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回避出来た令嬢は?  作者: 明月 えま
第1章・新しい生活の始まり
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秘匿された魔術師

リオンの友。初登場です。

翌朝、珍しくレイローズは早めに起きてきた。やはり、ストレスで眠れないのだろう。彼女にしては、珍しい。

「おはよう。まだ、顔色が悪い。今日はゆっくりしておくんだよ。もしかしたら、今日か明日、夕方、君を呼び出すかもしれない。そのつもりでいてくれ。」

「呼び出す?何かあるの?」

「そうだね。君の気分転換をしないといけないからね。」

そう言って、誤魔化したが、実際は違う。


昨晩のうちに、禁術の確認が取れ次第、行う為の計画を考えた。


業務の合間を縫って行うのは、仕事をセーブしているとはいえ時間的に調整が難しい。だが、何とかなるだろう。今日か明日、と言ったが、今日のつもりだ。


メイドに、レイローズが疲れているから、午前中はエステもどきをフルコースでやって、昼食後は気分転換に目一杯着飾らせろと指示した。これで、とりあえず、彼女が1人で考え込む時間は減る。


いつも通りに王城に出仕し、朝議に出る。午前中はやはり、どうしても仕事に追われる。午後から、魔道具研究所に救援砲の状況を見に行くと伝達を飛ばす。空きは昼休みしかない。

昼休みになって、図書室、禁書庫に向かう。目指す物の場所は覚えている。他の古資料を見たようにみせかけ、目的の禁術資料を確認する。光魔法と闇魔法で、持ち込んだ紙に、コピーのように、転写する。見開き3ページと、枚数が少ないのも、簡単に終わった理由だ。このような魔法の使い方は、他の文明を見たことのある者しか使えないだろう。

時間が惜しい。執務室に戻ると、携帯食を食べつつ、午後の面会予定でキャンセルできるものはキャンセルし、日時の変更をかけていく。

執務課官吏のダリウスが「今度は何を思いついたんです?」と、苦笑する。


調整がついたのを確認し、すぐに王城を出る。魔道具研究所までは馬車で15分。特段、離れてはいない。


「タリス、いるか?」

職員はほとんどいない上、変人の巣窟だ。黙って目的の部屋にたどり着くと、ノックもせずに扉を開け放った。

「いるよー。リオン、急にどうした?」

顔はいいのにボサボサの髪に、元は仕立てがよかったであろうヨレヨレの服。また、数日研究所にこもり、家に帰っていないのだろう。

「行くと伝達した筈だが。」

「そりゃー、来たけど。目的書いてなかったよ。」

「最上級の結界張れ。」

「わかったよ。人使い荒いなあ。」

キイン、という音とともに、部屋に結界が張られる。

「そんなにリオンが慌ててくるって、何なの?」

「表向きは救援砲の制作状況の確認。」

「なるほど。あと、頼まれてた魔石を使った銃とかいうヤツも試作品できてるよ。試し撃ちしていく?」

「話が終わったらな。」

「何?殺気立ってて、どうした?」

タリスは学院時代の庶民出の同級生だ。過剰なまでの魔力を有していたが、魔術師ではなく、魔道具師になりたがっていた。庶民出身者が1度でも目をつけられると、王国の魔術師団の入団を断るのは不可能に近い。魔力を弱く見せかけることで、本人希望の魔道具研究所に入職できたが、学院時代、彼の弱い演技、つまり教師を誤魔化す茶番につきあったのはリオンだった。

だから、表向きにリオンは今世、希代の魔術師であり、賢者として宰相の地位に立っている。

本来なら、魔力は桁違いにタリスの方が多い。知力では、リオンだったが。

リオンだけが、彼の膨大な魔力とその魔法の才能を知っている。


「お前、この術を私と、私の妻にかけろ。」

無造作に机の上に投げ出される書類を見て、タリスの顔色が一気に蒼白になる。

「なぜだ。これは、禁術だろう。しかも、なぜ、君と奥さんにかける必要がある!!!!これは、時の旅人にかけられる術なんだぞ。」

いつものんびりとしているタリスの語気が強まる。

「もちろん知っている。そして、これは王城禁書だ。これが禁術で、その使用目的を知っているお前の血統も知っている。タリス。お前がクランチャードの庶子であり、唯一の生き残りだと言う事も。」

