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回避出来た令嬢は?  作者: 明月 えま
第3章・南国リレイラ編
42/63

リレイラの瓦解

無い頭を振り絞って。この1話に4時間以上かかりました。

南国の抜けるような青空と白い雲。そして熱気。


その熱気とは裏腹に、王城内は恐怖と困惑に包まれ騒然としていた。


王の乱心。


その事実は、文官より伝達され、あっという間に部族を通して民衆にまで広まった。

商館での異常さが、商館へ出入りしている商人からあっという間に市場に伝わり、市場までが騒然となった。


もともと、リレイラは3つの部族が点在する漁村から始まった。港に近い海の部族が裕福であり、山の部族は小さい島の山地で農業を行っていた。裏海の部族は、表の港の反対に部落を構えていたが、風と波が強く当たる地域で暮らしぶりは貧しかった。そんな中、山の部族が勢いづいた。山から出る湧き水を確保し、部族の中でも立場を強固にして60年ほど前に王を名乗った。王を名乗っても所詮、小島の王であった。だが、勢いに乗った貪欲さで、南方から東大陸の国々や帝国へ打診し、東大陸、西大陸の中継ぎの港として国力を増してゆく。


目に見えて国力を増したのは30年ほど前から。貿易船に供給する圧倒的な水量を確保してからだった。航海中の真水の確保は貴重だ。リレイラの水質は非常によく、長旅でも驚くほどの鮮度を保った。水とて、水質が悪ければ腐るのである。リレイラが繁栄するのは必然でもあった。


リレイラは更に富を求めた。ロイメールに港の使用権を確約する代わりに新しい桟橋を整備するための技術者を派遣させ、その莫大な費用の8割をロイメールから貸りうけた。船の寄港も7割がロイメールだ。

新しい桟橋が出来さらに国は発展した。王の威厳はさらに高まった。


その上昇機運の中の突然の王の乱心。


ロイメール側からの伝達を受け、3部族の代表はすぐに集結したものの、会議は荒れに荒れた。

今まで60年。山の部族の配下として生活するのに慣れきってしまっていたのだ。


現王が絶対的な強権を持っていたことも、海・裏海2つの部族の発言権を奪っていた要因である。しかし、今回の王の乱心によって、山の部族の権威は地に落ちた。そのため集まっても議論にならず、喧嘩のような言い合いにしかならなかった。


約束の午後1時がやってくる。

王は乱心したまま。

王妃まで顔色不良で、娘の王女に至っては、昨日昏倒して目を醒ましたと思ったら、独語が続き、会話にならないのである。


喧嘩を繰り広げる部族の者と、現王族3人。

文官達は腹をくくり、これらのすべてを何とか説得して商館へ移動させた。


ようやく、王をなだめて再度商館へ移動させた時は、時間ギリギリだった。


ロイメールが来る。


終わりの始まりを見ていると、文官達は絶望していた。


見目の麗しい若い宰相リオン・グラートとリレイラを担当する補佐ルークスタッド・ベゼル。

自分達の王とはかけ離れていた。


元々、リレイラ王はとても強権的であった。

気に入らない者はすぐに処分される。それが当然であると思って生きてきた。

皆、裏で文句を言いながらも逆らえなかった。王が力を持って強硬に推し進めればなんとかなる、そんな時代は終わったのだ。

部族同士の言い争いは絶える事無く続いている。


扉が開いて、リオンが入って来た時、部屋の温度が下がったような気がした。


一瞬で静まり返る会議室。


「交渉を始めよう。」

リオンが、放ったその言葉に、誰もが何も言えずにいた。


「それでは、朝に続いて、私が進めさせていただきます。王族もいらっしゃるようですが、それぞれの部族の代表の方は?」

ルークスタッドから尋ねられているのに、誰一人声が出ない。


その時、一人の文官が進み出た。

「リレイラの文官で、ラオと申します。僭越ながら、部族代表の紹介をさせていただきます。こちらが、海の部族代表、タオ様。山の部族代表は、現王の叔父にあたられるカロ様。裏海の部族代表は、トア様となります。」

