリットもしっかり考えないと。」

「何のデメリットがあるというの?そんな言い方…私が、貴方を嫌いになると言っているの?」

「もし、そうなっても、私はあなたを離さないでしょうね。」


そう。もし、嫌われても、きっと、この手を離す事など出来ない。処刑されたあの男のように、貴女に執着し、壊してしまうかもしれない。


「じゃあ、離さないで。」

「ローズ。」


レイローズがギュッとしがみつく。

「逃げ出したくなるのは、貴方かもしれなくてよ?」

そう言った彼女の瞳は、涙を流すまいと堪えているようだった。


「あまり過度な期待はさせたくない。出来るかどうかも分からない。もし、1%でも可能性があれば、君はそうすると?」


「もう…もう、とっくに、貴方に囚われてしまったもの。」


「そうか。ならば、式までに手を尽くそう。」

まだ、輝きを見せない髪を優しく撫でる。


「どちらが、束縛しているのかわからないわね。」

レイローズが自嘲気味に呟く。

「それで満足できるのならば、互いに束縛すれば良い。私の束縛が強過ぎて、君に愛想を尽かされないか心配している夫の気持ちというのも、考えてくれるかな?」


「今度は、自分から檻に入るのだもの。後悔なんてしないわ。」

フッと、彼女が微かに笑った。

レイローズの自信の無さから来る、依存。頼れる彼がいる事はいい事だと思うのです。まだ、レイローズはこの世界での立ち位置、自分の存在を不安に思っているから。

小心者の寂しがりなので。リオンとバランス取れて丁度いいんじゃないかなぁ。

常に強気でいるのは余程、心が強くなくてはいけないので。揺れ動きます。

次回より、リオンが解決に向けて働きます。

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