水の精霊
しまった、やってしまった!!!
ごめん、リオン!!!
心の中で謝る。
水に包まれたと思ったのは一瞬だった。
息が!と思ったら、次の瞬間にはバシャリという音と共に知らない場所にいた。
びしょ濡れだ。まだ、外交用衣装のまま着替えてもいなかったのに。最悪。
ふと、握りこんでいたのが、ルークスタッドの上着だったことを思い出し、見ると、これまたびしょ濡れのルークスタッドが困惑を隠せずにこちらを見ている。うん。まんま、水も滴るいい男。
そっと握っていた上着を離す。はい。とっても気まずいです。
「申し訳ございません。巻き込んでしまい、面目次第もございません。」
上着を離すとすぐに傅かれてしまい、私が焦る。
「いいえ。私があなたの服をつかんでしまったのだもの。ごめんなさい。ここ、どこなのでしょうね?私が足手まといにならないといいのだけれど。」
「必ず、お守り致します。」
「立って。あの子、きっと、どこかにいるのよね。探さないと。」
「はい。」
立ち上がったルークスタッドがポケットから魔石を取り出す。
「すみません、お手を。」
そう言われて、魔石を持った手に私の手を重ねられると、ふわりと魔石から魔術が発動し、ずぶ濡れだった体や服から、水分が払われる。
すごい、何て便利。
そんな事を考えていたら、
「これはリオン様の風魔法が込められた魔石ですので。」
と言われた。
すごいな。風。
「まるで、クリスタルの洞窟と表現したらいいような場所ね。」
濃い青と薄い水色。他にも色々な青が交じり合い、青く光る洞窟内。
「この場所のせいでしょうか。全く、何も気配を感じません。風も。音もなく。」
ルークスタッドに言われてみると、確かにそうだ。
2人が黙り込んでしまうと、恐ろしいほどの静寂。
「変な場所ね。」
「どちらに参りましょう?」
えっ?私に聞くの?
「私、何も能力持っていないけれど?どうして私に訊くの?」
「主でございますので。」
ふっと笑われる。
「間違えるかもよ?」
「かまいません。」
「ちょっと待って。考える。」
この洞窟の色。水なのかな。
洞窟の壁面に手を触れる。
温かい。てっきり、冷たいのかと思ったのに。
どちらに行ったらあの子のところに行けるのだろう?そう思ったら、手をついていたところから、キラリと光る水色が動き出す。
誘導されてる?
「あの光を追うわ。」
そう言って走り出す。
が、ちょっと走っただけで、辛っ。裾は長いし、何重にもなってるし。
外交用ドレス、重っ!走りにくいったらありゃしないわ!!
さすがルークスタッド。全然息が乱れていない。
まさか、こんなところで運動する羽目になるなんて。最近、体力作りしてなかった。体力が学生の時よりさらに減ってる。うっわあ。かっこ悪い。徐々に息が上がる私を見るルークスタッド。
すみませんね。体力無くて。颯爽と走るイメージだけが先行する。
「失礼します。」
急に言われて、はい?って思った瞬間には、ルークスタッドにお姫様抱っこされていた。
ひいいいいいいいい。
ちょっ。ちょっと待って。
羞恥で死ねます。
あと。何となくリオンごめんなさい。浮気じゃないですよ。絶対に違いますよ。怒らないでくださいね。
お姫様抱っこしてからルークスタッドの走りが早くなる。・・・すみません。本当に、合わせていただいていたみたいで。
「すみません。」
小さい声で言ってみる。
「いいえ。無理をなさる必要はありません。」
走りながら言われる。
それからしばらくして
「あの。大丈夫ですか?」
と、質問してみた。
「3時間ぐらいなら、このまま走れます。」
出た。規格外。こうなれば、もう、お願いしてしまおう。私は荷物だ。うん。
体感時間で10分?15分?ぐらいで通路から、開けた場所に出た。
誘導していた光が消える。
「あちらに。」
ルークスタッドが体の向きを変えると、一角に少女が座っているのが見えた。
「降ろして。歩くわ。」
降ろされるが、
「私が先に。」
と言って、ルークスタッドが半歩先を歩く。
〖ずいぶん早かったの〗
目をとじたままの少女の口から出る言葉。やはり、異質。
「あなたは水の精霊でしょう?」
問う。私に通じる水の波動。
〖そうじゃの〗
「どうしてこの子の身体が必要なの?」
〖我が身は縛られておるからの〗
「縛られている?」
〖そうじゃ。どこにも行けぬゆえ、意識を外に飛ばすための器が欲しかったのじゃ〗
「どうして外へ意識を飛ばすの?」
〖そなたとて、ずっと一所に縛られれば、出てゆきたくなるものではないのか?〗
「そうね。でも、あなた、とても上位の精霊なのではないの?どうして縛られているの?」
〖ほほ。度胸のある小娘よの〗
「それはどうも。」
上位精霊でもなんでも、ここで引くわけにはいかないでしょう。
〖人間が我を縛り付けたというに〗
「人間が?」
