反省会という名の宴会とトラブル
「よーし、終わったー!!!飲むぞー!」
船に戻った瞬間、ラナスが叫んだ。
わらわらと人が出てきて、出迎えられる。
「席の用意は出来ております。」
そう言って、船内の会議室に通される。リンゼイは辞退して、部屋に戻った。
「結界を張っているから、明日朝まで全員、休みね。」
ニコニコとタリスが言い、
「全ての者に飲酒を許可する。」
リオンが許可を出す。
パタリと扉が閉められたら、タリスとラナスが笑い出した。
「もー、リオン、本当に最高。やっぱ、上手いよね。」
何を笑っているのだろう。
「1番楽しんでいただろう?奥方にもヤキモチを焼いてもらって、よかったな。」
ラナスの言葉に、私が真っ赤になる。
「まあ。何の事ですの?」
知らんぷりするが、リオンが離してくれない。
「やっぱりお前達にはバレたか。リレイラで気がついた者がいると思うか?」
リオンが尋ねる。
???
疑問ばかりの私に、タリスが説明してくれる。
「レイちゃん。リオンあの王女が嫌だったから、リングのせいにして触られる前に弾き飛ばした上に、あの瞬間、照明器具に魔力を逆流させたんだよ。本当にタチ悪いだろ。微弱に流して、本体ブチ壊したんだから。もう、おかしくってさ。」
そう言って、なお笑う。
はああ?あの停電って、原因、リオンなの?
「バレてないんじゃない?もう、魔力は辿れないだろうし。もし、言ってきたらリングから伝ったのか?とでも惚けてやればいいんだよ。」
ラナスさんも、慣れてる。
「あの場にいた者で、冷静に動いていた者はいませんでしたので。杞憂かと。」
ルークスタッドの言葉に、リオンが頷く。
「あーあ。発電魔導機壊されただけで、まだ復旧できないんだね。予備すら置いてないのかなぁ?切り替えりゃ済む話なのに。いつまで真っ暗生活するんだろうね。」
船外を見ながら、タリスが言う。
「皆さんが目茶苦茶だというのがよーく、解りましたわ。」
ぼやくと、
「すぐ慣れるよー。レイちゃんも半年後には、それがどうか?みたいな顔するようになるよー。」
タリスの言葉に続いてラナスさんまで、
「もっと早く慣れるんじゃない?」
と言い出す始末。
「それにしても、見事にクランガルドの言った通りになったな。」
リオンの言葉に、タリスが考え込む。
「聞いていてよかったよ。色を見た瞬間に対応出来たから。」
「クランガルド?帝国と接触したのか?」
ラナスさんが尋ねると、頷いてタリスさんが今朝、帝国の貴族女性と会った出来事を説明する。
「まあ、すぐに風を起こしたから毒に関しては使用人の人達も今頃は回復してるだろ。神経に作用するみたいなのに、あんなのよく使うよな。」
タリスの言葉に
「馬鹿なんだろ。」
と、ラナスさん。
「明日の朝って、どうするのさ?」
ラナスさんの質問に
「ルークに任せる。」
と、リオンが答える。
「はい。」
ルークスタッドが頷く。
「うわぁ。ただでさえ涙目だったのに、毟り取られるんだね。お気の毒に。」
ラナスが言う。
毟り取られる?そういえば、そうだ。
学院で王子に不用意に近づく者は、王子の氷と呼ばれたルークスタッドが冷たくあしらっていたし、学力では王子に及ばないものの、彼は非常に優秀だった。
「もしかして、学院でのテストって手を抜かれてました?」
ルークスタッドに尋ねると、コクリと頷く。
うわあ。ここにもいた。規格外。
本当に、王子に近寄らなくて良かった。
「さて。タリス。王城に行って、新たに何かわかったことは?」
「王城の裏手の崖側に何か隠してるな」
「崖に問題のつる草も自生しているようだが。」
「そこに行けば何かわかるか?」
リオン、ラナスの問い。
「それがね。精霊の気配がするんだよね。しかも上位精霊の。」
「リレイラ側についているという事か?」
「わからないね。この世ではほとんど精霊を見ることができないから。」
「おいタリス。お前、精霊見えるようになったのか?元々、魔力量が多すぎたのに、転移する魔術まで使えるようになってるしさ。そんなに強くなってどうする?」
会話していると、ラナスがタリスに呆れ顔で突っ込んでいる。
「ええ?何もしないよ。僕は魔道具作って過ごすの。」
「ったく。欲の無い事で。」
「欲ばっかりだけど。」
キョトンとして話すタリスさん。こんな時は素なのかな?かわいく見えるな、この人。
「どこがだよ。」
「じゃあ、仕事が~とか、言わないで王都で集まる時は来てよ。」
「なんだそりゃ?」
2人の話に、リオンが釘をさす。
「脱線しすぎだ。」
「「すみませーん。」」
被ってる。何なの?そんなに仲いいの?
