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回避出来た令嬢は?  作者: 明月 えま
第3章・南国リレイラ編
33/63

魔術船

早朝から、馬車で1橋の船着き場へ行き、魔術船に乗り込む。船着き場にはタリスさんが待っていて、まるで、遊びに行くかのように気軽に声をかけられた。


旅程は順調に始まった。


クロー川の川幅は下流に行くにつれ、徐々に広くなる。前世の日本にはなかった川幅だ。


テレビで見た黄河のようだと思った。

砂漠がない為、クロー川の水は綺麗に澄んでいる。


船の縁から、泳ぐ魚が見える。

水が沢山あるけれど、やはり精霊はいない。


魔術船の通行に合わせて川に規制がかけられたようで、他の船の通行が少なく、夕方には国境を越える予定。

南国境の河川管理はハイアード伯爵家が担っている。伯爵家の次男、ラナス・ハイアードとリオンは学院での同級生らしい。


ハイアードは河川管理の実務を担っているためホバル国内にも顔が効くらしく、国境でハイアード家の者が数人乗り込んで、リレイラまで同行すると聞いた。


それから、乗船時に久しぶりに同級生のルークスタッドを見た。そう。王子の学友として、いつも一緒にいたゲームの攻略対象者。ほとんど関わっていないし、今更、何か関係が変わる事は無いだろうとわかっていてもどこか落ち着かない。


どうして、彼が同行するのか。


その問いは魔術船で昼食を取っていた時にわかった。

「ローズ。まだ、攻略対象者が苦手?」

リオンに尋ねられる。

「苦手ではありませんけれど。不思議な気分です。」

「そうか。ルークは、リレイラに残り、実質的にリレイラを掌握してもらう。」


「えっ?でも、彼はアーサー王子の学友で、王子の片腕ではありませんの?」

「護衛につけていただけだ。あれは、もとは陰だからな。」

「そうなんですか。」

知らなかった事実だ。そんな設定なかったよね。


「あれは、私が学生時代に官吏の勉強で、メイオス前宰相の地方視察に随行した時に拾ったんだ。」

「拾った?」

「ああ。ルークは孤児だ。私を裏切らない。君に危害を加えることは絶対に無い。」

「そんな心配はしていませんわ。」


「船に乗っていたら、話すこともあるだろう。ルークは護衛も兼ねるから、そのつもりで。」

「ええ。わかりましたわ。」

操舵室上の特別室。

そんな部屋で、船旅にしては優雅な昼食。


魔術船は、前世での高速艇が大きくなった感じではないだろうか。

外洋を行く船ではない為、大きすぎることもないが、小さくもない。

川の流れに乗ってると言っても、かなりスピードが出ている。


夕方、早くにハイアード領の船着場に着いた。

ハイアード家の方々が乗船し出港する。

操舵室にてラナス氏と初めて会う。


「久しぶりだな。」

ラナス氏は笑顔でリオンへ話しかける。

「ああ。君はなかなか王都へ顔を出さないからな。」

「時々、声かけてもらったのに、行けなくて悪かったよ。ホバルのせいで忙しいんだ。皆、元気か?」

「ああ。変わりない。」

2人はとても仲が良さそうで、なぜか見ていてうれしくなる。


「ご挨拶が遅れて申し訳ない。ラナス・ハイアードと申します。リオンとは、同級。」

私を見て、柔らかく笑う。

「レイローズです。よろしくお願い致します。」

淑女の礼を返す。

「リオンをよろしくね。」

彼の周りの人は私に優しい。これは、彼の今までの努力の結果なのだろうか。私の方が守られてばかりなんだけれど。


「さて、リオン。乗り込んですぐなんだけどね。あと15分という所かな。」

「わかった。」

??

いつもの、彼らだけにしかわからない、阿吽の呼吸のような何かへの備え。


リオンの周りは、これが多すぎる。


一緒にいてもサッパリ分からない。


「ルークを出せ。ガザスは船尾に。」

リオンが指示する。


もう、日暮れだ。随分、外は暗くなっている。

高速で川を下る魔術船の上に、フワリと舞い降りる1人の影。あれは…ルークスタッド?

船は高速の為、風が強い。


「風が強くて危ないわ。」

つい、思った事を口走る。

「大丈夫だ。見ているといい。あれの舞など、滅多に見られないぞ。」

楽しそうに言うリオン。

「へえ。あれ、リオンの秘蔵っ子だっただろう。アーサーに貸してたのに戻ってきたのか。」

秘蔵っ子?