〖ふむ。まだ幼き人間であり、知らぬと申すか〗
「そうね。きっと、私はあなたと比べたら生まれたてだし、この地に来るのは初めてだもの。」
〖ほう〗
「あなたが、ここに縛られた理由をお尋ねしても?」
〖調停者の力が弱まって大気中の魔力が混乱した折に、運悪く縫い付けられてしもうたのじゃ〗
「調停者って何?」
〖さてのう。人がなんと呼んでおるのかは知らぬが。人でありながら神と人の間で橋渡しをする者達じゃよ〗
「人でありながら神と人の橋渡しをする者?」
〖そうじゃの。無礼にも我を縛り上げようなど片腹痛いわ。縛り上げられはせんじゃったが、我の存在の一部が縫い付けられてしもうての。自力で外すにはあと200年というところかの。〗
「200年??長いわ」
〖じゃろう。人が我を縛ったのじゃ。人の器を使って外を眺めて何が悪い?〗
「ちょっと待ってくださいませ。それでは、あなたが自由になればこの子は返していただけますの?」
〖そうじゃのう。自由になれば、わざわざ人の器に入らずとて、我が移動すればよいだけじゃからな〗
「あなたを解放する方法は?それは私にできるかしら?」
〖わからぬのう。そなた、あまり攻撃をする者ではなかろう?解呪も出来ぬと見るが。〗
うっ・・・と返答につまる。
「私は苦手ですけれど。仲間に得意そうな方がいらっしゃいますわ。」
〖ほうほう。そうかの。じゃあ、少し待ってやってもよいぞ〗
「そうですの?」
〖一日じゃ。でないと、この器がダメになるからの。〗
「あなたをつなぎとめているものは解るの?」
〖白い呪の書かれた楔じゃな。〗
「壊せばいい?」
〖どちらでもよいがの。人間は我の力を吸い上げて利用しておるからの。楔を壊せば、この小さな島は消えるがそれでよいなら壊すとよい。〗
「島が消える?」
いや。サラッと言わないでほしい事実だわ。っていうか。本当にリレイラひどいわ。
「じゃあ、呪を解呪できたら?」
〖我が自由になるの。我からの力の流入が無くなるのが困る者もおろうが。〗
「島には影響はないのね?」
〖まあ、少なくとも地形は変わらぬじゃろうな。徐々に水源は枯渇するじゃろうが〗
「ああ。海に浮かんでとても小さな島なのに水が豊富で噴水まであったのはあなたがいたからなのね?」
〖外のことはようわからぬ〗
「わかった。やってみるわ。お願いがあるの。私達を元の場所に戻して。」
〖急にやって来て質問攻めにしたと思えば、注文の多い娘じゃの。まあよい。退屈しておったのじゃ。やってみるとよい。〗
「ありがとう。」
そう返答した瞬間に上空に放り出されたようで、急に落下する。
驚きで、声も出ない。
あ。星が見える?????
そう思った時、グイッと手を引かれ、身体を支えられる。
落下速度が緩やかになり、トンと足が付く。
「おかえりー。レイちゃん。」
タリスの声に振り返ると、とっても怒っているリオンがいた。
「た・・・。ただいま戻りました。」
ルークスタッドがスッと下がる。
「君という人は・・・。説明してもらいましょうか?」
「はい。」
「ルーク。お前もだ。」
「は。」
「ええと・・・。水の精霊に会ったわ。多分、タリスさんの言っている上位精霊だと思うの。白い呪の入った楔で動けないって。呪を解呪してくれたらあの子を返してくれるって。」
「ほお。それで?ルーク。後はお前が状況を報告しろ。」
怖い。怖いリオン。本当に怒ってる。
「は。転移させられた場所は一面が水組成と思われる洞窟でした。壁は魔石に近い組成と思われます。洞窟内は広大で道は枝分かれしておりました。レイローズ様が方向を考えられた折、何物かが光の形を取り、上位精霊の元へ誘導されました。レイローズ様が上位精霊と話された内容は先ほどの内容です。白い楔を破壊すれば島は崩壊する。呪の解除に成功すれば、島は崩壊しないが、徐々に水が枯渇する。30年ほど前にリレイラに水が湧き、我が国に交易を求めてきた時期と一致しますので、精霊の言葉は正しいものと思われます。」
おお。説明上手。
「・・・わかった。ご苦労。」
まだ、不機嫌満載のリオンに引き寄せられる。
「で?あなたは、精霊を解放する約束でもしてしまったのですね?」
「はい。やってみると。1日。待ってくださるそうですわ。」
タリスが苦笑する。
「レイちゃん・・・。安請け合いしちゃだめだよ。」
「対価は?」
リオンが尋ねる。
「何も要求されておりませんわ。だって、あの子を取られてしまうのですもの。」
「では、成功した折の対価は?」
「あの子が戻ってきますわ。」
「・・・欲がないねえ。」
ぽつりとタリスが呟く。
「ああ。頭が痛くなってきた。」
リオンが大きくため息をついて、後ろから抱きしめられたと思ったら、私の肩に顔を乗せる。
「ええっ?ごめんなさい。リオン、大丈夫です?」
「・・・じゃあ、考えますか。」
タリスの声が静かな夜の海に響いた。