若干、声が震えているが、この場で発言する度量があった。


「それでは、ラオ殿。リレイラ側の交渉補佐をお願い致します。」

ラオを見たルークスタッドの表情は変わらず、口調は静かで、誰もが、ただ頷くのみであった。


「我が国からは、昨日の要求通り、港湾使用料を半分に減額する事、および全ての関税の撤廃を求める。」

それに、答えうる人間が誰もいない。


静かな会議室に、気の触れた王女の独語が響く。


異様だ。


リオンが口を開く。

「王族がこれでは、部族の中から代表を出し、誰かが発言せねば交渉にもなるまい。ラオ殿。君は何の部族の出身だ?」


「裏海の部族でございます。」

ラオが、恐縮しながら答える。


「3人の部族長は、意見はないのか?」

そう尋ねられるが、まるで蛇ににらまれた蛙だ。

皆、押し黙ったように声を出さない。


「では、ラオ殿。君に尋ねよう。我が国の提案。どう考える。」


「はい。一見、リレイラには無理難題とも思えますが、港湾整備の為の資金の返済をある程度免除くださると確約していただけますならば、我が国にとっても悪い話ではないと思われます。」

緊張でラオの声は若干上ずっているが、静かな室内によく響いた。


「では、どの程度の免除を要求する?」

「港湾使用料を半額にとの事ですので。現在の使用料、使用率を考えまして、4割は免除していただきたい。」


「なるほど。君は優秀な文官だな。」

リオンの言葉は淡々としている。


「さて。部族の方々、お1人づつ、ご意見をお願いしたいのですが。」

ルークスタッドの言葉に、それでも、誰も発言しない。いや、できないのか。


その時、

「許さぬ・・・。」

そう言って、リレイラ王が立ち上がった。


「私の国だ。すべては、私の物だ・・・。」

立ち上がった王が剣を抜き、他の部族の者へ切りかかる。その目は狂気に溢れている。


何が起ころうとしているのか。脳の処理が間に合わないのだろう。皆、目の前で剣を振り上げる王を信じられないような目で見ていた。


ガキッ。


振り下ろされたその瞬間、ルークスタッドの剣がその剣を止め、王の剣がパラリと刃こぼれする。

そのまま流れるような動作で振り払われ、床に倒れた王が昏倒する。


一瞬の出来事の後、ハッと、我に返る部族長達。

声を絞り出すように、裏海の部族長が言った。

「リレイラは、王は、すでに終わっている。もとは部族の寄せ集まりにすぎん。これ以上大きくなるものを治める能力のあるものはおるまい。ラオは優秀だが、文官だ。」


「その言い方・・・。彼が文官で何が悪いのかわかりませんね。少なくとも、何の発言もできなかったあなたたちよりも優秀だ。」


「・・・そうだ。」

ルークスタッドの指摘に、裏海の部族長がやっとのように答える。


「昨年、我が国の6月の夜会で貴国の岸壁に咲いていたつる草の成分が会場で使用され、多くの者が昏倒した。リレイラでは王城裏手にのみ自生し、厳しく管理されていた事。王族専用の滋養強壮薬のように使われていたのを把握している。なまじ王族専用であったため我が国も原因の確定まで時間がかかりました。我々は、貴国の者が我が国の貴族、王族を害しようとしたと考えています。さらに昨週、宰相の奥方を誘拐しようとした者がいる。その者を泳がせたら、リレイラの王女付きの侍女であることがわかった。本来なら、その責も問うつもりでロイメールはわざわざ宰相を派遣した。残念ながら生き証人の犯人の女は王城で殺害されているのを確認している。そして、その命令を下した王女がこのザマではな。」