後姿しか見えないが。彼は何を思っているのだろう。目を凝らしても前方には何も見えない。何があるというのか。


「来たよ。」

いつの間にか、タリスがいる。

突如、前方に現れた船影。


皆がルークに注目する。

「補助はいるか?」

ラナスの問いに、

「いや、ルークもそろそろ力を解放したいだろう。好きにやらせるといい。」

と、リオン。


「殺さず捕らえろ。」

リオンの言葉に、ルークが振り返り、手を振る。


船影がはっきりと見えるようになった時には、魔術の攻撃が向かってきていた。


外の音は聞こえないが、まるで、重量など無いかのように、ルークが跳ぶ。


その手からキラリと光る幾筋もの光。放射状に何本も伸びるその光に触れた途端、魔術の攻撃が霧散する。


その魔力の残滓は、水飛沫と混じりあってキラキラと光る。


敵船?からこちらの船へ、乗り移ろうとする者達。魔術師や戦士。約10人はいるか。


まるで、映画の殺陣を見ているかのようだ。ルークは軽やかに相手を避け、その手から伸ばした光の線で相手を叩きつけ、次々に絡め取っていく。


舞と言った意味がわかったような気がする。相手を絡みとりながら、くるりくるりと回って、避けているように軽やかに動きながらも、あっという間に、船首には、敵?が転がされていく。

アクション映画のようだ。あれが本当に人の動きなのだろうか。


「ホバルか?」

リオンの問いに答えたのはラナス。

「ああ。軍部の端くれだな。クーデターで統率がとれなくなっているんだろう。大方、盗賊落ちしていると見て構わない。」

「体制の崩壊による治安の悪化がひどいな。迷惑を被るのは民衆だというのに。上層部は素知らぬ顔で蓄財に走っているぞ。全く嘆かわしいことだ。」

タリスが目を細めて言う。


「クリード卿に恩を売っておくか。」

呟くリオン。

「レオ。」

「ここに。」

黒衣の男が不意に背後に現れる。

「ホバルの残党だが。中堅の権力者だろう。河岸まで奴らの船で行って、引き渡して来い。追いつくのはリレイラでかまわん。」


「はっ。」

更に深く頭を下げてフッと消える。


船首に目を移すと、ルークスタッドが手を振ると同時に捕縛された者たちが、弾かれたように、向こうの船に飛ばされて落ちて行く。


彼がこちらを見て、笑った。

その笑みは、子供のように見える無邪気さ。


「ご苦労。戻れ。」

リオンが言うと、ルークスタッドかクルリと回った。

後ろで束ねられた髪と、長い上着がふわりと浮く。


スッと消えた。


「戻りました。」

部屋の入り口にルークスタッドが立っている。早い。何でどうして?


「ご苦労だった。腕は落ちていないようだな。」

「そのつもりです。」

ふ、と笑う。

「ルーク。面と向かってレイローズに会うのは初めてだろう。」

「はい。レイローズ・グラート様。ルークスタッドでございます。卒業以降、初めてお話致しますね。以降、よろしくお願い致します。」

従者のように、礼を取られる。

陰だと言われたが。学院にいた時とあまりに雰囲気が違いすぎて知らない人のようだ。


「…レイローズです。貴方の主人は国?それとも、リオン?」

ニッと笑うルークスタッド。


「単刀直入にお尋ねになるんですね。私の主人はリオン様です。」


「そう。まるで違う人みたいだわ。」

「ええ。王子の学友を演じておりましたから。」


「笑うのね。いつも、気難しいお顔で王子に従っていた記憶しかないわ。」

「クソつまんなかったですから。」

ええっ?言葉遣いが。


「ルーク。」

「喋りすぎました。申し訳ありません。」

リオンに名前を呼ばれただけで、下がる。



「久しぶりだな。元気そうで何より。大きくなったじゃないか。」

ラナスが声をかける。

「ラナス様、タリス様、ご無沙汰しております。」

笑顔のルークスタッド。

皆して知り合いなのかと驚く。


「レイちゃん、不思議そうだね。リオンがルークを面倒見てた時に、僕たちは学院でよく一緒にいたからね。リオンは周囲を知り合いで固めるだろう。船の船員も知り合いばかり。安心して過ごすといいよ。」

ニコニコとタリスさんが笑う。

「そうだな。あと2日はかかる。話す時間はたくさんあるだろう。」


少しのアクシデントに見舞われながら、航行は進んでいく。

リオンと共に部屋に戻り、夕食をとる。

船上では、特にすることも無く、本を読んでいたら眠たくなってしまい、リオンに促されてベッドに入った。

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黎明 ルークスタッドの後日談、連載中 不器用令嬢、騎士になる カイウスの恋愛話、主に嫁視点を書いてます。  こちらもよかったら読んで下さい。
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