そう。姫に禁術を使い、処刑された一族こそがクランチャード家。

元々、高い魔力量を誇る、この国の大貴族であったもの。その、隠された末裔。

処刑された男の弟が、晩年、秘密裏に市井の娼婦に産ませた、たった一人の生き残り。

「なぜ、そのことを。」

タリスが苦しげに尋ねる。

「クランチャードの事を知ったのは、宰相になってからだ。タリス。私は、君を脅しに来たのでは無い。取り引きに来たんだ。」

「取り引き?」

怪訝な顔をされるが、まあ、無理はあるまい。

「私は、別の世界の記憶を持っている。そう、言ったらわかるだろう。」

「まさか、君自身が時の旅人だと?」

「そう言われるらしいな。腑抜けの王家はもう、その歴史自体を忘れかけているがな。」

「しかし。この術は、国につなぎ止める為の枷だ。」

「同時に、私と妻を束縛するものだ。」

「何を言っているんだ?リオン。そんな術、わざわざ使わなくても」

「やはり、君は行使出来るんだな。」

「・・・それは。出来るよ。クランチャードの者からしたら、容易い。代々、その役割を担って来た一族だからね。君が知らないだろう事も、父から、伝えられている。」

顔をしかめてタリスが答える。

「タリス。私は、別の世界の記憶があるが、別の世界で死んだ記憶が無い。この意味がわかるか?」

「すまない、混乱していて、よくわからない。」

「もし、別の世界での私が死んでいない場合、突然別の世界、というか。記憶を持っている世界に強制的に送還される可能性がゼロではない、ということだ。」

「別の世界に送還される、だって?」

「私が予想した事だが、異なる世界の記憶を持ち、高度な知識を持つ者を元の世界に送還させない仕組みが、この魂結びの魔術なのだろう。」

「時の旅人だから、君は色々な事を思いついて、ずいぶん具体的に魔道具の製作を指示出来た、と、言う事か。」

はあっ、と、タリスがため息をつく。

「私は王家に、自分が時の旅人という存在であることを申告していない。」

「そうか。」

「だから、君に頼みに来た。」

「頼み、ね。」

「学生時代からの付き合いだ。同級生の頼みだ。聞いてくれないか。」

「リオン、言葉は丁寧だけど、全然、頼む態度じゃない。王様というか…魔王様だよ、君。」

クククッと、タリスが笑う。

「そうか?」

「ああ。でも、君がその禁術を使ってでも、この世界にいたいと思う理由は噂の奥さんかい?」

「そうだ、な。」

「そんな弱点、僕に教えていいの?」

「タリスだからな。」

「過大な信頼すぎて、困るな。」

「困っているのは私だ。何せ、ここ50年で魔術師の力量は大きく下がった。この術を使えるような人間は、今、君しかいないだろう。君に断られたら最後、私には手立てが無い。」

「多分ね。」

タリスが天井を見上げる。かすかにため息をつく。

「腐れ縁ってやつ?」

「何でもかわまん。」

「そういう人だよねえ、君。・・・いいよ。僕が君と、その奥さんに術をかけてあげる。それで、いつするの?」

「今日の夜に、また来よう。」

「えらく早いな。」

「早く終わらせたい。」

「なあ、奥さんは本当に術を理解して、受け入れているのか?」

タリスが真剣に尋ねて来る。


「わかっているだろう。どちらかというと、今は彼女の方が希望している。正直、束縛しすぎるようで、私自身は躊躇するぐらいだ。」

「へえ。」

「私も、君の伯父上と一緒だよ。今、彼女が望んで術を受けたとして、心変わりされた時に、彼女を離してやれる気がしない。私が、彼女を壊すのかもしれないな。」

「・・・大丈夫じゃないのか。あれは、元々の意志をねじ曲げた結果だった。時の旅人で、相思相愛で結ばれた者で、心変わりした者はいないと聞いている。」

「ならば、いいのだがな。」

「むしろ、術の影響で骨抜きになんかなるなよ。女とベタベタしているお前を見るのなんて気持ち悪いからな。」

「言うじゃないか。」

「そりゃあね。言っておくが、僕は取引に応じるんじゃない。友の相談に乗っただけだ。君も、友からの忠告は受け取っておくものだよ。」

「ああ。ありがとう。」



「そうそう。銃!銃だった!試作品できたんだよ。見てくれ、そして、実験室で試し打ちしてくれ。自信作なんだ。面白かったんだよ。」

ぽんと手を打つと、ニコニコして話す。やっぱり研究馬鹿だ。

「そうか。」

黒の銃身に、金の装飾がついた銃を受け取る。

この世界に銃は無い。だから、護身用に作らせた。これならば、魔力の発動を感じさせず発砲し、相手にダメージを与えられる。弾は、魔力を込めた魔石になっている。

「もう、結界いいだろ?」と、タリスが言って結界が消える。

隣室の完全魔防の実験室で試し打ちをする。精度もよい。軽くて扱いやすい。

「上出来だな。」

「だろー。もっとほめてくれていいよ。で、これ、もっと小型化する?これ、試作品だから、もう一回りかもう二回りか小さく出来ると思うんだけどね。」

「ああ。内ポケットに入れられるぐらいになると扱いやすいんだがな。」

「りょうかーい。」

「これはそのまま、持って行ってもいいか?」

「いいよ。これ弾ね。」

小袋にザラザラと入った弾丸を渡される。丸くて、前世のオモチャの銃弾のようだが、威力は強い。


「あ。あと、これ、騎士団用の救援砲。筒を上に向けて、紐引っ張るだけ。どうよ?」

魔法が使えない騎士が救援を呼ぶために上空に合図を送る為の魔法弾を頼んでいたのだ。

「ああ。簡単でいいな。」

「原理簡単だから、量産できるよ。」

「今、いくつ作った?」

「とりあえず、10個」

「騎士団に使わせてみよう。量産はそれからだ。」

「わかった。」

「じゃあ、また、夜に来る。」

「ん。またな。」

タリスがヒラヒラと手を振る。


試作の救援砲を持って、急ぎ、王城に帰城したのだった。

気がつくと、ブックマーク500越えてました。読んで頂いて、本当にありがとうございます。

励みになります。

明日も更新します(・∀・)

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