「そんな・・・ことが・・・。」

ルークスタッドの言葉にラオが信じられないという様子で呟く。


「部族長ら、貴殿方は時折、下賜されてその存在を知っていたはずだ。よく効く滋養強壮剤だと。」

山の部族長が蒼白になっている。


「その過度の使用の結果がこれだ。」

そう言って指し示された王族の姿に、山の部族長が震えだす・・・。


「使用頻度が高い者ほど、薬が切れると反動が激しい。もはや、元に戻すのは難しかろう。当然の報いだ。」


「死にたくない・・・。」

呟く山の部族長。


「どれだけ服用したか、その期間と量によるだろうな。切れれば、徐々に身体を蝕んでいくだろう。貴殿が死ぬほどには至るまい。」

冷たく響くルークスタッドの声。


静かにリオンが立ち上がる。

「リレイラはもはや自力での統治は不能と判断した。これより、リレイラはロイメールの属国としてロイメールの統治下に置く。しばらくはリレイラ担当であったルークスタッド・ベゼルが治める。追って、ロイメールの文官を派遣する。王族は3人とも民衆に晒し、民衆に納得させたうえで幽閉しろ。リレイラ側の暫定代表としてラオを指名する。異論あるものは名乗り出よ。」

その言葉に、誰もがリレイラ式の従属の礼を取る。


リレイラが事実上崩壊した瞬間であった。


「ラオ。16時に王城に入る。その時間に王城の人員を全員広間に集めよ。無用な説明は要らぬ。リレイラがロイメールの統治下に置かれる事、その詳しい説明と王城に勤める者の今後の処遇説明を受ける事のみを伝えよ。」

「かしこまりました。」

「次いで17時から国民に向けて説明を行い、その文書を王城前に掲示する。直接聞きたいものは王城前に17時に集まるように触れを出せ。文書は各部族にも同じものを送る。」

「わかりました。王城での部屋の使用はどうなさいますか?」


「文官室でよい。もとより、ロイメールにはここのような文化が無い。やり方が非効率だ。」

「かしこまりました。」


「暫定の仕事を行うだけで、泊まらぬ。何も食さぬ。そのつもりで、暫定政権樹立のために動け。混乱は最小限に抑えよ。」

「はい。」


「ルークスタッド。このままラオに同行し、ラオの補助をしろ。ラナス。君はここにも知り合いがいるな?」

「ああ。」

「では、ラナスも夕方までラオに同行しろ。明日の朝までに大まかな枠組みは決定する。」


「部族長3名。その方らもラオに同行しろ。ラオは最早、文官ではない。暫定政権の代表者として、君達より立場が上であることを弁えて行動しろ。お前たちが率先してラオに従う姿勢を民衆に見せろ。」

動揺しつつも、部族長達がラオに礼を取る。


「一旦、帰還する。ルーク、後は任せた。」

リオンが席を離れ、退出する。


皆、呆けたようにしている。


「さ。ラオ。私達も動きますよ。」

ルークスタッドに静かな口調で促され、ラオは我に返った。



ラオ・ダクル

小国の1文官であった彼の人生が180度変わった日。


ロイメール王国歴556年7月30日


後に自由貿易都市リレイラの立役者として名を残す彼が、表舞台に立った日であった。


穴があったら入りたくなるくらいの誤字報告をありがとうございました。久しぶりの誤字ラッシュでした。

皆様、こんなに報告されるのも、大変だったでしょう・・・。

たまたま、今日、休みでよかった。皆さまのおかげで、読みやすい文になりました。

日本人のはずなのに・・・。助詞すらまともに使えていないとは・・・。

( ゜Д゜)

本日は髪を切りに行ってまいります!

誤字、またあったら教えてください。すみません。今は、帝国編を書き進めております。

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黎明 ルークスタッドの後日談、連載中 不器用令嬢、騎士になる カイウスの恋愛話、主に嫁視点を書いてます。  こちらもよかったら読んで下さい。
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