「どうにかして王城の裏は確認したいところだが。」
「うん。そうだね。でも・・・。行けるかもね。」
窓の外を見ながらタリスが話す。
「どうやって?」
ラナスが尋ねる。
「リオンが停電させてから、徐々にその力が強まっているんだ。僕が結界張ってるからわかりにくいと思うけど。外、ザワザワしてて。」
そうなんだ?全然わからない。
「何か変わったことがあればすぐに動くぞ。」
「わかってるよ。」
「ねえ、ルークスタッドに任せるとおっしゃってましたけれど。明日はどうなさるつもり?」
私が聞いていないだけで、方針が決まっているのだろうか?
ルークスタッドが頷いて話し出す。
「説明させていただきます。本日の交渉決裂は、原因がどうあれ元から決裂するのが織り込み済みでした。王女の性格も調査済みです。当初予定は第3王子殿下にリレイラに婿入りしていただく予定でしたが、レイローズ様に干渉したリレイラの背後に帝国の存在が確認されておりますので、まあ役に立つ第3王子には国内に残っていただいて、リレイラには属国となっていただく事に致しました。午前中には交渉終了しますので、皆様、午後にはリレイラからの帰路に就かれることになります。私はリレイラに睨みを聞かせるために、1週間ほどこちらに滞在しますが、後発でロイメールを出ている文官、騎士、魔術師がこちらに到着次第、引継ぎを済ませて戻ります。」
「わかりました。」
ずいぶんと、方針は決定しているようで。もう、後発が国を出立しているなんて。本当、1国潰す気満々じゃない。
まあ役に立つ、という表現が、ルークスタッドから見た第3王子の評価か。厳しいなぁ。まあまあ役に立つでは無く、まあ、って。何て微妙な。そんな風に見ながら学院生活を送ってたのかしら?
その後も、穏やかに皆が飲酒をしながら話をする。
もっぱら、私は聞き役だけれど。あまり酒は強くないので、私は1杯シェリー酒を飲んだ後は、レモン水を飲んでいる。
皆、本当に仲がいいようで。
ラナスさんが、チームリオンだと言っていたけれど。男の人同士の結束の固さは、憧れるものがあるなあ。
宴会がお開きになって部屋に戻っても、眠気が全くしなかった。
部屋から見る王城はまだ暗い。
反対に、城下は電源が別なのだろう。オレンジの灯がともり、斜面に沿って立ち並ぶ家の灯で、美しい夜景だ。
「外に見に行きますか?」
リオンに尋ねられ、頷く。
馬車の中から見た小さな露店とか、見てみたかったなあ。それこそ、護衛についてもらわないと出られない今は、私の我儘になってしまうから行けないけれど。
船の船首に出る。
昼間の熱気と違う、温かい風。湿気が無い分、とても気持ち良い風。
そこで先客がいることに気が付いた。タリスさんだ。
キセルで煙草を吸うタリスさん。喫煙者だったのか。風にのって、煙草の匂いがするが、強くはない。・・・女性用?
「・・・煙草に余計なものを混ぜていないだろうな?」
リオンが尋ねる。
「ああ。別に何も。」
タリスさんは、私を見てからキセルの中身の煙草を船の縁に当て、トントンと叩いて落として捨てた?
なんだか、喫煙タイムを中断させたみたいで申し訳なく。
「お前がみていたのは、王城の裏か?」
リオンの言葉に、タリスが頷く。
「風と波の音と共に、じわじわと精霊の力が広がっている。僕が精霊を見る事が出来たとして。敵対されたら説得できるとは限らない。せいぜい、中位精霊しか話した事がないからね。下位の精霊は上位精霊の手下みたいなものだから、アレがいる限り、何も教えてくれないみたいで。何にも話してくれないんだ。」
目を細めて城の方を見るタリスさん。
細身のその身体に、その顔の良さ。表に出たらさぞかし人気になるだろうなあ。全く。リオンの周りは、顔面偏差値が高い。そんな、つまらないことを考えていた時だった。
パンッ!
小さく音がして、結界が壊れた。
「しまった!」
叫んだタリスさんの視線の先にいたのは、私たちの部屋のベランダの手すりの上に立つ少女。
「さっきまで寝ていたのに。」
私の声に、ふっと少女がこちらを見て、私の前に空を舞うようにふわりと降り立つ。
でも、その目は空いているけれど、虚ろで。
何かが違う。あの、泣いていた子供ではない。ゾクリとして、全身に鳥肌が立つ感覚。
〖この器をもらい受ける〗
少女から発せられた言葉は、女性のような響きを持つが、全く異質な音で。
身体が動かない。
ふわりと少女が海に飛び込むように見えたその時、異常を感じてか?どこからか現れたルークスタッドの光の魔法が少女にクルリと巻き付く。
が。まるで逆に引きずられるようにルークスタッドが船の縁まで引きずられる。
目の前を引きずられるルークスタッドの上着の端をつかんだ。
そう思った瞬間、水の中に飲み込まれたのを感じた。




